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観光マーケティングはなぜ「ズレている」のか~ズレの正体とその構造②:製造業マーケティングとサービスマーケティング~

マーケティングにも種類がある

前回は、観光マーケティングが「ズレる」第1の理由としてプロモーションとマーケティングの違いについて説明しました。

プロモーションとマーケティングの違いについては、多くの人が主張しておりますし、マーケティングを少し触れたことがある人であれば良く知っているという人も多かったのではないかと思います。

ただ、観光マーケティングがズレる構造にはまだまだ続きがあります。いわばズレの第2ステップですね。そのズレはマーケティングにも種類があるということです。

日本のマーケティングは製造業が中心

今ではネット上でも数多くのマーケティング理論に関する記事が掲載されています。ただ、日本の記事を眺めてみると「マーケティング理論」と書いてあるときに暗黙の前提になってしまっているような感じがします。それが製造業を対象にしたマーケティング理論ということです。

もともと、マーケティング概念は製造業からスタートしています。その意味では製造業を対象にしたマーケティング理論(以下、製造業マーケティング)は元祖マーケティングであり出発点です。その意味でマーケティング理論として製造業マーケティングを説明するのは一般的ですし、普通のことだと思います。ただし、それをそのまま観光に当てはめるのは危険です。なぜなら、観光は製造業ではなく、サービス業だからです。

マーケティングという概念が誕生してから、様々な分野がマーケティング概念を様々な分野に適応させようとしました。観光の場合には、ドイツのクリッペンドルフという研究者が1971年にマーケティング概念を観光に適応させた本として「ツーリズム・マーケティング(原題:Marketing et Tourism)」という本を書きました。

この本は観光業においても製品の改善を志向する「製品志向」から顧客満足を志向する「顧客志向」を追求しなければならない時代がくるということを指摘し、その方法としてマーケティング概念を観光に持ち込んだものになります。

クリッペンドルフは観光には製造業マーケティングの論理では上手くいかない事象が数多く存在しており、観光独自のマーケティング概念を提唱したわけです。(もっとも、クリッペンドルフ自身は自分は完成できていないと認めており、それは今後の宿題としています)

観光事業はサービス・マーケティング

観光というビジネスは製造業ではなく、サービス業になります。サービスには製造業にはない独自の特徴が存在しています。本稿では細かいところまで踏み込みませんが、一般的にはサービス財には「無形性」「同時性」「異質性」「消滅性」といった特徴が存在しており、特性としては一般的に経験特性を持っていると言われます。ここでは、サービスは製造業とは違った側面をたくさん持っているというくらいの理解でOKです。(詳しく知りたい人はサービスマーケティングに関係する本を読んでみてください)

ここで重要な点は観光事業者のマーケティングは製造業の論理ではなく、サービスの論理があるし、それに特化したマーケティングの研究や理論が存在しているということです。そして、そのサービスマーケティングを更に観光へと特化させていこうと研究が進められています。

この辺が厄介なのは、ある程度までは観光も製造業マーケティングで説明できてしまうということです。そのため、製造業マーケティング概念で観光を語っても正しいこともありえます。ですが、製造業の発想で観光をはじめとしたサービス業のマーケティングを推し進めていくことには大きな弊害があります。例えば、下記の論稿は、世界の産業構造の変化といった大きな背景も含めて書かれています。

観光マーケティングのズレはまだ続く・・・

これで、観光マーケティングがズレる第2の理由が分かりました。それは製造業マーケティングとサービスマーケティングの混同ということです。前回の記事と併せると下記のズレを確認できました。ズレの構造が非常に複合的になっていることが分かります。

第1のズレ:プロモーションとマーケティング
第2のズレ:製造業マーケティングとサービスマーケティング

じゃあ、サービスマーケティングをすればOKだ!!ということなのですが、ところがサービスマーケティング理論を使っても観光マーケティングがズレてしまう時があるのです。そして、現在の日本ではこのズレがあまり知られていません。次回は最後のズレについて、その構造を明らかにします。

もっと知りたい人のために

この記事は下記の私の著作を基に書いています。記事で書いた内容に興味を持ってさらに知りたいと思った人はぜひ読んでみてください。

参考文献
Krippendorf, J.(1971)Marketing et tourism. Herbert Lang.


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