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新聞の未来 (2) 重要ニュースはこうやって隠される(1998年発表)

新聞は今後どうなるのかーー。
1998-99年に勤め先の職場で回覧していた『新聞の未来』です。月1のペースで10回、書きました。記事は当時のままです(オリジナルは縦書き)。


▼市民に知らせるべきニュース (1998.10)


情報はかつて、キャビアのように貴重であこがれの対象だったが、今やどこにでもあふれ、ポテトのように当たり前の存在になってしまったーー。
 
情報過剰の時代をいかに生き抜くかを論じた「データ・スモッグ」の著者デービッド・シェンクさんは、現代社会では無限に膨れ上がる情報がスモッグのように私たちを襲っていると警告する。 
 
「過剰な情報は、静かな時間や沈思を要する物事を台無しにし、日常の会話や文学だけでなく娯楽の時間をも損なっている。市民や消費者である私たちは受け身になり、物事を疑ってみる習慣がなくなり、単純になっていく」
 
同書によると、米国の消費者は一九七一年には一日当たり五六〇の広告メッセージにさらされていたが、二十年後の一九九一年には五倍強の三千に膨れ上がった。
 
また、一人当たりの紙の消費量は、一九八〇年に約二七〇キロだったが、一九九〇年には約八一〇キロに上昇したという。 
 
テレビやラジオ、新聞、雑誌から情報が洪水のように押し寄せ、街には宣伝広告があふれている。電車の中でもヘッドフォンを付けている人は多いし、電話をテニスコートに持ち込む人も出てきた。
 
寝ている時以外は、情報漬けになっているようなものだ。 
 
圧倒的な量の情報が私たちの日常に押し寄せる中で、新聞の未来には何が待っているのだろうか。 
 
朝日新聞社が九月に開催したシンポジウムで、フランスのルモンド・ディプロマティック紙のイグナシオ・ラモネ社長兼編集長は次のように話す。
 
「情報不足の時代には、情報を持てば持つほど自由になれた。今は情報は過剰だが、自由が増しているとは言えない。情報洪水の中でわれわれに隠されている情報は何かを問うことが新聞やジャーナリストの役目だ」
 
ラモネさんは過去一年に最も大量に出たニュースとして、ダイアナ元英皇太子妃死去、フランス・ワールドカップ、米大統領不倫騒動を挙げ、「これらの大量の報道に隠れて他にももっと重要なニュースがあったはず」と訴える。
 
「速報やリアルタイム性が重要視され過ぎて、本当に大事な情報が公共に知らされていない。情報を隠すために、情報が使われている。ジャーナリストの課題とは、市民に知らせるべき情報がどこにあるかを探し出し、表に引き出すことだ」と明言した。 
 
さらに「今後、新しい技術に支えられて、異業種企業がニュースの世界に参入してくる。ジャーナリストの独立性がますます必要になる」と話していた。 
(了)

▼ネット時代、新聞はカスタム化する(1998.11)


「近い将来、現在のような紙の束の新聞は姿を消すだろう。インターネットでニュースを入手し、印刷を必要とする人が、手近なプリンターで間に合わせる時代が来ている」
 
米国のハイテク評論家エスター・ダイソンさんは八月に来日した時に、新聞の未来をこのように予言した。 
 
パソコン用プリンターの大手ヒューレット・パッカード社(HP)はダイソンさんの予言の実現に向けたパソコン用ソフトを開発、今月から無料配布している。このソフトと同社のインクジェット式のプリンターを使うと、あらかじめセットした時間に、パソコンが自動的に新聞や雑誌のホームページにアクセスし、指定したページを選んで、カラー印刷する。 
 
