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餃子の膨らみに思い出を詰め込め!

普段の投稿ではヘッダー画像を自分で撮った空の写真で統一しているのだけれど、数日前から「#餃子が好き」という記事が募集されているようだから今日は思い出の餃子の写真を載せて、そのときのことを書いてみる。


大学の入学式を約1週間後に控えた3月のある日、学生寮での新生活が始まった。

同じユニットで暮らす同期は私を含めて5人。出身地はそれぞれ関東、関西、中国、九州とバラバラだったけれど、寮での新歓イベントが活発に行われていたことが幸いしてすぐに仲良くなった。

入寮日から1か月ほどが過ぎてそれぞれの生活が落ち着いてきた頃、みんなで晩ごはんを作って一緒に食べよう、という話になった。そこで選ばれたメニューが、餃子。

所属学部もサークルも別々の5人の予定をなんとか合わせて迎えた当日、17時ごろに寮の近くのスーパーへ買い出しに出かけた。

「何が要る??」
「餃子の皮、豚ひき肉、キャベツ、ニラ」
ワイワイ言いながら陳列棚の間を練り歩く。
「あと白菜」
「え、白菜!?」
「うちの家は白菜入れてたんだけどもしかして普通は入れない?」
「あ、私のとこは入れてたかも」
「ええ、うちでは入れたことないな……」

結局、キャベツさえあれば白菜はなくても問題ないだろう、ということで買わなかった。

「しいたけは??」
「餃子に入れるの??それは聞いたことない」
「ごめん私しいたけ苦手」

「あとはあれだ、香辛料、ニンニクとか生姜とか」
「それは私持ってるから買わなくていいよ」
「持ってるの!?」
「引越しの手伝いでお母さんが来てくれたときに一通りの調味料類揃えていってくれてさ」

そんなことを言いながら買い物を済ませてスーパーを出たときには、なぜか餃子だけではなく焼きそばも作ろう、という話になっていて、レジ袋には餃子の材料に紛れて焼きそばの麺や人参が入っていた。

寮に戻ってから調理室に集った。気づいたら自然と焼きそば担当2人と餃子担当3人にわかれていていて、私はせっせと餃子と包んでいた。

「久方、包むの速いね」
「雑なだけかも、焼いてる間に中身飛び出たらごめんね」
「大丈夫大丈夫、食べれば一緒」

みんなそれぞれ、違う包み方をしていた。例えば皮に先にタネを乗せるか、先に周りに水をつけておくか、とか。指先で摘んで作るひだの数もバラバラだった。

18年間別々の場所で生きてきた人たちが、今、共に暮らしているのだ。一緒に餃子を包んで、ホットプレートの上にそれぞれの「うちの餃子」を混在させているのだ。そんなことを考えて、なんだか不思議な気分になった。

「羽付き餃子にしたくない??」
「あれってどうやるの??」
「水溶き片栗粉を流し入れたらいいんじゃないかな」

そうして焼き上がった第1弾の餃子には、しっかりと羽根がついていた。

「すごい、初めて羽根付き作った」
「2回目のやつもこうしようよ」
その声を聞いて私はボウルに新たに水を入れ、片栗粉の横に並べてから、先に洗い物を済ませておこうとホットプレートに背を向けた。

私が食器をガチャガチャさせている間に、第2弾の餃子も焼き上がったようだった。

「いくよー、せーのっ」
ほっ、という掛け声と共にホットプレートの上の餃子たちがお皿へと移しかえられる。
「あれ、羽根ついてないね」
という1人の声を聞いて、私は思わず振り返った。
「もしかして、そこに置いてた水、入れた??」
「え、うん」
「ごめんそれまだ片栗粉溶いてなかった……」

つまり第2弾の餃子は、ただの水と共に焼かれたのだった。
「まあまあまあまあ、蒸し焼きってことで」
「羽根あり羽根なし、両方あって良いじゃんね」

ふと気づくと大量の焼きそばと餃子が出来上がっていて、誰かが「これ、5人で食べ切れる?」と首を傾げた。
「そもそも焼きそばと餃子の組み合わせって初めて見たかも」
「いいんだよ、食べられれば、なんでも」

その後1人の部屋にぎゅうぎゅうに押し入って頑張って食べたけれど、結局5人では食べ切ることができず、残った餃子と焼きそばは近くの部屋の先輩にお裾分けしに行くことになった。


改めて振り返ってみて、思う。餃子と同じくらい「誰かと一緒に作る」のを楽しむことができる料理って、実はそうないんじゃないか。私はきっとこれからも餃子を作る度に、あのときみんなと一緒に餃子を作ったあの時間を思い出す。

少し気取った言い方をするとすれば、餃子の中にはタネだけじゃなくて、思い出や感慨深さなんかも詰まっているのだ。

大抵の肉料理が苦手な私だけれど、そんな餃子は決して嫌いじゃない。


中高時代の同級生と2人で参加した免許合宿中、夜に宿舎で焼いた冷凍餃子もまた思い出の味。


ちなみに餃子にしいたけを入れる家庭で育ったのは私です。白菜も入れます。

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