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わかりあえない他者が集まって良い成果を出すために

NewsPicksの新書籍レーベル、NewsPicksパブリッシングより発刊された「他者と働く ──「わかりあえなさ」から始める組織論 (宇田川 元一)」を読んだ。

ものすごくざっくり要旨をまとめると以下の通り。


・組織の適応課題(関係性の中で生じ、既存の知識/方法では解決できない課題)を解決するためには対話が必要
・相手と自分が持つナラティヴ(立場などによって生まれる解釈の枠組み)は異なるため、基本的に相手とはわかりあえない前提で考える
・相手のナラティヴを観察し解釈する(相手との間の溝に橋をかける)ことで、適応課題を解決していく

こちらの書評がわかりやすい。


この本を読みながら、このナラティヴ・アプローチ、自分は無意識のうちにやっていたことに気付いた。

プロダクトマネージャーたるもの、様々な利害関係や責任を持つステークホルダーとのコミュニケーションが求められる。特に前職のリクルートは大きな組織であるし、一癖も二癖もある人ばかり。そんな中で大規模なプロダクト開発をマネジメントするとなると、ナラティヴ・アプローチをして相手との溝に橋をかけないことには何もできない。

例えば、何か大きな金額を動かす提案をする際に、説得すべき「偉い人」は数人いる。しかもこの「偉い人」は各々責任範囲が違うし、何よりこだわりが違う。ある人は収益に責任を持ち確実性にこだわる、またある人は集客に責任を持ちブランディングにこだわる、またある人はプロジェクト遂行に責任を持ちリスクにこだわる…
こんな環境で物事を動かすためには、各々のナラティヴを見極め、かつ各々が持つ自分への期待(相手のナラティヴの中から見た自分)も見極めた上で提案する必要がある。よって説明する人に応じて、資料の強調ポイントを変えたり参照するデータを変えたりして乗り越えた。これは非常に面倒ではあるが、かなり良いナラティヴ・アプローチの訓練になった。


この記事では別に「俺ナラティヴ・アプローチ知ってたし」と自慢したいわけではないし、この書籍を軽く見ているわけではない。逆にこのように言語化してくれたことに感謝してる。

なぜなら今思い返すと、過去にうまくいかなかった仕事はステークホルダーのナラティヴを見極められてなかったことに起因するものが多いことに気づけたから。

今まで無意識にやっていたので、そのナラティブ・アプローチが不十分だったことにも気づけてなかった。この書籍でナラティヴ・アプローチのポイントを知れたおかげで、過去の失敗の原因がわかり反省することができた。


いくつか抜粋しながら過去の失敗を振り返る。

どうも自分は自分の生きているナラティヴに気がつかないうちに囚われていて、「私とそれ」の関係に完全に陥っていたし、相手の痛みなどを理解せずに相手に変化を求めていたのではないかということです。自分は安全なところにいて、相手にリスクをとらせるといういびつな関係になっていた可能性がここからわかります。

BtoBサービスのプロジェクトマネージャー時代、ある問題が発生した時にプロジェクトを止める決断をしようとした。これは各ステークホルダーのナラティヴを理解したベストな選択だと思っていたが、実際は違った。このプロジェクトの停止によって顧客からの受注が減るリスクがあり、セールスからの反発を生み出してしまい、長期的な関係悪化につながってしまった。

自分は顧客と直接やりとりしているわけでもなく、売上に責任も持っていないので、まさに「安全なところから相手にリスクを取らせる」形になっていた。


適応課題を技術的問題だと考え、既存の知識やノウハウで解決しようと問題に挑むと溝に落ちてしまいます。溝がなかったり、溝がはっきりどういうものであるかがわかっていれば、技術的な問題解決は可能です。

プロジェクトマネージャーをしていた頃、組織やチームのコミュニケーションの課題を解決しようとして、様々なフレームワーク(会議体設計やタスク管理ツールなど)を適用しようとしていた。ただ溝(=ナラティヴの違い)がどこにあるのか見えていない状態でフレームワーク(=技術的な問題解決)を適用してもうまくいかず、結果的に何度も違うフレームワークに変更し、メンバーからの不信感を買ってしまった。


ひとつは、言いにくいことを言えない「抑圧型」の状況下では、自分のナラティヴに即した正論はほとんど役に立たないということです。相手との間に橋を架けていく取り組みをしなければ、物事は前に進みません。

心理的安全性の乏しい環境で正論を振りかざして物事を強引に進めていくと、大抵途中で破綻する。そして後からメンバーに「最初からおかしいと思ったんだよ…」と言われる。気づくのが遅れるので被害が大きくなる典型例。マネージャーになりたての頃によく経験した失敗。



また振り返ると、過去最もパフォーマンスが高かったチームは「メンバー全員がお互いのナラティヴを理解しようとしていた」気がする。マネージャーだけがナラティヴ・アプローチを行うチームよりも、メンバー - マネージャー間、他部署間などあらゆるところに双方向のナラティヴ・アプローチが発生していたチームは非常に素晴らしい結果を出していた。

よってより良い組織を作っていくためには、自らのナラティヴ・アプローチも必要だが、ステークホルダーへのナラティヴ・アプローチの働きかけも非常に重要な要素になると思っている。例えばこの書籍をみんなで輪読したり、1on1などでナラティヴ・アプローチをレクチャーしたり。何かしら仕掛けていきたい。


良い組織を作って良い成果を出して、皆が楽しく幸せになる。これほど良いことはない。


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このように新しい知識で過去の失敗を反省し、その結果成長し次に繋げられることは素晴らしいこと。今後もNewsPicksパブリッシングには期待。

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