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研究発表は【道案内ゲーム】- 聞き手を迷子にさせないための9ルール -

発表とは、迷いやすい暗い森で大勢を道案内する難しいゲームに挑むようなものです。成功すれば、あなたが森の奥で見つけた発見や知識が確かにそこにあることを皆に示すことができ、称賛される可能性がありますが、失敗すれば、途中で帰られたり、怒らせたり、失望させることになります。成功するためには、迷子にならないようについてきてもらうための「道案内のルール」を守ることが必要です。この記事では、発表についてきてもらうためのシンプルながら強力な9つのルールを、道案内のたとえで解説します。
※この記事は、著者のブログ「駆け出し研究者のための研究技術入門」のリライト版です。

9つのルール

この記事では、以下の9つのルールについて解説します。

①着いていくメリットがあると早めに期待させる
②接続詞を使って丁寧に誘導する
③予告した目的地と辿り着く最終地点は対応させる
④集中していない相手にも現在位置が掴めるようにする
⑤回り道や寄り道をせずに最終地点まで導く
⑥現在位置は要点・大枠・焦点・詳細の順で紹介する
⑦不安を抱かせないように立場を一貫させる
⑧質疑応答も道案内に活用する
⑨終了時間は絶対に守る

①着いていくメリットがあると早めに期待させる

あなたは森の奥で興味深い発見をしました。噂されていたものの、誰も見つけられなかった貴重なものです。あなたはそこまで皆を連れていき、発見者であることを世に示したいと考えています。しかし、いざ道案内を始めようと思っても、相手が「大変そうだけど是非行きたい!」と思わなければそもそも着いてきませんよね。

発表でも同じです。あなたは難しく込み入った研究の結果興味深い発見をし、素晴らしいものを作り出しました。あなたは研究発表の場でその成果を伝えたいとします。しかし、「自分が伝えたい発見」をただ好き勝手に話すだけでは、あなたの話に興味を持って着いてくる人を増やせません。発表という道案内を成功させるためには、本格的な案内を始めるまえに、「この発表はしっかり聞くメリットがありそうだな」と期待させることが必要なのです。

どんな人が聞きに来ているのかを事前に把握して、相手が欲しがっている情報を早めに伝える努力をしましょう。なぜそれが興味深いのか、あるいは価値があるのかを明確に語りましょう。あなたの発表を聞くことで、聞き手はどんなメリットを得られるのかを明確に示しましょう。これらを発表の序盤で行うことで、多くの人を発表の中盤(本論)まで連れていくことができます。

②接続詞を使って丁寧に誘導する

聞き手は、今見せられているスライドの次にどんな内容の話がくるのかを知りません。今の話のはるか先に、きっと素晴らしい知識や発見が待っているだろうと期待をしていたとしても、そこに辿り着くための話の道筋は知らないので、簡単に変なところに迷い込んでしまいます。発表者であるあなたは、鬱蒼とした迷いやすい森の途中で聞き手が迷わないように精一杯丁寧な誘導をしなければいけません。

誘導に役立つ案内板は、接続詞です。「したがって」「そこで」のような順接、「しかし」「それにもかかわらず」のような逆説、「つまり」「要するに」のような言換、「同様に」「また」のような並列、「一方で」「対照的に」のような対比など、現在位置に対して次の話がどの方向に向かうのかを示す表現が数多くあります。これらを適切な場面で適切に使わなければ、相手は思い思いの方向に勝手に歩き出し、きっと迷子になってしまうでしょう。接続詞の正しい使い方をおさらいして、有効に使えるようになりましょう。

③予告した目的地と辿り着く最終地点を対応させる

道案内で到着地点に対する期待を裏切ってはいけません。案内の序盤で「今からここへ行きますよ。だから皆さんついてきてくださいね」といいますよね。そして、案内が終わった最後に「はい皆さん、言った通りの場所へ到着しましたよ」と言えれば皆を安心させられるはずです。もし到着した場所が、最初に伝えていたところと違っていたら、皆怒ったりがっかりするのは当然ですよね。

研究発表でも同様に、到着地点である結論に対する期待を裏切ってはいけません。発表冒頭の目的スライドで、「この発表の目的はAを改善する最も効果的な方法を明らかにすることです」と宣言したのであれば、最後の結論のスライドでは、「Aの改善にはこのやり方が最も効果的でした」というものにすべきです。つまり、研究目的で述べるべきことは、最終結論の予告なのです。対応していないと、発表を聞いた相手にがっかりさせてしまいます。間違っても、「この発表の目的はAを改善する方法を明らかにすることです」といっておきながら「CがDであることを明らかにしました」のようなことを話してはいけません。うっかりするとやってしまうミスなので、しっかり確認するようにしましょう。

