見出し画像

【インペリウム】国別デッキ解説 ローマ


このマガジンでは、ボードゲーム「帝国の時代:インペリウム・クラシック」(以下インペリウム)に出てくるデッキを国ごとに、歴史的観点で解説していきます。
ゲーム上のシステムや攻略についての解説は一切ありません。ご了承ください。
また、インペリウムをプレイする(orした)方が読んで楽しんでもらえるような構成にしています。そのため、インペリウム内の用語を多少含むことをご容赦ください。用語がわからなくても読み進められるようにはしているつもりです。

「帝国の時代:インペリウム・クラシック」とは?

ただのゲーム紹介なので、デッキ解説を見たい方は飛ばしてください。

箱です。

デッキ構築型対戦ボードゲームになります。
8種類(レジェンド版も組み合わせれば16種類)の国や文明を選び、それぞれ決められたデッキの中でいかに強大な帝国を築く(ポイントを稼ぐ)かを競うゲームです。
用語と得点計算がやや難解ですが、それさえクリアすればかなり楽しいです。デッキごとに方針がかなり違うので、何度でも楽しめます。4人までプレイできるそうですが、かなり時間がかかると思います……。2人、多くて3人が楽しめるのではないかと思います。まあ、執筆時の私はまだ1人でしかプレイしていませんが……。
特に世界史好きにとっては、よく知っている国から「マニアックだな~」と思う文明まで様々なデッキが登場するので、見ているだけでもとても楽しいです。
気になる方は是非ご購入を!(宣伝)

ローマざっくり解説

ここから本編です。
今回はローマについて説明していきます。
インペリウムに出てくる国・文明の中ではかなりメジャーですが、1枚1枚カードを見ていくと高校世界史履修者でも「?」となるカードが出てきます。これがまた楽しいのです。
そんな楽しさを多くの人に知っていただくために、1枚1枚の解説をしていきます。……が、ローマ自体がどんな国なのか説明してから詳しい解説に入ろうと思います。

ローマは、紀元前753年に英雄ロムルスとレムスによって建てられたとされています。あくまで神話の話ですが、ロムルスがローマ初代王となり、ローマの名前の由来となったとされています。

狼の乳を吸うロムルスとレムス。「あつまれどうぶつの森」で出てきますね。

史実上では、紀元前7世紀までには国家として成立したと言われています。しかし、はじめの領土はローマ市内だけです。ここから徐々にイタリア半島→シチリア島→ヨーロッパ各地&エジプト→…と領土を広げていきます。
最終的(1世紀前半)に、以下の通りの領土となりました。でかい。

濃い緑が最大領土、普通の緑が間接的に支配した領域。黒線は現在の国境線。

しかし、そんなローマ帝国も終わりの時が来ます。政治の腐敗や混乱、そして異民族であるゲルマン人大移動などが衰退の原因です。ちなみに、ゲルマン人大移動によるローマ帝国の危機を舞台にしたボードゲームがあります。現在(2023年8月)は品薄ですが、気になる方はチェックしてみてください。アマゾンでは売っていませんでした……。

さて、インペリウムは蛮族から帝国に発展していくゲームです。それぞれの時代で使えるカードが決まっているのですが、ローマはその辺が非常に分かりやすくできています。よって、ローマ全体の流れがざっくり分かっているとインペリウムがより楽しめるかな、と思います。歴史の流れが分からなくなったらここに帰ってきてください。

王政…ローマの始まり。領土はローマ市内。
共和政…領土が広がり始める。カエサルはこの時代の終盤に登場。
帝政…ローマ帝国、と呼ぶのはここから。トラヤヌスはこの時代の初めの方に登場。

厳密に言えばもっと細かく分けたいところですが、ゲームを理解するためにはこのくらいで十二分です。

カード解説

ここからカード1枚1枚の解説に入っていきます。ただ、全部説明すると煩雑になるので、固有名詞(人名や出来事、地名など)のカードのみの説明とさせていただきます。
順番はカード左下の番号の若い順です。

ユリウス・カエサル

英語で言うと「ジュリウス・シーザー」。ローマの中でもトップクラスに有名な君主ではないでしょうか。
彼のすごいところは色々あります。

まず、異民族の平定のために今のフランスあたり(当時の呼び名はガリア)へ遠征して武勲を立てていました。この時に現地の人々や戦いについて記した著書が『ガリア戦記』。ラテン語としてとても整った文章です。ラテン語初学者はこれをテキストにするそうです(と史学科の友人が言ってました)。文武両道ですねえ。

