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【台湾建築雑観】建築計画/工事の常識の違い(そのニ)

前回、建築計画と構造についての日本と台湾の常識の違いを紹介しました。このことについて書き始めると話題がいくつも出てくるので、後半を別の記事にします。後半は、設備計画と施工についての違いです。

設備

「集合住宅のメーター類は玄関前にまとめて配置する」

この件については、設備編でガス、水道など個別に説明しました。要約すると、台湾では五大設備設計の審査が準公営の設備会社に委ねられており、彼らが検針をしやすい様に、1箇所に集中配置する様になっている。そのために設備計画としてはとても不合理なことになっているということです。

そのために、日本の様な玄関前に持ってくるまで共用配管とすることができません。誠に面倒くさいことになっています。

「浸水被害を考慮し受電設備、発電設備は地上階に配置する」

日本では、病院、公共のオフィスなどでは、地下においた受電設備や発電設備が浸水によりダウンしてしまうことを防止するため、地上階に計画することがよくあります。

しかし、台湾では前期の通り五大幹線の審査の際、台湾電気という準公営の企業のチェックがかかり、このような問題に対する柔軟な対応ができません。基本地下一階に計画することになっています。過去一件だけ一階に受変電設備がある設計図を見たことがありますが、他は一律地下に設けられています。

施工

「コンクリート打放しはコンクリート素地とする」

コンクリート打ち放し仕上げのことを、台湾では"清水混凝土"と言います。由来はよく分かりません。素地仕上げくらいの意味でしょうか。

日本人の常識では、コンクリート打ち放し仕上げというのは、コンクリートを打設した後その表面をそのまま仕上げとし、最低限表面を保護する撥水剤塗布程度の処理を施したものと考えています。台湾にも、もちろんこの様なコンクリート打ち放し仕上げはあります。しかし、仕上げとして"清水混凝土"とうたっていても、コンクリート素地の上の処理ではない仕上げのものもあります。"清水混凝土"には2種類の工法があるのです。

それは、コンクリートの上に台湾で一般的に行われるモルタルの下地処理を施し、その上にコンクリート打ち放しに見える塗装処理を施すというものです。下の写真の様な具合です。
パッと見には、コンクリート打ち放し仕上げに見えます。しかし、よく見るとセパレータの穴の高さが同じであったり、表面の欠けている場所を見ると表面材と下地材の異なっている様子が見えたり、この表面がフェイクとして作られたコンクリート打ち放しであることが分かります。

台湾では、この様な壁面処理も"清水混凝土"と呼ばれています。

一見コンクリート打ち放しと見える柱。
表面材と下地材が異なっていることが分かります。
モルタル素地とコーナー保護部材が見えます。

「排水のための躯体勾配を取る」

日本の建築設計では、陸屋根を計画した場合、屋上面に水が溜まるのを避けるために、躯体そのもので勾配を作り、側溝を設ける周辺部に向かって水が流れるように考えます。通常主要な面については1/100であるとか、1/75などと勾配を設定し、コンクリートの床そのものが勾配を持つように設計し、施工します。

この躯体で勾配を取るということが、台湾ではとても曖昧になっています。平面図上、或いはランドスケープの図面上、断面的に勾配をとることは文字面としては書いてあります。しかし、構造図にはこのことは反映されていません。基本的に屋上面でも躯体図はフラットな断面で書いてあります。断面詳細図にもその対応は明記されていません。
そうすると、この勾配をどのようにして実現するのかがとても曖昧になります。

この様な設計図書で、設計図のまま施工すると、躯体はフラットに打設し、その上に設ける押えコンクリートの厚さで勾配をつけるように施工されてしまいます。そして、この様に施工されると、躯体の上に設ける防水層がフラットになるため、この部分に死に水がたまりやすくなります。実際にそのように施行された建物では、押えコンクリートの下に水たまりができていて、漏水の危険性を孕んでいるのだと考えています。

そのために、僕の担当する案件では、次善の策として、屋上面やルーフバルコニーとなるスラブ面では、躯体勾配を実現するために、勾配部分の増し打ちを現場で指示するようにしています。そうすれば、防水層の上に死水がたまることは防げると考えています。
しかし、この要求でさえ実現させることはなかなか困難です。

