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サッカーで理解するラボ内研究発表会での学び方

細かい内容について少人数(もしくは1on1)で議論する研究相談会とは別に、研究室メンバー全員の前で学生さんが進捗状況を発表する研究発表会を定期的に実施している研究室も少なくないだろうと思います。この記事では、研究室内での研究発表会を【サッカーの練習試合】だと捉えることで、この発表会がどのような機会であり、またどのような学びが得られるのかをすっきりと理解できることを説明したいと思います。
※著者はサッカーは素人ですので細かい点の語弊はご容赦ください…

研究発表会の形式

著者が見聞きする範囲では、この研究発表会の形式は、その時点までの成果をもとに発表資料を作り、数十分の口頭発表をしたうえで、研究室の教員あるいは他の学生さん達からの質問や疑問に答えるというものが多いようです。学会で発表したり、論文としてまとめたりするほどの成果は出そろっていないものの、とりあえずその時点までで得られた成果を題材として、緒言から結論までの一通りの話の流れをまとめて発表してみよう、という会です。

質疑応答では、「そもそもなんでその手法にしているんだっけ?」や「その考察はおかしくないですか?」、あるいは「そこまでの結論を言いたいのなら、こういった結果も得ていないと言い過ぎではないですか?」などの容赦遠慮のない質問・疑問が教員から繰り出されることだろうと思います。

これらの質問・疑問の投げかけは、教員からすると親身からの当然の行動である一方で、発表する学生さんにとってみれば、「まだやっている途中なんだから、まとまっていなくて当然。なぜここまでせめられないといけないのだ。」とか、「もう少し褒めてくれてもいいじゃないか。なぜ一生懸命やっていることにケチをつけるんだ。」と不満・不審を感じやすいものでもあろうかと思います。

研究発表会は学びが得られる【練習試合の場】

発表というのは、相手の持っている論理・疑念・先入観を突破して、自身の思考の過程と結果に納得してもらうという【説得勝負の場】です。相手に「なるほど確かに納得できる」と思わせることができれば勝ち、「いやいや、これでは納得できないよ」と感じさせたら負けです。

この記事でお伝えしたいのは、研究発表会というのは【真剣な練習試合の場】であり、上手くやると大きな学びが得られるということです。練習試合ですから、こちらが適当に臨み、また相手のやる気もなければ、お互いに疲れるだけでほとんど学べるものはありません。真剣に戦いあうことで、直接は見ることのできない自分の強みや弱み、また今の実力を推し量り、さらなる向上のための指針を得ることができるのです。

この真剣勝負を何度も練習することで、だんだんと勝ち方、すなわち、説得力のある発表をする方法が掴めてきます。だからこそ、研究室内でわざわざ時間をとって発表会の場が用意されているわけです。

発表は【サッカーの試合】

この勝負は、サッカーの試合に例えると少しわかりやすくなるかもしれません。発表者である皆さんは、チームの監督です。どんなプレイヤーをどんな役割で選抜し、どんなフォーメーションで連携させるかを決め、その連携が上手くいくようにプレイヤーを育成します。相手も反論のためにチームワークで挑んできますので、その反論を封じてゴールを決めないと、説得という勝負に勝てません。

ここで言うプレイヤーというのが【説明内容】で、各プレイヤーの役割というのは、緒言、手法、結果、議論、結論に相当します。下図のように、緒言はFW(フォワード),手法は攻撃的MF(ミッドフィルダー),結果は守備的MF,議論はDF(ディフェンダー),結論はGK(ゴールキーパー)のような役割を果たします。
※繰り返しますがサッカーは素人ですので、ざっくりしたイメージでしか語っておりません…すみません…

研究発表におけるプレイヤーとフォーメーションにおける役割

説得という攻撃局面にあるとき、緒言は率先して相手に深く切り込んで、納得させやすくするように相手の閉じた懐をこじ開けます。手法も、「そのやり方でやったなら納得できそうだな」という形で、納得させやすい状況に持っていくことに貢献します。このようなFWと攻撃的MFの連携で納得させやすい(ゴールしやすい)状況に持っていき、ゴールキーパーが抱えているボール(結論の説明内容)を前線まで運び、相手のゴールに飛び込ませる、というのが説得の流れです。