④集中していない相手にも現在位置が掴めるようにする

あなたに着いてきた人が熱心で注意深く、集中しているとは限りません。時々スライドを見るくらいで、大半の話を聞いていないこともありえます。そのような相手に対しても、「いまはどこにいて」「ここはどんな発見があるところで」「ここに来たのはどこに進むためなのか」の3点は必ず伝わるようにしなければいけません。さもないと、迷子になったり、飽きて途中で帰ってしまったり、間違った道を勝手に進んで行ってしまうからです。

発表においては、「今何の話題について話しているのか」「その話題について最も重要な内容は何なのか」「それを語ることがなぜ今必要なのか」の3点が,時々しかスライドをみない人にでも分かるように明記しておくことが必要です。それぞれ、論点、メッセージ、論点の意義といってもよいでしょう。話を聞いていなかったとしても、スライドを見た瞬間に、この3つの要点が掴めるようになっているのが理想的です。

そのために、論点は、スライドの左上部の隅に、「手法〇〇によって得られたデータの簡単な可視化結果」のような具体性のある見出しとして書くのがよいでしょう。この見出しを見るだけで、「ああ、今はそれについて話しているんだね」といった理解をしてもらえるからです。単に「結果」という見出しにするだけでは、「色々ある結果の、どの結果のこと?」といった具合で迷わせてしまいます。

また、メッセージは、たとえば「予想に反して、相関があることが伺える」のような平易な言葉で「へー、そういうもんか」と思ってもらえる内容にして、スライド上部の一番目立つところに一番大きなフォントで書いておきましょう。「へーそういうもんか」と聞き手が思ったときに、それが納得できなければスライドをもっとよく見てくれるでしょうし、納得してもらえるのであれば、それで説明としては十分です。

論点の意義は、たとえば「もし相関があれば仮説が裏付けられたことになる」のような内容を書けばよいでしょう。これをみるだけで、「なるほど、だから相関に注目しているのか。じゃあ次は相関が本当にあるのかを確かめる話に移るんだな」というように案内できますよね。これらの3点を、基本的には全て1つのスライドの中に記載しておくようにするとよいでしょう。

⑤回り道や寄り道をせずに最終地点まで導く

案内するのは深い森の奥なので、そこまで行くのは大変な労力を要します。できるだけ楽に最終地点(結論のスライド)まで辿り着ける道で案内してあげましょう。回り道(メッセージを説明するのに不要な詳細説明)や寄り道(結論に至る論理的筋道には不要なメッセージの紹介)は極力省きましょう。「このスライドでこのメッセージを伝えなければ、最終結論まで案内できないんだ!」という自信が持てないようであれば、そのスライドは省くか改善すべきです。そうしなければ、「なんでこんな寄り道をしているんだ!早く連れて行ってくれ!」という風に相手に思わせてしまいます。

⑥現在位置は要点・大枠・焦点・詳細の順で紹介する

道案内の途中途中で黙っているわけにはいきません。迷わないように、飽きられないように、そして確かに最終目的地(最終結論)に向かっていることを説明しながら案内しなければいけません。このときの説明は、要点→大枠→焦点→詳細、の順で行うのが効果的です。

まず説明すべきは、そこで行う話の要点です。これは、ルール④で紹介した、最終地点に向かうための中継地点としての現在位置の説明である、「いまはどこにいて」「ここはどんな発見があるところで」「ここに来たのはどこに進むためなのか」といった説明です。たとえば、「ここは〇〇広場です。この広場で私は次に進むべきは北の方向だということに気づけました。この気づきがなければ、先人の示した通り東に進んでしまい、貴重な発見には至らなかったでしょう」のような内容です。もしこの広場(つまり、スライド)でゆっくり過ごす時間の余裕がないのであれば、この説明だけで十分ですよね。皆、納得して北への道についてきてくれるでしょう。

