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物流の2024年問題とエンタメ業界

物流の2024年問題って?

「2024年問題」は、時間外労働の上限規制など働き方改革関連法の施行に伴い、物流業界で様々な問題が生じると危惧されている問題です。
労働時間が規制されることで、ドライバーの収入減少や離職、運送会社の売上の減少、運賃値上げの可能性、物流全体の運送量の減少などが指摘されています。

エンタメ業界にとっても大きな影響があると考えられるのですが、あんまり話題になっていないような気がしているので、分かる範囲でまとめてみます。

時間外労働の上限規制

物流業界では、トラックドライバーの労働環境を改善するために、2024年4月から時間外労働の上限が年間960時間に規制されます。
時間外労働の上限規制によりドライバー一人当たりの走行距離が短くなり、長距離で荷物が運べなくなると懸念されています。

例えば全国ツアーに出た場合、長距離の移動にかかる労働時間はもちろん、公演先での待機時間も荷待ち時間として拘束時間と計算されます。一人のドライバーだけで全国ツアーに帯同する事が難しくなる可能性が出てきます。
搬入が終わった後、トラックは公演地に置いたまま公共交通機関を使って一度事業所に戻るなどの対策が必要になるかもしれません。

また運転している時間だけではなく、搬入時、撤去時の荷待ち時間も労働時間として計算に入るため、長い時間劇場の外で待機することができなくなり、トラックを計画的に呼び込むなどの対応が必要になるかもしれません。
手積みがほとんどの業界なので荷物を積み下ろしする時間も他の物流に比べ時間がかかることも上限規制された労働時間に大きく影響が出ます。
照明、音響、舞台と1台のトラックで混載で積み回りすることなども時間がかかるため影響が出る可能性があります。

月60時間超の時間外労働への割増賃金引上げ

中小企業に対して月60時間超の時間外労働への割増賃金引上げが適用され、それに伴い運賃の上昇が懸念されます。

労働基準法では、時間外労働に対し原則25%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。働き方改革関連法により2023年4月1日から中小企業にも、時間外労働が月60時間を超えた場合、50%以上の割増賃金の支払い義務が適用されます。

人件費が大きく増加する上、撤去のあと22時以降の夜間の積み込みや運行が多いエンタメ業界にとってはより残業代の増加が懸念され運賃の上昇が考えられます。

勤務間インターバル制度

睡眠不足は事故につながるため、安全な運行にはドライバーの健康状態への考慮が不可欠です。
勤務間インターバル制度とは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に「一定時間以上の休息時間」を確保する取り組みです。運転手の「一定時間以上の休息期間」は、「継続11時間以上を基本とし、9時間を下回らないとする」と改正され、2024年4月1日から適用されます。
エンタメ業界の公演終了後の夜の撤去、積み込みに当てはめてみると、インターバルが「9時間を下回らない」場合、公演終了後に積み込むドライバーと朝返却に周るドライバーを別途手配する必要が出てきます。

ドライバー不足への懸念

今後は時間外労働に上限が設けられることで残業代が減り、ドライバー一人あたりのさらなる賃金低下が予想されるため、離職するドライバーが出てくる可能性があります。

もともとドライバーの高齢化や人材不足が懸念されているので、2024年4月以降より深刻なドライバー不足がエンタメ業界に大きく影響する可能性が考えられます。

また労働時間が規制されることで、運送会社の運行も制限されるためエンタメ業界だけでなく物流業界全体で運行量が減ることが予想されます。

現在でもイベント専門のトランポ業者だけではトラックが足りないため、一般の運送会社に外注を出しています。物流業界の運送量の低下で外注のトラックが対応できなくなる可能性もあります。
労働時間の上限規制は、一般の運送に比べ荷待ち時間や手積みで荷物の積み下ろしに時間がかかること、夜間の運行や長距離がが多いことなど、イベント関係のトランポに一般の運送会社が距離を置くことも懸念されます。

全国ツアーができなくなるかも

長時間労働を解消し、ドライバーの健康と安全な運行になることについては歓迎すべきことです。ただし今までのようなツアーの行程が組めなくなる可能性も出てきました。

ドライバーの労働時間の上限規制に加え、運賃のコストアップが予想され、今までのツアースケジュールとコストでは対応できなくなる可能性が高いです。

このことについてどこまで制作会社は認識しているのでしょうか?
来年のツアーなどはスケジュールを組んでいる可能性があり、ドライバーの労働時間と運賃の上昇を見込んで、スケジュールと予算を組んでいればいいのですが。

労働時間の上限規制で運送量が減ることが予想されているので、大道具は出来上がったけど、トラックがないので運べないとか、手積みで時間を減らすため、今までよりトラックの台数を増やしたりするなどの対応が必要かもしれません。
トラックの天井ギリギリまで荷物を詰め込んでなんてこともうできなくなるかもですね。

2024年以降は「全国ツアーは複数のドライバーでリレー運送をする」「積み込みと荷下ろしを別のドライバーが担当する」などの対策を取る必要が出てくると考えられます。

また運賃の上昇に対する対策として、一部区間を鉄道や船舶にシフトする「モーダルシフト」ということも検討する必要もあります。
ただしその場合はツアースケジュールなどを組み直す必要が出てきます。

エンタメのトランポの今後の課題

エンタメ業界のトランポは今後労働時間の規制に加え、燃料代の高騰でコストがよりかかることが予想されます。

労働時間が長く若い担い手が入ってこないのは運転手だけでなく各スタッフも同じ状況です。運転手やスタッフの待遇を良くすることを考えないとエンタメ業界の人材不足は改善されないと考えます。

いろいろなコストアップに対して、もうすでに高額になったチケット料金の値上げはなかなか反映できません。今までのような作品の作り方ではもう成り立たないのかもしれません。
10年20年先の作品の作り方を今から模索して実行に移していかないと、全国ツアーはほんとに成り立たなくなるかもしれません。

まずは主催者側とトランポとの間で2024問題について起こりうる課題についてちゃんと話し合うことが必要だと考えています。

物流の2024問題は僕たちの業界にとって大きな影響を及ぼします。
ドライバーの健康と安全な運行につながることは歓迎すべきことで社会が求めていることだとするのなら、エンタメ業界も社会に合わせて変革していく必要があると感じます。



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