一方で、攻撃をするだけでは勝負には勝てません。いくら点を取っても、それ以上に点を取られると負けてしまうためです。そこで守備的MFである結果と、DFである議論が活躍します。こちらが前線に運ぼうとしているボールを、相手は反論という形で押し戻し、こちらのGKを突破しようとしてきます。GKである結論を打ち破られると点を取られたことになってしまいますので、そうならないように、相手の反論にうまく対処するために結果と議論をうまく連携させなければいけません

研究室での練習試合の様子

ここまでの説明を踏まえて、研究室内での練習試合(研究発表会)の様子をみてみましょう。下図が、練習試合の俯瞰図です。研究室のメンバー構成によって大きく異なりますが、著者がいる研究室ではこのようなフォーメーションになっている印象です。

研究室の研究発表会での勝負の俯瞰図

FWは助教さんです。反論のためのスペースをこじ開けようと、「ここの意味がよく分からないんだけど」などのような形で積極的に発表者の守備陣(結果・議論)の細かい部分を攻めます。攻撃的MFは、准教授・講師かなと思います。助教さんと連携して守備陣を攻める一方で、発表者の攻撃陣(緒言や手法)も翻弄するような動きをします。守備的MFは博士の学生さんです。あまり攻撃には参加しませんが、教員の攻め方も見つつ、「そう説明されてもこう聞こえてしまってあまり効果的な攻撃ではないよ」といった形で守備的な観点でのアドバイスをしてくれます。修士の学生さんはDFです。試合が進み、発表内容の説得力がある程度高まった状態で落ち着けば、細かく親切な目線でアドバイスを出してくれます。GKは教授です。俯瞰的な視点で勝負の場を見つめ、「面白い試合になっていますねえ」という発言と共に、「そうはいってもそもそもこうではないですか」というスーパーセーブを決めたり、発表者のフォーメーションの穴を見極めて、一気に自分で前線まで駆け上がってゴールを決めたりします。

学部の学生さんは、一生懸命応援と勉強をする気持ちでベンチに構えているといった状況かなと思います.専門性の高いポスドクさんは、途中交代で入ってきて驚異的な角度で攻め込むジョーカーのような印象です。

練習試合で何を学ぶか

練習試合で大切なのは、全く攻めないことで反論を封じ、「負けないが勝てもしない」という戦術をとることではなく、「勝ちに行こうとしたときに生じる攻撃と守備の穴やバランス」を見極めることです。あえて思い切った攻撃(大胆な緒言)を繰り出してみたり、力強いボール(強い結論)を蹴り出してみたりして、どんな反論が来るのかを試しましょう。そして、それらの反論に対して、手持ちの守備陣(結果や議論)が耐えられるのかどうか、また、耐えられるとしたらどこのどんな連携が鍵となっているのかを確認するのです。

こうすることで初めて、「ものすごいゴールが決まったぞ」「こんな反論が来ても大丈夫だぞ」とか、あるいは「ここまでは言い過ぎでシュートが明後日の方向に飛んでしまうのか」「ここの守備はもっと固めないとだめだな」といった改善のための指針が得られるのです。この今後の改善指針を得ることが、真剣に練習試合をすることの目的です。

練習試合を重ねてフォーメーションに改善を加えることで、大衆に自分たちのチームの活躍を見てもらうための【査読】と呼ばれる地区予選を突破したり、よいオーナー(論文著者)に【論文引用】という形で買収してもらえたり、トーナメントを勝ち上がって【論文賞】を取れたりするようになっていくわけです。

おわりに:何のために学ぶか

上記のような真剣な練習試合を繰り返すことで、発表者である皆さん自身の監督としての力もぐんぐん伸びていきます。様々なフォーメーションをうまく使い分けたり、自分の現在のフォーメーションの穴を見極めて、必要なプレイヤーのスカウト(実験結果の取得)に動き出すことができるようになります。

監督しての力が伸びれば、別のチームの育成も効果的に行えるようになります。つまり、卒業して別の社会に飛び込んだ後でも、説得力のある発表ができるようになります。どんな社会も説得勝負の場ですので、研究室内での練習試合に真剣に挑み続けることで、生涯役立つ発表力を身につけられるはずです。是非よい監督になってください。

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