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【会いたい人を、撮りに行く。#005】カメラマン、故・河崎敏さん


23年1月某日、世田谷区内の某墓地にて。



『会いたい人を、撮りに行く』企画、シリーズ5人目にして、早くももはや会えない人の登場となってしまいました。
「この企画でそれでええんか?」という気もしますが、自分の制作会社人生を振り返って、『会いたい人』を思い浮かべたときに、最初の方に思い浮かぶのが、会社の大先輩であり大御所カメラマンであった河崎敏さんなのです。

亡くなられる数年前にFBに書いた河崎さんとの思い出話を、ここに再掲させて頂きます。
東北新社撮影部時代のお弟子さんの一人にお墓を教えてもらい、お墓参りをしてきました。尊敬する大先輩のことを記憶に留めるために、ここにお墓の写真まで掲載させて頂くことをお許しください。

-----数年前にFacebookに書いた、河崎さんとの思い出話-----

5日間に亘る、結構ヘビーな撮影の日程表


ロッカーの中を整理していたら、懐かしい書類が出てきた。
若かりし頃に自分が作った撮影の日程表。
20年のプロダクション人生の中でも、上位何番目かに入るであろう思い出の作品である…。

十数年前の、6月。
CMプロダクションの制作進行として日々七転八倒しながら働く中、
●3日間ロケ&スタジオ(天気ヨビ2日)
●十数シーンで30カット超
●出演者も30人以上
と、なかなかシビレる作品を担当した。

撮影初日、幸い梅雨の晴れ間に恵まれ、朝から順調に予定カットの撮影を終えていったが、夕方のロケ地である公園の撮影許可時間に限界があり、無念にも1カットのみ撮りこぼしてしまった。
公園管理事務所になんとかお願いしてみたもののどうしても撤収せざるを得ず、慌てて全スタッフに撤収の旨を伝え、監督・カメラマンたちと共にマイクロバスに乗り込み、次のロケ地への移動を開始することにした。

バスが動き始めたとき、近くにいたカメラマン(巨匠であった)に、改めてお詫びをする。
「撮りこぼしてしまってすみませんでした。」と。

「撮りこぼす」ということは、制作進行を担当する者としては、
「自分の責任である『進行』を為し遂げられなかった」
ということであり、
その進行のもとに働くスタッフには、ほんとうに申し訳ないと思ったからである。

しかし、その巨匠カメラマンは、全く予想外の反応をしてこう言った。

中川君、あやまる必要なんかない。
この梅雨のさなかに幸い天気も良く、朝からこれだけいい画をいっぱい撮って来ているんだ。
1カットくらい撮れなかったくらいがなんだ。
もっと胸を張れ。
君が胸を張ってスタッフを引っ張っていって、このあともいい画を撮っていくんだ。
あやまったりなんかしちゃダメだ!


思わず泣きそうになってしまった。
一緒に乗っていた他のスタッフの皆さんも、普段とても温厚な人がちょっと声を荒げているのに驚きながらも、カンドーしたことと思う。

さすが百戦錬磨の巨匠カメラマン、
なんて度量が広いんだ、
なんて優しいんだ、

と。

「あやまったりしちゃダメだ」という言葉に、プロとしての優しさと厳しさが含まれているんだなあ
…と、今でもときどき、この時言われたことを思い出す。

そんな強く優しいオトナに、俺もなりたいな、と思いつつその後十数年。
きょうもまた小さなことで部下にネチネチと説教を垂れている。
あんなステキなオジサンには程遠い。

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現場は卒業したけど、映像や写真にまつわることを楽しんで生きていますと、大先輩にご報告しました。