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【会いたい人を、撮りに行く。#004】峠そば店主・柏木秀之さん、奥さま・ゆりあさん

2023/1/19、峠そば営業最終日、厨房にて


■オフィスの引越し

2022年5月、自分の勤める会社のオフィスが、銀座から虎ノ門に引っ越した。自分はいま総務担当なので、物件探しから契約から内装の発注から引越し屋さんの手配から、登記の変更から、名刺や封筒の作り直しから、めちゃめちゃタイヘンな数ヶ月を過ごした。

引越しがタイヘンなことは予測できたので、最初は引越しに反対だったけど、引越してみると、新しいビルはキレイで明るく天井も高く、設備も最新で、めちゃ快適であった。
さらに、新橋と虎ノ門の間の立地は、いくつかの路線の駅が数分圏内で、アクセスも非常に良好で、これまた快適である。

そんな中、更に嬉しいことがあった。
立ち食いそばの名店『峠そば』が近くにあることであった。
グループ会社の先輩に教えてもらって、引越し後すぐに初めて行って以来、毎週のように通った。

■峠そば

峠そば店舗外観


峠そばは、年季の入ったビルの1Fに、小さな店舗を構えている。
昼頃、大通りの角を曲がると、数十メートル手前から早くもゴマ油の香りが漂ってくる。
店の前には、昼時はいつも数人並んでいる。

そばが美味いのはもちろんのこと、注文してから揚げる天ぷらが最高に美味い。ネタが新鮮なのももちろんあると思うけど、きっといい油を使っているんだと思う。

海鮮天盛りそばの、アジ・イカ・エビが、ほくほくでたまらなく美味い。
かき揚げや、ゴボウの天ぷらもめちゃ美味い。

初めて食べたのは「海鮮天盛りそば」


初めて行ったときは、メニューの全貌を理解できていなかったので、注文の仕方もよく分からず、周りの常連さんたちは特殊な専門用語で注文しているように見えて、注文するときはだいぶ緊張した。

メニュー表を見ると、普通の「かけそば」と「盛りそば」もあるんだけど、「ぶっかけ」もあることが分かる。そしてそれは、俗称「冷たいの」と言われることも、常連さんたちの注文を見ていると分かった。ちなみに、「かけそば」は俗称「温かいの」である。

大将は、カウンターの中で忙しそうにしていて、短髪で一瞬不愛想な職人さん風情でもあるが、初心者で注文の仕方が分からないことを伝えると、面倒がることなく普通に教えてくれた。無愛想なんじゃなくて、単にそばを茹でて天ぷらを揚げるのが忙しいだけなのかも知れない。

「初めてのお客様へ」という、やさしい解説もある!


あと、もう一つ度肝を抜かれたのは、衝撃の会計システムである。
前に並んでいる人たちを見ていると、カウンターで順番に注文をすると、大将が、
「え~と、温かいそばとアジで、550円ね」
とか値段を伝える。
すると、客は、
「1000円置いて、450円お釣りもらいま~す」
とか言って、カウンター上にぐしゃっと置かれている札や小銭の中に、1000円札を置き、そしてお釣りを取るのである。

なんという合理性!
性善説!!
そしてズボラ!!!
この辺も、峠そばの味なのである。

誰もが最初、度肝を抜かれる衝撃の会計システム!


■峠そば閉店!

年明け、グループ会社の先輩から、衝撃的なニュースが送られてきた。
『残り「ごま油1斗缶」でさようなら…立ち食いそばの名門・虎ノ門「峠そば」がついに閉店』
という記事であった…。

年始早々のこの記事で、たくさんのファンが押し寄せたらしい。
https://gendai.media/articles/-/104733


驚いて駆けつけるも、その日から、連日行列が長く、食べれなかった。
記事では、
「最後のごま油1斗缶が切れたら閉店する。たぶん2月上旬くらいだろう。」
と大将が語っていた。

「無くなってしまうのはショックだけど、無くなるまでに何回か食べに行こう」と思っていた。


■いきなり最終日

1/19の昼前、社内でリモート会議に出ていたら、また先輩から、
「ごま油の減りが予想以上に早く、大将が『今日までかも』って言ってるぞ!」
という衝撃のLINEが入った。

慌ててリモート会議をスマホでの「耳だけ参加」に切り替え、峠そばに駆け付けた。
店の前は、やはり長い列だ。
寒いけど、今日ばかりは、並ばないわけにはいかない。

今までみた中で、ぶち抜きに最長の列。でも今日は並ばないワケにはいかない。


20分くらい並んでいただろうか、「店内まであと数人」となった時、大将が出てきて、並んでいる人の数を数え始めた。
不吉な予感が走る。
恐るべきことに、俺の前に並んでいた青年の背中に手を当て、
「すみません!、このお客さんまでで終わりです。」
と、列の後ろの人たちにも聞こえるように、大きな声で宣言した。

この時はこの世の終わりかと思いましたよ!


「明日はやるんですか?」
と俺の後ろの人が聞くと、
「やりません。油が終わりました。今日で終わりです!」
と大将。

「ひええええ、30年の歴史が、俺の目の前で終わった~!」
と声を上げると、大将が、
「あ、うどんなら何玉かあります。」
と言い、俺から後ろの数人は、うどんでいいので食べれることになった。
なんたる微妙なギリギリセーフ!

そして、もう少し並んでオーダーした後に出てきたのは、なんと「そば」であった。大将の数え間違えだったのか、本当に30年の歴史の最後の最後のそばを食べることができて、俺は幸せ者である!