「軽量鉄骨間仕切りは石膏ボードで作る」

日本の内装工事では、軽量鉄骨間仕切りを石膏ボードで作るのはほぼスタンダードです。水回りに使う場合には防水仕様の石膏ボードとしますが、いずれにしろ石膏ボードの範疇の材料です。

しかし、台湾で軽量鉄骨間仕切りとして使われる材料は、石膏ボードは一つの選択肢でしかありません。特に住宅の計画において使われるボード材は、基本的に石膏ボードではありません。セメント板或いは珪酸カルシウム板が主に使われています

この件については、一つ項目を立てて説明しています。

「アスファルト防水を基本とする」

日本では、防水の工法としてアスファルトが最も信頼性が高いとして広範に用いられています。国交省の標準仕様書にも、アスファルト防水の複数の仕様が性能別に列挙されており、日本の公共建築の設計ではそこから適切な防水工法を選択する様になっています。

しかし、台湾で設計に関わっていると、これまでに担当した案件では、設計者がアスファルト防水を選定していたことを見たことがありません。台湾の私企業の建設案件では、防水工事として塗布防水を使うことがスタンダードになっているのです。
これには、いくつもの複合的な理由があると考えています。

  1. コスト削減。

  2. 複雑な断面形状に対応しやすいこと。

  3. アスファルト防水を施行する際の、空気汚染の問題。

  4. 既にデファクトスタンダードとなっているため、施工業者を探しやすいこと。

このことに関しては詳しく調べだことがあり、台湾でもアスファルト防水を標準的な納まりとすることができないか検討しました。結果としてはそれは可能だと考えています。しかし、台湾の建築業界全体では塗布防水がスタンダードになっており、この工法に慣れた設計者、施工業者、職人が大多数を占めているのが現実です。

塗布防水としたことで、防水工事の不具合が起こっているかと言えば、それは少なからずあります。とは言え、それは工法そのものの問題というよりは、施工時の品質管理の問題がほとんどです。下地処理が不十分であるとか、防水立ち上がり部での処理がおかしいとか、コーナーでの補強が足りないなどです。塗布防水でもキチンと設計し施工すれば、充分な性能を確保できると考えています。

ですので、現在はランドスケープデザインのための細かな処理が必要な住宅の場合、塗布防水を採用し、商業施設などの大規模でフラットな面積を処理する場合には、アスファルト防水を標準工法とすることにして対応しています。

また、この屋根面に塗布防水を用いるという考え方は、日本でも採用され初めており、工法の改善が進んでいるようです。

「コンクリートの壁面に防水をする」

台湾の中国語のスラングの記事で"壁癌"と言う言葉を紹介しました。そこでこの現象のことを、「外壁から湿気がコンクリートに伝わり、内装のモルタル下地に影響することがあります。」と説明しました。この場合の外壁はコンクリートの壁のことです。

日本では、建物をRC造で作った場合に、壁面に防水をすることはありません。止水処理をするのは窓周りと、コンクリートの打ち継ぎをする部分のみです。それも面としての防水処理ではなく、線としてのシールの止水処理です。
しかし、台湾ではどのディベロッパーもこれだけでは壁面の防水は不十分と考えており、一般的には、窓の四周に幅30cmの、躯体打ち継ぎ面にも幅30cmの塗布防水を施します。更に、これでも不十分と考え、コンクリートの外壁面全体に塗布防水を指示するディベロッパーもいます。
この様な防水を行う前提の思想は、コンクリートの壁はそれだけでは水を通してしまうということでしょう。

日本では、屋根面或いは地下躯体においては防水をしないとコンクリートを通して水が室内に入ってくることを懸念します。水が屋根にたまっている様な状態からでは、確かに水はコンクリートを通して室内に入ってくるでしょう。そのために防水をするわけです。
しかし、壁面のコンクリートに対してはそのような心配は一般的にはしません。

この日本の処理と比べると、台湾では地上面のコンクリート壁面でも、日本の地下躯体と同じように防水処理をしなくては、室内に水が入ってくる恐れがあると考えているということなのでしょう。

台湾の湿度は日本より高いというのは事実です。それがために、壁癌といった不具合もよく起こり、それを防止するために、壁面に対しても一定の防水処理をしないといけないと考えられています。


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