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卒修論研究で一生役立つスキルを底上げしよう

大学や大学院で取り組む卒論・修論研究は、必ずしも研究者を目指さない人にとっても一生役立つ「戦略思考による問題解決スキル」「コミュニケーションスキル」を安心して鍛錬できるチャンスです。具体的にはどのようなスキルをどのような場面で鍛えることができるのかをあらかじめ知って意識しておけば、効果的にスキルを成長させていくことができるでしょう。大阪大学大学院の教員であり、2021年10月に『卒論・修論研究の攻略本(森北出版)』を上梓した著者が解説します。

卒修論研究で学ぶこと

「これまで誰にも解かれていない厄介な問題を、高度な手段を効果的に駆使して戦略的・計画的に解決したうえで、その成果の価値を分かりやすく伝える一連の方法」を、実践を通じて学びます。

研究は、何も特別な行為ではありません。現状を少しでも理想に近づけるために、しっかり調べ、考え、行動し、確認し、反省し、整理し、報告し、相談する、という日常生活でもやっている問題解決のプロセスをきっちりやるだけなのです。

もちろん、調べる内容は膨大かつ難解で、専門的で厳密な行動が必要です。ですから、はたからみると「何をやっているか分からない(変わったことをしている)」「細かいことにこだわりすぎる(無駄なことをしている)」ようにみえることもあるでしょう。しかし、実際にやっていることは至極一般的なプロセスなのです。

実際に研究を進めるうえでは、研究分野ごとに高度に洗練されてきた「専門スキル」は不可欠ですが、それを極めることだけをむやみに追い求めるのは危険です。なぜかというと、専門スキルは「一部の機能に特化して鍛え上げた特殊武器」のようなもので、万能ではなく、また扱いづらいからです。その武器の特性を活かすには、「その武器をいつ、どのタイミングで活用するのが効果的か」や「その武器だけでは太刀打ちできない状況になったとき、どう対処すればよいのか」といったことを適切に判断し、運用するための別の基礎的かつ汎用的なスキルが必要なのです。

専門スキルを極めるのは意味がないよ、といっているわけではありません。極限まで鍛え上げた特殊武器を持っていれば、それだけで世界中でひっぱりだこになるでしょう。とはいえ、世の中には数えきれないほどの専門スキルが存在し、また日々生み出されてもいます。ある1つの専門スキルだけを鍛えていても、ある日突然、それが不要となるような別の専門スキルが誕生し、使いどころが無くなってしまう恐れもあることは知っておいたほうがよいでしょう。

そこで、卒論・修論研究では、専門スキルはしっかり身に着けつつも、それと並行して「基礎スキル」もしっかり高めていくことがおすすめです。基礎スキルは裏切りません。卒業・修了した後でこれまでに習得したことのない専門スキルを新たに身に着けて駆使する必要が生じた場合でも、変わらず助けとなってくれるのです。この意味で、汎用スキルと呼んでもよいでしょう。

この基礎スキルというのは、いわゆる「戦略思考による問題解決スキル」「コミュニケーションスキル」です。なんだ、よく言われているやつか。それくらいできているよ、と思うかもしれませんが、これらのスキルはどこまでも伸ばしていくことができ、伸ばせた分だけ後の人生を助けてくれますので、ないがしろにするのは損です。

皆さんのスキルには、まだまだ伸ばせる余地があるのです。普通にできるレベルにあると思うなら、人より抜きんでたレベルを目指しましょう。人よりすでに抜きん出ていると思うなら、さらなる高みを目指しましょう。学生である間にできるだけ鍛えておくことが大切です。仕事をしながらでも伸ばしてはいけますが、落ち着いてじっくりと鍛える時間を確保するのは難しくなるからです。

この記事では、基礎スキル(汎用スキル)を8種に細分化して解説します(下図)。各々のスキルを意識して伸ばしていくためには、研究のどんな場面でどんなスキルが求められるのかを把握しておくことが大切です。1つずつみていきましょう。

卒修論研究で鍛えられる8種の基礎スキル(汎用スキル)

①俯瞰の視点

現状や理想、問題や課題、アプローチや目的、目標や手段といった要素を体系的にまとめて捉え、細かい作業をしているときも大局を見失わないでいるためのスキルです。研究テーマを決める研究初期から、あれこれと手段を試行錯誤する中盤を経て、論文をまとめる終盤まで、常に必要とされます。

②論理思考

合理的に考えをつなげて、論理を確実に辿りながらものごとを進めたり、過去の間違った選択を省みたりするためのスキルです。よりよい研究テーマを定め、効果的に試行錯誤をし、しっかりとした論文をまとめるために必要です。

③先読み

今後生じる必要や邪魔を予測し、重要な備えをもれなく把握するためのスキルです。定めたテーマに沿った研究を実施するのに適した計画を立て、また無用なトラブルを避けるために必要です。

④段取り

問題解決のための研究の作戦(アプローチ)を予定通りに実施できるように多くの準備作業の優先度を管理するためのスキルです。立てた計画を効率的に進めていくために必要です。

⑤真理追及

集めた証拠の分析に基づく合理的な推理で真実に迫るためのスキルです。仮説検証のループを効果的に回し、成果を着実に積み重ねていくために必要です。

⑥報告相談

置かれた状況や議論したいポイントを的確に伝えて、協力を得るためのスキルです。一人だけでは立ちいかなくなって計画が大きく崩れてしまうことを防ぐために必要です。

⑦企画構成

情報を体系的に把握してまとめあげていくのに効果的な話の筋を見極めるためのスキルです。論文や発表スライドを作り始める前の段階で必要になります。

⑧論述表現

多種多様な情報の関係性が正しく伝わるように言葉や図を選び、配置するためのスキルです。論文の原稿や発表スライドを実際に作っていく際に必要になります。

おわりに

卒論・修論研究を進めるためには、上記の8つのスキルを駆使することが必要です。研究を進めながら、どのように取り組み方を工夫すればより高度にスキルを駆使できるようになるのかをじっくり確かめていきましょう。この実践を通じて、皆さんにとってしっくりくる取り組み方を見つけることができたら、それが皆さんを一生助けるスキルになってくれます。

それぞれのスキルは一般的なものですから、ビジネス書でもさまざまな工夫がビジネススキルとして紹介されています。「ビジネス」スキルとはいえ、その本質は「アカデミック」スキルと変わりません。活用の舞台が違うだけです。研究を進めるうえで大いに役立ちますので、読んでみてさっそく試してみるのもよいでしょう。

とはいえ、ビジネスの世界と研究の世界では使用していることばや、想定している状況が異なるので、とっつきにくいことは否めません。というわけで執筆した書籍が『卒論・修論研究の攻略本(石原尚・森北出版)』です。「研究を進めるうえで必要なのになかなか教わる機会がない」「ビジネス本ではちょっとわかりにくい」基礎スキルを体系的にやさしく解説した書籍です。きっと役にたつはずです。

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