さらに政治のライバルをなぎ倒して独裁者になったこと。先述の時代区分で言うと共和政、つまり絶対的な君主がいない時代のローマの人です。しかし、彼は一緒に統治していたライバルであるポンペイウスやクラッススとの戦いに勝ち、独裁権を握ってしまったのです

しかもこの時、エジプトのファラオクレオパトラと恋仲になり、子どもも授かります。つまりエジプトの次期君主を彼の家系から出したのです。ちなみに子どもの名前はカエサリオン。まんまだな……。

独裁権を握ったカエサルは色々な改革をします。例えば暦をつくりました。その名を「ユリウス暦」と言い、太陽暦を用いた暦です。これができたのは紀元前1世紀ですが、なんと16世紀後半までこの暦は使われていました。約1500年間、ヨーロッパはカエサルがつくった暦で動いていたことになります、すごい。

そんなカエサルの強さがこのカードに出ているのでしょうか、使えるのは1ド限りとはいえ、フリープレイでカードを2枚引くor領土か民衆カードを取得するというかなり強いカードです。
そして歴史好きとしてエモいのは、このカードを捨て札においた瞬間に「帝国」へと状態カードが変わることです。正確にはカエサルの死後、オクタウィアヌスからローマの帝政が始まりますが、皇帝という意味のドイツ語「カイザー」の由来にもなったカエサルが時代の転換点のカードとして使われているのは納得です。

ちなみに、ダイソーのカードゲーム「イジンデン」にも彼が出てきます。そこでもっと詳しく話そうかと思っています。後日、書き終えたらここにもリンクを載せます。

元老院

さくっと知りたい方は以下の動画を見てください(宣伝)。以下で説明する内容は動画とほとんど同じになります。

そもそも元老院とはどういう意味なのか。ラテン語senatus(「古い」から派生した言葉)を日本語に訳したものです。英語で言うとSenate。つまり上院です。

ローマでは初期から成立していた機関です。はじめは各氏族の長老たちが集まっていましたが、次第に貴族の集まりとなりました。
貴族が集まって何をしていたのかと言うと、政治についての意見を出していました。実際には政務官が政治を行っていたのですが、任期が終身の元老院の方が力を持つようになりました。

ところが、元老院の権力を奪って独裁者になる人が出てきました。それがカエサルでした。まあ、これが反感を買って暗殺されるのですが……。
次に出てきたオクタウィアヌスは元老院の意見を尊重しましたが、実際にはこの人から帝政、つまり皇帝が権力を握る時代が始まります。
そして、徐々に元老院の意見より皇帝の権力の方が遙かに強くなります。

といったように、帝政より前の方が元気だった元老院。インペリウムではなぜか帝国に状態カードが変わってからでないと使えないカードです。まあゲームだし……。と思いつつモヤモヤ。

トラヤヌス皇帝

先ほど紹介した、ローマ帝国最大の領域を治めた時の皇帝が彼です。今のルーマニアを占領し、メソポタミアを一時占領した強い皇帝です。
時代で言うと紀元後1世紀前半、漫画『テルマエ・ロマエ』よりほんの少し前の時代です。この功績もあって、後世の人にもかなり賞賛されています。

そもそも、彼を含めた5人の皇帝(世界史用語では「五賢帝」)の時代は「パクス・ロマーナ」と呼ばれています。日本語に訳すと「ローマの平和」。ローマが平和で繁栄していた全盛期のことです。

そんな彼が状態カードが帝国になった後の時代に使えるのは納得です。
カードの効果もやはり強いですね。何でも取得できます。

パンとサーカス

紀元前の中小農民の没落を風刺した言葉です。
当時、ローマはイタリア半島外に領土を広げるべく戦争を幾度も行っていました。この兵士の中には自腹で戦争に参加する農民もいます。これはお金持ちの農民が政治的な権利を得るために行うことで、古代ギリシアでも同様のことが起きています。

しかし、ローマの領土拡大は留まることを知りません。繰り返される戦争。その間に農民は自分の農地を管理することができず、やがて農地は荒れ果ててしまいます。しかも自腹で参加しているのでお金もなくなります。
こうして財産が無くなった農民(無産市民)は都市に流入し始めます。こうした人々に権力者は無償でパンと娯楽(=サーカス)を与え、人々は「働かなくていいや~」と堕落していきます。これでは政治に関心を持つ人もいなくなります。だって働かなくていいから……。

