憲法改正によって基本的人権は剥奪されるのか?
憲法改正に向けての動きが積極的になってきました。
自民党だけでなく、日本維新の会や国民民主党も改憲に向けて動き始めているようです。
この記事によると、「衆議院選挙で大幅に議席を増やした日本維新の会と、国民民主党の幹事長らが会談し、憲法改正に向けた議論を加速させるよう与党側に働きかけていくことで一致しました」ということらしいですが、与党と野党がその気なら憲法は改正されることになりそうです。
では、何のために憲法改正が必要なのでしょうか。
自民党によると以下の項目が挙げられています。
1 「自衛隊」の明記と「自衛の措置」の言及
2 国会や内閣の緊急事態への対応を強化
3 参議院の合区解消、各都道府県から必ず1人以上選出へ
4 教育環境の充実
また、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義という日本国憲法の3原則は変更しないらしいです。
次に、自民党による日本国憲法改正草案を見てみましょう。
たしかに、11条において、改正後も基本的人権は保障されています。
しかし、同じく基本的人権を保障する条文である97条が削除されています。
この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
日本国憲法第97条
これについては、手違いで11条と97条が重複してしまったため、どちらかを削除することで整合性を図ろうとしたものだと説明できますが、なぜ11条ではなく97条を削除したのでしょうか。
まず、97条は第10章に記されている条文です。
第10章とは最高法規の章であり、私が調べたところによると、97条は憲法の目的を示しているとの見解がありました。
すなわち、この日本国憲法は、国民の基本的人権を守るために存在するということです。
一方で、日本国憲法では、公共の福祉というものも定められています。
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
日本国憲法第12条
これは、社会全体の利益のために、基本的人権が制限される場合があるということです。
しかしそれでも、97条が存在する限りは、基本的人権の保障が最大限優先されるべきであって、基本的人権は公共の福祉よりも上位に位置していると考えられます。
つまり、97条(上位)>11条、12条(下位)ということです。
では、97条が削除されるとどうなるでしょうか。
すると、11条と12条、基本的人権と公共の福祉が同列に位置することになり、両者が対立した場合にどちらを優先するかという基準が曖昧になります。
例えば、ワクチン接種についてですが、これは感染拡大を防ぐという点で社会全体の利益になると考えられています。
しかしそれと同時に、国民の基本的人権は最大限尊重されているため、その判断は各人に委ねられています。
その結果、「努力義務」という言葉が使われています。
そこでもし97条が削除され、基本的人権が憲法の目的でなくなってしまった場合、先述のように基本的人権と公共の福祉の優先順位が曖昧になります。
そのため、ワクチン接種を強制にし、公共の福祉を優先するという法律が制定される可能性も否定できません。
そのとき国民は、97条が既に削除されてしまっているために、97条を根拠にワクチン接種法を違憲と唱えることはできないでしょう。
また、憲法改正案に含まれている緊急事態条項によって、そのような法律と同様の政令を制定することが容易になります。
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
日本国憲法改正草案 第98条 第1項
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
日本国憲法改正草案 第99条 第1項
緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
日本国憲法改正草案 第99条 第3項
緊急事態においては「国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」のであって、仮に政府が「国民の生命を守るためにワクチン接種を義務化します」と宣言したときは、私たちはその指示に従わなければなりません。
ここで最も重要なことは、「国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置」あるいは「公共の福祉」は誰が決めるのか、という点です。
「公共の福祉」は「社会全体の利益」を指しますが、「社会全体」という1つの主体があるわけではなく、結局は一部の人間が決めるはずです。
その一部の人間が正しい判断をするかどうかは分かりません。
そのため、私たちは基本的人権を有しているのであり、自由に選択できるようになっています。
憲法改正における97条の削除と緊急事態条項の設立によって、基本的人権は剥奪されないにしろ、その力は弱まるのではないかと思われます。
そうならないことを願います。
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