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「傲慢と善良」と「火車」

 こんにちは、Hisaです。私は小説を読むのが好きで、最近宮部みゆきさんの「火車」を読みました。この本は1992年に出されたため、30年ほど前の作品にはなるのですが非常に面白い作品でした。そして、読んでいる途中に何度か「傲慢と善良」に似ているなと感じました。そのため、この2作品の共通点と異なる点について自分なりに述べたいと思います。ネタバレも少しは含みますので、これから読む予定の人は気を付けてください!ただ、結末などは書かないので、この記事を読んでから本を読んでも十分楽しめると思います。


「傲慢と善良」についての簡単な概要

  皆さんは辻村深月さんの「傲慢と善良」をご存じでしょうか?今まさに大人気の作品で、どこの本屋さんに行ってもおいてあるので知っている人や既に読んだ人も多いのではないでしょうか。調べたところ、2022年9月から2023年8月までで1番売れた小説で、発行部数は64万部を越えているそうです。「人生で一番刺さった小説」というキャッチコピーもよく目にします。
 私も半年ほど前に読んだのですが、引き込まれる設定からの思いもよらない展開であっという間に読み終えてしまいました。世間一般では「恋愛小説」や「婚活の小説」という認識?だと思うのですが、ただの恋愛小説ではなくミステリー要素もかなりあります。加えて、人の本質を突くような会話劇、文章もあり、これらが上手く混ざり合うことでこれだけの人気を得ているのだと感じます。

「火車」についての簡単な概要

「傲慢と善良」は2019年に発売されたのに対して、「火車」は1992年に発売された作品です。この作品もかなり知名度の高い作品で映像化もされています。こちらは世間一般では「ミステリー小説」として高い評価を受けています。傲慢と善良と違って恋愛要素はほとんどないのですが、「クレジットカード社会」について考えさせるような内容、現代に生きる人に対する作者の持論も含まれていて、個人的には学びにもなる小説でした。

「傲慢と善良」と「火車」の似ている点

物語の設定

 1つ目の似ている点は、この2作品ではどちらも「若い新婚の女性」が失踪し、それを主人公が探していくというストーリーになっている点です。そして、女性を探すためにその女性の歩んできた人生、住んできた場所、友人関係を主人公が追っていくという共通点もあります。もちろん、こういった設定の小説はこの2作品以外にもあると思いますが。

「都会に憧れ移住」した若い女性

 2つ目の似ている点は、「地方に住みながら東京に憧れ移住した女性」が出てくるといった点です。そして、そういった女性の心境や心の奥底にある想いを上手く言語化し、文章に落とし込んでいます。こういった文章は女性のみならず男性も共感できる部分があるはずです。都会に憧れ実際に移住してみるも、そう簡単に理想の生活を手に入れることはできない様子が両作品ともに描かれています。
 「火車」に出てくる女性たちは、「憧れの家の写真」を持っていたり、理想の生活のためにお金を借り始めたりしてしまいます。「傲慢と善良」に出てくる真美も、過保護で地方の固まった価値観を持っている両親のもとを離れるために上京しています。誰もが抱いたことのあるような心情を描いているからこそこれだけの評価を得ているのでしょう。

時代に切り込むメッセージ性

 この2作品は30年ほど発売された年が異なりますが、どちらもその時代ならではのテーマを扱いつつ、人の本質に対して切り込んでいるという点が共通してあると思っています。
 「傲慢と善良」では「婚活」をテーマにしながら、人間の本質を突いていく文章が印象的です。マッチングアプリが広がっている現代における「結婚」への価値観や婚活というテーマから現代人の「傲慢さ」と「善良さ」について語っている点が、「人生で一番刺さった小説」というキャッチコピーがつけられた所以であるといえるんではないでしょうか。特に、主人公と結婚相談所で働く女性とが婚活について話すシーンが個人的には印象的です。
 「火車」では、「クレジットカード社会」をテーマにしながら、その時代に生きる人たちの特徴について述べています。1980年代、1990年代に生きる人間ならではの視点が非常に興味深いです。特に、主人公と弁護士がうどん屋さんでカード社会について話すシーンが個人的には印象的です。

異なる点

主人公の立場

 2作品間ともに新婚の女性が失踪するという共通点はありますが、主人公の立場が異なります。「傲慢と善良」では、失踪した女性の夫が主人公として、婚約した女性を追っていきます。女性の両親に会ったり、地元の結婚相談所に行ったりしながら、彼女の人生をトレースしていきます。「火車」では、女性の夫の叔父が主人公になります。女性の夫である「和也」が、休職中の刑事である叔父に「失踪した女性を探してほしい。」と頼み込み物語がスタートしていきます。「火車」では主人公が刑事ということもあり、警察官としてのノウハウや人脈を使っていくので謎解き要素が大きくなっています。逆に「傲慢と善良」では夫が主人公なので、その分恋愛要素が強くなっています。

作品のテイスト、展開

 先ほどから何度か述べていますが、「傲慢と善良」と「火車」の1番の違いは「恋愛小説」か「ミステリー小説」かという点にあると思います。「傲慢と善良」ではミステリー要素もかなりありますが、謎解きというかんじでもないです。
 他にも、「傲慢と善良」は「婚活」に焦点を当てていて、「火車」は「カード社会」に焦点を当てているという違いがあります。これは時代に合わせたテーマ、その時代に変化の激しいテーマになっています。「傲慢と善良」ではマッチングアプリの普及を含めたネット社会において変化を見せる「婚活」、「火車」ではクレジットカードが普及し変化が激しい「金融」に焦点を当てています。
 また、最初の設定はかなり似ていますが、その後の展開、結末はかなり異なります(当然ですが)。どちらの作品も驚愕の展開が続いていく印象はあるので、両作品とも自信をもっておススメできる作品です。

まとめ

 以上で、簡単にではありますが「傲慢と善良」と「火車」の類似点と相違点について述べてきました。どちらも時代に適応した作品でありつつ、いつ読んでも面白い名作になっています。昭和、平成に焦点を当てた「火車」、令和に焦点を当てた「傲慢と善良」。まだ読んでいない人は是非読んでみてください。


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