ちなみに、「約1年後に茅場町で峠そば再開の予定」と店内には書かれていた。今から1年後が楽しみである。

虎ノ門『峠そば』、30年の歴史の最後の一杯


■写真を撮らしてもらう

満足感と共に会社に戻り、次の打合せを済ませたあと、思い立ってベビーローライとチェキを持って、もう一度峠そばに行ってみた。
案の定、カーテンは閉まっているけど、中に大将と奥さんがいて、店の片付けをしていた。

俺の顔を見ると、
「あれ?」
と不思議そうにしている。

「さっき最後のそばを食べさせて頂いたんですが、個人的に、会った人の写真を撮る作品作りをしています。峠そばが今日で最後なんで、記念にお二人の写真を撮らせて下さい!」
とお願いすると、突然のオファーに当然ながら驚いていたけど、二人とも快く写真を撮らせてくれた。

ロシア出身の奥さんも大将も、俺のベビーローライとチェキでの撮影に、とても興味を持ってくれて、いろいろお話ししながら、楽しく写真を撮らせてもらうことができた。
それが冒頭の写真です。

■美術部展への掲出報告

え〜、話がだいぶ変わって…、
去年から、友人が顧問をしている中学高校の美術部の部展に、何故だかゲストアーティストとして参加させてもらっていて、今年は、このベビーローライとチェキで撮った「会った人の写真たち」を展示させてもらうことにした。

約100枚の写真を大きなボードに貼り、掲出する計画である。

1/31に、生徒たちと先生と、数人のゲストアーティストと支援者たちと、東京芸術劇場の一室で必死こいて掲出作業をして、部展が始まった。
(第3話の安野ともこさんは、美術部展が始まった後に撮りに伺って、追っかけ貼り付けました!)

約100枚貼り付けるのは、結構ヘビーでした♪


撮る時に「作品作りとしての写真」である話は皆にしていたけど、掲出される人たちには、一応、直接でもLINEででも、「あなたが写った写真を、美術部展で掲出させてもらいます!」という旨の連絡を入れるようにしていた。「もしお時間あったら見に来てくださいね!」とも一応お伝えして。

峠そばの大将には、写真を撮らせてもらった時に連絡先をもらっていたので、その連絡先に美術部展への掲出の報告を送っておいた。メッセージは既読にはなったが、返事はなかった。
別に返事が無くても気分が悪いような話ではなく、「いちおう掲出のご連絡はできた」と認識していた。

■美術部展、土曜日の朝

中高生たちのガチな美術部展です。なぜか俺も混ぜてもらってるんですが。

1/31(火)~2/5(日)で行われた美術部展は、土日がピークである。
土曜日は、朝10時のオープンから、生徒たちと一緒に会場の鍵を開け、お客さんたちの入りを待つ。

ちょくちょくとお客さんたちが入りだした頃、俺が自分の作品の近くにいると、
「あ、中川さんいた!」
という声が入口の方から聞こえてきた。

声の方をみやると、ななんと、峠そばの大将と奥さんが、こっちに向かって歩いてくるじゃないか!
なんか視界がぐにゃりと曲がり、パースや距離感がおかしくなるような感覚に襲われた。
「まさか峠そばの大将と奥さんが来てくれるなんて!」

2人は、俺の作品を興味を持ってじっくり見てくれて、自分たちの写真も作品に入っていることを、喜んでくれているようだった。
あの時、ビックリされるだろうけど、日和らずに突入して写真を撮らせてもらって本当に良かった、と思った。

あまりに嬉しかったので、近くを歩いていた友人に、
「おかもっちゃん、こちら俺の作品に写っている、有名な峠そばっていうそば屋さんの大将と奥さん!」
と、いきなり紹介したら、1年後に茅場町で開店予定の新店舗に「食べに行きます!」と宣言してくれていた。

ちなみに彼女は、大将と俺は古くからの知り合いだと思ったらしく、
「先々週に1回喋っただけ」
と後で言ったらのけ反っていた。
まあ普通そう思うだろう。
俺もそう思う。

あと、奥さんは、ロシア時代にけっこう本気で絵を描いていたらしく、
「じゃあ来年の美術部展には、一緒にゲスト参加しよう!」
と言って部員のコに紹介したら、スマホで自分の絵を見せて、一生懸命部員のコと話し込んでおりました♪

美術部展は、峠そば大将夫妻以外に、会社の若い子たちを含めて何人かの同僚、同郷の大学院生、草野球のチームメイトなどなど、思っていた以上の友人知人が見に来てくれて、自分の写真の入った俺の作品を楽しんでくれて嬉しかったです。

その場で撮った写真にサインを入れる高校生たち。

そもそもの主役である中高生の部員たちの作品たちはそれぞれに奔放でパワフルで、お客さんたちはそれぞれに作品たちに感銘を受けていたようである。
(美術部展の生徒たちの活躍ぶりは、またに改めて詳しく書くつもりです…。)


そんな中、何人かのお客さんや、美術部員の中高生も、けっこう俺の作品を面白がってくれて嬉しかった。すごく興味を持ってくれる人たちがいた時には、その場で実際にそのコをベビーローライで撮ってチェキで現像して、パネルに追加で貼り付けたりもした。自分が作品の一部になることで、更に作品への興味を持ってくれるようで、ますます嬉しかったです。

まさか、峠そばの大将と奥さんが来てくれるとは!!


峠そばの柏木さん、ゆりあさん、美術部展に見に来てくれて、本当にありがとうございました。

約1年後の新店舗開業を、楽しみに待っております!!
(その他の来てくれた方々、部員の皆さん、先生、サポーターの皆さまも、ありがとうございました!!)