ウォールストリート・ジャーナルやMSNBC、ナショナル・ジオグラフィックなど数社が既にHPと提携し、読みやすいページレイアウトを工夫している。
 
USAトゥデーの場合、レターサイズ用紙一枚に、最新トップ・ニュースの要約と四、五本の短信、天気予報、株価、主要スポーツの結果などを盛り込むという。サービスは無料。「もっと詳しいニュースが欲しい人は、同社のサイトをご覧下さい」というわけだ。 
 
これまでのファクス新聞と違う点は、カラーで印刷されるのと、ペーパーワークに不向きな感熱紙を使わないことだ。 
 
「絶えず最新のニュースに触れていたいが、仕事中にテレビやインターネットが見られないビジネスマンが主な読者層になるだろう」とMSNBCの担当者がインターネットにコメントを寄せている。
 
一日の仕事のスタート時と昼食の直前などにセットしておけば、人と会った時の話題に困らないという。 
 
また「会議の前にいくつかのオンライン新聞をプリントしておけば、退屈なやりとりの合間に読める」という隠れた効用も考えられる。 
 
インターネット事業のコンサルタントのビン・クロスビーさんは「関心のあるニュースだけを選んで読むという新聞のカスタム化は、今後の新聞の方向性を示す。また、新聞社が大量に紙を購入し、印刷し、配達する時代は終わるだろう。HPのこのソフトは、新聞の革命に向けた一歩なのだ」と話している。 
(了)
 

▼犯罪ニュースは売れる。スポンサーは? (1998.12)


米国で犯罪情報専門のサイトがインターネット上に開設された。事件、事故などの警察関係のニュースを中心に、裁判や警備、警備ビジネス、さらに犯罪映画や新刊本の情報まで網羅し、犯罪に関する情報を総合的に提供する。
 
犯罪に特化したメディアは、刷、放送、オンラインを通じて初めてとあって、その意義や収入の見通しなどが注目されている。 
 
このホームページは「APBオンライン」(www.apbonline.com)。ニューヨーク本社の自前の取材陣に加えて、全米各地の新聞社、テレビ・ラジオ局、雑誌社と提携している。
 
クリックひとつで知りたい都市の犯罪ニュースにアクセスできる。 
 
ニュース部門は現在、新聞社やテレビ局などから引き抜かれたデスクや記者を中心に展開、今後はフリーの記者五十人を抱え、全米をカバーする予定という。
 
TVニュース番組の制作者や投資銀行などが出資し、ベンチャー企業として発足した。「数年間は赤字覚悟だが、『業界第一号』の強みを発揮したい」と最高経営責任者のマーシャル・デービッドソン氏は語る。
 
スポーツ情報専門サイト「ESPNスポーツゾーン」(WWW.espn.com)を具体的な目標に据えた。「誰もが知っているこのサイトでさえ、最初は赤字続きだった」 。
 
低俗に流れないよう、映画でいうとPG13(十三歳以下は親と一緒に観ることという映画業界の年齢指定)の格付けが得られるような節度あるページ作りを目標にしているとか。「どぎついタブロイド紙と高度な法律専門誌の中間レベルを目指す。
 
また事件の陰惨な面だけでなく、裁判で逆転無罪を勝ち取った弁護士の話など感動的なニュースも伝えたい」とホーグ・レビンズ編集主幹は話す。 
 
マーク・ソーター副社長は「犯罪ニュースには需要がある。報道の在り方に異論を唱える人は多いが、新聞やテレビを見ても、かなりの分量が犯罪報道に充てられている。インターネット上でも、元フットボールスターで夫人殺しの裁判で全米をにぎわしたO・J・シンプソン事件やコロラドの少女ジョンベネちゃん殺害事件のサイトはいつも混雑している」と話す。 
 
スポンサーには犯罪ものの人気テレビ番組の広告主や警備会社などが手を挙げる。
 
「米国には警官や弁護士や裁判官などの刑事事件の担当者、他の司法関係者など約三百六十万人がいる。さらにこの数を上回る一般市民が犯罪ニュースに関心を持っているのだ」とレビンズさんは話している。 
(了)

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