という状況を風刺した言葉が「パンとサーカス(ラテン語でpanem et circenses)」です。

ちなみに、「サーカス」とは現代でイメージするような曲芸などではありません。競技場で行われた、馬車レースやカードにあるような剣闘士の試合などのことを指します。ちなみにこの「競技場」はラテン語で「circenses(キルケンセス)」。今で言うサーキットのことです。サーカスもサーキットもサークルも、語源を辿ればつながっているのです。

ガリア・アクィタニア

地名です。以下の地図の赤いあたりです。

Wikipediaより

現在のフランス南西部、アキテーヌ地方にあたります。ボルドーを含む地方、と言った方が分かりやすいでしょうか。ボルドーは今も昔もワインの産地ですね。
ガリア、とは今のフランスあたりの地域です。正確にはガリア人(ケルト人の一派)が居住した地域なので、フランスよりもうちょっと広い地域です。
先ほどカエサルのところで紹介した『ガリア戦記』のガリアです。カエサルのこの著書が、当時のガリアを知る有力な手がかりになっています。
有名なはじめの一文はこんな感じです。

Gallia est omnis divisa in partes tres, quarum unam incolunt Belgae, aliam Aquitani, tertiam qui ipsorum lingua Celtae, nostra Galli appellantur.

ざっくり日本語訳
全ガリアは3つに分けられる。一つはベルガエ(現在のベルギー)、二つ目はアクィーターニー人が、三つ目には彼らの言葉で「ケルタエ」、私たちの言葉では「ガリア人」と呼ばれる人々がそれぞれ住んでいる。

ここに出てくる「アクィーターニー人」がアクィタニア、そして現在のアキテーヌの語源になっているのです。

ラエティア

これもまたローマの領土の一つです。場所は以下の地図の赤いところ。

マニアック……。正直に言います、知りませんでした。
現在のスイス東部やドイツ南部、などを含む地域です。
ラエティア人は分かっていないことが多いそうです。ローマの歴史家リウィウスはローマをかつて支配していた民族エトルリア人がルーツだとしていますが、それもどうだか……。

有名な都市はトリデントゥム、今のトレントになります。
他にもアウグスタ・ウィンデリコルム、今のアウクスブルクがあります。アウクスブルクは字面が全然違うのでびっくりしますが、名前の由来から考えると納得です。「アウグスタ」はアウグスティヌス、つまりローマ帝政始まりの君主オクタウィアヌスのこと。「ウィンデリコルム」は元々このあたりに住んでいた民族の名前です。そう、アウクスブルクの由来はアウグスティヌスにあるのです。

元ネタがマニアックなだけに説明もマニアックになってしまいました……。なぜこのチョイス??

三頭政治

帝政になる直前の政治です。3人の有力者が権力を握って政治を行った時代のことです。全部で2回行われました。

第1回三頭政治…ポンペイウス・カエサル・クラッススで行われました。それぞれ支配する領域を決めて統治していました。しかし、先述の通りカエサルは他の2人を倒し、独裁を敷くことになります。

第2回三頭政治…アントニウス・レピドゥス・オクタウィアヌスで行われました。しかし、これもまた対立して崩壊します。
有名な戦いが、クレオパトラが自決するきっかけとなったアクティウムの海戦です。クレオパトラとその愛人アントニウスはオクタウィアヌスに敗れ、オクタウィアヌスがその後ローマの覇権を握ることになります。

帝政が始まる前、と考えると状態カードが蛮族の時に三頭政治が来るのは納得……ですが、カエサルで帝国に変わるんですよねえ。微妙にずれる、うーん……。

ダルマティア

今のクロアチア南部、アドリア海沿岸一帯のことです。以下の地図の濃い紫の部分です。

Wikipediaより

実際にローマが治めたダルマティアはもう少し広大な領土です(以下の濃い赤のところ)。

ローマ帝国崩壊後は東ローマ帝国、フランク王国、ヴェネツィア共和国、ハンガリー王国、オーストリア帝国……などなど、色々な国の領土になりました。
1991年にユーゴスラヴィアからクロアチアが独立したことで、現在まで続くクロアチア領となっています。

カードのイラストにも描かれているように、港が有名です。先述のヴェネツィア共和国がダルマティアを狙ったのも、入り組んだ海岸線による天然の良港が理由でした。

あとがき

以上、インペリウムに出てくるローマのデッキのカード解説でした。
勢いで書いていたら5600字超えました……。このペースで全デッキ解説できるのか??まあ、マイペースにやります。

余談
この記事を書いている日に、ローマ帝国のネロ皇帝の劇場が発掘されたニュースを見ました。。ローマはしばしば何かが発掘されるのでアツいですね。現地の建築関係の方々は胃が痛いでしょうが……。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?