見出し画像

日本語にある台湾語のヴォキャブラリー

台湾語の中に日本語のボキャブラリーがたくさんあるというのは、よく聞きます。"運ちゃん"だとか"アッサリ"だとか、枚挙に暇がありません。これとは逆に、日本語の中に台湾語と同じような読み方あるいは書き方をするボキャブラリーがあるのはご存知でしょうか。ここでは、そういう例を紹介します。


喫煙

中国語ではタバコを吸うことを"抽煙"とか"抽菸"と表現します。動詞が抽になっていますね。日本語の用語とは異なります。
これに対して、台湾語では"chia hun"と発音します。この漢字は"吃煙"であり、"喫煙"と同じになります。
この"喫"の用い方の類似性については、別のところで"喫茶"という事例も紹介しています。


脚気

この言葉は"カッケ"と読みます。これは"脚"の文字を一般的には"キャク"と読むのと比べるととてもイレギュラーです。"脚"の漢字を"カク"と読むのは、漢字の説明としてはありますが、実際の発音としてはこの"カッケ"くらいしか見当たりません。呉音として"行脚"を"アンギャ"と読む例がありますが、これは"カク"ではありません。

一方台湾語では"脚"は"kha:カー"と発音します。よく使うのは腳踏車ですね。中国語では"jiaotache"ですが、台湾語では"khatachia"と読み、"脚"の発音は"kha"です。気は"khi"と発音するので、"脚気"は"khakhi :カーキー"となります。ここから"カッケ"という発音につながっているのではないかと想像しています。

この"脚気"という言葉が、何故台湾語に近い発音で読まれるのか、その理由はよく分かりません。ビタミンBが欠乏することにより起こるこの病気は、明治時代の軍隊でよく起こっていたと聞いています。そのことと関係があるのかも知れません。

厦門

この地名は"アモイ"と読みます。日本語の通常の漢字の音読みでは"カモン"となります。中国語では"xiamen :シアメン"ですね。この地名は台湾語では"hamui:ハームイ"になります。これらいくつもの漢字の読み方と、"アモイ"の間には違いがあり、その理由は長い間の謎でした。

ある時、古い時代のオランダのこの地域の地図を見ると厦門のことを"Amoy"と書いてあるのを発見しました。ここから、オランダ人は閩南語の"厦門:ハームイ"を"アーモイ"と聞いたのではないかと想像できます。思いつくのはスペイン語/ポルトガル語ではhの発音がなされず、全て母音のみになってしまうという事ですね。オランダ人が来る前にポルトガル人がこの地名を聞いて"ハームイ"の発音からhが脱落してしまったのではないでしょうか。そのためにオランダ人がこのポルトガル人の使っていた地名を流用したのではないか。そして、今の我々も"厦門"を"アモイ"と読んでいる。その様に想像しています。

米粉

台湾の食材で有名な"米粉"は、台湾語では"bihun"と読み,日本語の"ビーフン"とほとんど同じ発音です。これは、この食材が、日本統治時代の台湾で日本人に認識され、導入されたということなのでしょう。
この台湾由来の食材で台湾語読みを使うというのは、他にありそうですが探しても見つかりませんでした。最近になって親しまれている台湾の食べ物では、漢字読みのそのままか、中国語読みになっているケースが多く、台湾語読みにはなっていません。"ビーフン"はレアケースのようです。

バクテー

"バクテー"は台湾ではなく、シンガポールやマレーシアで食べられている料理ですね。英語表記では"Bak kut teh"となり、"バクテー"と発音されます。漢字の表記は"肉骨茶"です。この発音は、台湾語の発音のままです。シンガポールにいる華僑は閩南人が多く、彼らはたくさんの台湾語と同じ語彙と発音を使っています。
"肉"を"bak"と発音するのは、"肉粽:bak tsang"など台湾語でもよく聞きます。古代の中国語からこの発音になる経過がよく分からないので、福建にいた少数民族の言葉からの借用なのだろうと考えています。

最後に灯台下暗しと言うか、数字の数え方を紹介します。
台湾語での数の数え方は、日本語の漢数字の音読みと激似です。これは,日台とも唐の時代の漢字の発音をそのまま保持しているからで、台湾語から日本語に影響したものではありませんが、発音の似ている例として挙げておきます。
一:chit(チッ)
ニ:nng(ヌン)
三:san(サ)
四:si(シ)
五:go(ゴ)
六:lak(ラッ)
七:chhit(チッ)
八:poeh(ポェ)
九:kau(カゥ)
十:chap(ツァ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?