もしこの広場でもう少しだけ説明する時間があるとすれば,自分がとくに詳しく解説したい場所がどこにあるかが分かるように、その広場の大枠の構造を説明しましょう。たとえば、「この広場は大まかに3つのエリアに分かれています。左のエリアには背の高い木が集まっています。奥の方はなだらかな何もない斜面です。手前のエリアは、とくに興味深い、変わった形の岩がある広場です。」といった説明です。

大枠が説明出来たら、自分が詳しく解説したい場所に焦点をあてていきます。「この広場の岩の形、気になりますよね。早速あちらに行って見てみましょう。さて、岩に近づいてみると、表面はこのようになっていました。不自然な傷があります。 」のような説明です。この段階的な焦点化によって、皆の興味を特定の岩の表面の傷へと上手に誘導することができます

上記のような限定的な箇所に皆の興味を引っ張ってくることができて初めて、その箇所の詳細な説明が効果を発揮します。たとえば、「この傷の形は、明らかに人為的につけられたものです。一見わかりづらいですが、このような方法でこうしてみると、ほら、明らかに北の方向を指していることがわかるでしょう。」のようなものです。この傷の形の発見のここまでの詳細を語るべきであると判断するのであれば、そこに焦点を当てるまでの大枠と焦点化を丁寧に説明しなければいけません。発表でも同じです。要点と大枠を述べることなく,勝手に焦点を絞って詳細を語り始めるということがないように気をつけましょう

⑦不安を抱かせないように立場を一貫させる

道案内をする役目をもつ発表者が意見をころころ変えてしまったり、どっちつかずの意見を持っているようであれば、相手は「本当にこの人について行って大丈夫かな…」という不安を抱いてしまいます。ある判断や理解に対して、「自分はこう考えている!」という明確な立場を強く持ち、一貫させるようにしましょう

「こっちの判断の方がいいんじゃないの?」と言われたときに、「確かにそれもいいけど…そう判断するなら、この後の話が成り立たないから…どうしよう…」のようなどっちつかずの立場は、謙虚ではあるかもしれませんが、道案内のリーダーとしては頼りないですよね。「その判断が正しい可能性もあるけど、危険な可能性も多々残っているから、まだ容易には踏み切れない。当初の判断でも安全に先に進めることがわかっているから、今回は当初の判断のまま先に進みます。」のような、説得力のある揺らぎない立場での説明を心がけましょう

⑧質疑応答も道案内に活用する

発表時間が終わった後の質疑応答の時間も、まだ道案内の途中です。質問者は、「果たして自分が来たいと期待していた場所に本当に連れてきてもらえたのだろうか。知りたかった結論は、正しい知識として受け入れてもよいのだろうか。」という気持ちで質問をしてきています。

道から逸れたように聞こえる質問が来た場合でも、道案内を成功に終わらせるために活用しましょう。たとえば、「結論に辿り着く方法Aを使っていますが、方法Bもありえますよね。方法Bではだめなのですか?」と聞かれたときに、ただ「方法Bはだめでした」と答えるだけでは不十分です。なぜなら、相手の興味は単なる個別の選択肢の有無だけでなく、目的地への辿り着き方そのものにもあるからです。道案内者であることを常に意識して、「方法Bではだめでした。この結論にたどり着くには〇〇が不可欠なのです。〇〇は方法Aにはありますが、方法Bにはないのです。」のように説明すれば、方法Aで案内したあなたへの信頼感も高められますよね。

⑨終了時間は絶対に守る

皆さんそれぞれ忙しいので、いくら楽しい道案内でも、予定の時間を過ぎれば皆帰りに備えてそわそわし始めます。そうなると集中が途切れ、目的地にたどり着くなり称賛もほどほどに「さあ帰ろう帰ろう」、という感じになってしまいます。もっと悪ければ、目的地にたどり着く前に「解散!(もう発表をやめてください!)」ということになってしまうこともありえます。

なかなか難しいですが、発表途中で不意打ちのような質問が来ようが、開始前にPCとプロジェクタの接続トラブルが起きようが、発表を打ち切るタイミングは発表時間内に収まるようにしましょう。このルールを守るためには、発表練習を繰り返して時間の見積もりの精度を上げておく、質問を予想して短く答えられる言い方を考えておく、答えるのに時間がかかりそうな質問に対する回答は後に回す、言いたいことは発表の序盤で先に言い尽くしておく、などの工夫が必要です。

まとめ

研究発表では、丁寧に道案内をすることをイメージするとうまくいきやすいよ、という話をしました。 なるべく多くの聞き手を最後まで案内したいものですね。

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