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スモーキーなジリアン・カニサーレス

(4 min read)

Yilian Canizares / Erzulie

ジリアン・カニサーレス(Yilian Canizares)はスイスに住むキューバ人ヴァイオリニスト兼歌手。その2019年作『Erzulie』はジャケットでまず惹かれました。録音はアメリカ合衆国のニュー・オーリンズで行われたとのことで、現地のアメリカ人ミュージシャン、特に先鋭的なジャズ・ミュージシャンも多数参加している模様です。

アルバム1曲目はタイトルどおりアバネーラで、これはゆったりとしたゆるやかな官能が漂うなかなかいい一曲ですね。こういうのはいかにもキューバ人らしいと言えますが、そのいっぽうでヨーロッパ的なデカダンスと緊張感も強い曲と演唱で、キューバのアバネーラってもとはもっとおおらかなものだったように思いますから、まるでコンティネンタル・タンゴみたいに仕上がったこのジリアンのアバネーラは、やはりスイスに住むこのひとならではというところなんでしょう。

こういったちょっと退廃的なムード(タンゴ的?)のあるスモーキーな曲はアルバムにわりとたくさんあります。大別してリズムが活発なラテン・ナンバーとゆったり調に漂っているような曲と半々になるなと、このアルバムはそうだと思うんですけど、後者のほうは雰囲気を味わうだけみたいなもんで、込められた情感はなかなかいいなと思うものの、個人的にはイマイチ。

やはり快活にグルーヴするラテン・ナンバーでジリアンがヴァイオリンを激しく弾き倒しているようなものがグッと来ます。その意味では2曲目の「コントラディクシオーネス」なんかもかなりいいですよね。ドラマーとベーシストはだれなんでしょう?ちょっぴりジャジーな、でもキューバっぽいフィーリングの、ファンキーなビートを生み出していて、その上にジリアンの情熱的かつジャジーなヴァイオリン・ソロが乗っかっています。スキャット・ヴォーカルもあり。う〜ん、特にドラマーが気になるなあ。

3曲目「ジェマヤ」はふわっとはじまりますが、途中からビートが効いてきます。パーカッショニスト(コンガ)も入ってきたらいよいよグルーヴィ。ヒプノティックなビートに乗るジリアンのヴォーカルは、それでもやっぱり雰囲気重視のムーディなものでガツンと来ませんが、曲はなかなかいいんじゃないでしょうか。印象としてはヴァイオリン演奏のほうがヴォーカルよりも聴きごたえあるひとだなと思います。

4曲目はアルバム・タイトル曲。中盤からドラマーの重たいビートが入ってきますが、これはイマイチですね。サウンド・メイクがスモーキーで、なんといったらいいか、うん、雰囲気一発で聴かせるというかなんとなくムードにひたっていればいいっていう、そんな音楽ですよね。悪いとは思わないんですけど、ぼくの好みではありません。このアルバムにはそんな曲多いんです。

その後アルバム中盤は、折々に聴きどころもあるものの、全般的にそんな雰囲気だけサウンド・メイクが続きますからこりゃちょっとう〜んと思っていたら、8曲目「シマロン」が格段にグルーヴするナンバーで、こ〜りゃいいですね。激しいビートに乗って、ジリアンのヴァイオリン&ヴォーカル・ハミングとのユニゾンでラインが進みます。こういうビートの効いた音楽が好きなんです。スペイシーなエレキ・ギターも気になりますね。12曲目「リベルタード」はファンク・ナンバーっぽいグルーヴ・チューンで、これも聴けます。

(written 2020.4.8)

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