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【台湾建築雑観】囤房族とは

8月の聯合報にあったこのヘッドニュースの、"囤房族"という用語に目が留まりました。房が部屋なので、どうも不動産に関わる言葉の様です。その場にいた同僚に、この"囤房族"とはどういう意味なのか聞いてみました。

彼によると、これは居住用ではなく資産としてマンション等の不動産を所有している資産家のことなのだそうです。台湾の不動産は、今のところバブルを経験していないので、土地や不動産は所有していればそれだけで資産価値が上がると信じられています。そのため多くの資産家が、複数のマンション等の不動産を賃貸等の資産運用をせずに、ただただ所有しているとのこと。その様な資産家を"囤房族"と呼ぶのだそうです。

囤房族增2萬人 大戶減少

その様なマンションの資産家が20,000人増加した。しかし多数の不動産を取得している資産家は減っている。」というニュースです。

「財政部の報告によると、非居住用不動産の所有者"囤房族"は今年6月30日までで全国で54万人となっており、その数は去年と比べると約2万人増えている。2軒持っているのを分水嶺に、2軒以下の所有者は増加、3軒以上の所有者は減少している。そのうち10軒以上の所有者は1,608人となっておりこの人数は去年よりも51人減少している。

財政部の統計分析によると、多くの不動産を所有する囤房族の数は年々減少している一方、1軒あるいは2軒の不動産の所有者は増えている。その原因は、売買・相続或いは用途変更などさまざまであるが、地方政府が財政対策のため、不動産所有の際の所得を精査していること、課税額の割り増しを検討していることなどから、複数の不動産を所有している資産家が、マンションを売り払っていることなどが理由であろう。

財政部は、有効利用していない不動産に対しての税金、"囤房稅"の比率の引き上げを実施する予定である。現状1.5%〜3.6%である囤房稅を、2%〜4.8%に引き上げる。課税負担を大きくし、有効活用されていない不動産を放出させるのが狙いである。
それぞれの所有者の個人の状況を見てみると、非居住用不動産所有者は545,586人となっており、去年より約20,000人増えている。これが"囤房族"の数が増加している主な理由である。3軒以上所有している"囤房族"は35,962人となっており、去年より745人減少している。10軒以上所有している"囤房族"は1,608人で、51人減少している。

家を単位として"囤房族"を数えると、すなわち本人、配偶者と未成年の子女を合わせて考えると、51万戸となる。これは、去年の49万戸と比べると2万戸増加していることになる。このうち2,019戸が10軒以上の不動産所有者であり、これは91戸減少している。
財政部は囤房族の分布を縣と市の別で分析している。それによると囤房族の最も多いのは新北市7.6万人、台中市6.5万人、高雄市5.9万人、台北市5.6万人の順である。各縣市においても複数の不動産所有者は減少、一軒の所有者は増加している。
このうち新北市では囤房族が3,826戸増加しており、その数は6都市の中で最も多い。それ以外の縣市を含めると、嘉義市の囤房族が3,996戸増加しており、最も数が多い。

住商不動産CEO徐嘉馨によると、多数の不動産資産を持っている囤房族が減っているのは、恐らくこの囤房稅に対する対応であろうとのことである。政府による不動産対策が様々に行われ、税率の引き上げもすでに予定されている。そのために所有している不動産を少なくし、実質上節税対策となるよう考えているのであろう。

馨傅不動產智庫のCEO何世昌によると、この財政部のデータを読み解くと、現在の囤房稅の効果はそれほど明らかではないと分かるとのこと。この税金を避ける方法はいろいろある。また、囤房稅の引き上げによる効果を過大に期待している恐れがある。この税金を上げれば囤房族が不動産を手放すと考えているようであるが、他のどこの国でもこの様な税制により不動産価格の上昇を抑えることに成功していない。この様な政策の下では囤房族は税金の負担を家賃に転嫁するだけである。

既に囤房稅を実施している台北市・宜蘭・連江のほかに、桃園・台中・台南・高雄・屏東などの7つの縣市が去年の7月1日から囤房稅を実施している。財政部が囤房稅の割り増しを検討していることと合わせ、今後もこの政策の動向には注意が必要である。

財政部は、2021年から定期的に全国の非居住用不動産の個人及び家の単位の統計を行っている。このデータには、地下室・共用部・営業用不動産・居住用不動産(公益の貸し出しを含む)・一部テナント貸出などを含んでいない。非居住不動産の状況を把握する税務データである。」

囤房族璔2萬人,大戶減少
全國囤房族統計

含み益を期待する囤房族

この記事はデータの読み取りを主にしていますが、この様な資産を持っていない僕にとっては、この様な"囤房族"と呼ばれる資産階級がいるということが新たな知見でした。

台湾で設計事務所に勤めたことがあり、今も台湾の日系ディベロッパーでコンサルタントをしている僕は、常に共同住宅の案件に関わっており、その設計と工事監理を行ってきています。しかし、これらの住宅がどのような人々の手に渡るのかイメージできずにいました。これらの住宅は、台湾の一般の労働者の給与水準では購入することができない超高額商品なのです。それは、台湾人の建築師の友人も同じ感想でした。
恐らく、この記事で紹介されている囤房族は、これらの新しい住宅の購入者の少なくない部分なのでしょう。すでに不動産を所有しており、さらに資産を増やすためにもう一軒の家を買う。そういう資産家層が一定数いて、その人々の動向を分析している記事なのでしょう。

しかし、この様な囤房族がいる大前提は、不動産を持っていればそれだけで資産価値が上がるということです。日本ではバブルが弾けて以降、不動産は所有しているだけではお金を生まず、これを運用してこその資産と考えられています。投機ではなく投資のための資産であると。しかし、台湾では今でも不動産価格の上昇は続いており、これは持っているだけで資産価値は上昇するわけです。

僕は、この様な不動産価格の上昇は永遠に続くわけではない以上、どこかでピークを迎えざるをえない、下落に向かう特異点に、いつかぶつからざるを得ないと考えています。
現在の中国は、あまりの不動産特需に目がくらみ、過剰な供給をしていまい、急激に住宅不動産市場が縮小を始めています。バブルが弾けてしまったという風評が流れています。一方、台湾ではいまだ不動産価格の上昇は続いており、それがために一般の人々にとっては住宅の購入は夢になってしまっています。

しかし、僕は台湾でも、30年前の日本の様に不動産バブルが弾けて価格が下落し、一般の人々でも適切な価格で住宅が購入できる時代が来るに違いないと考えています。さもないと、台湾の普通の人たちはあまりにも可哀そうです。
そして、そのような時代が来ると、この様な囤房族はすぐにでもこれらの住宅を売り払い、投機のチャンスのある他の資産に乗り換えるのでしょう。そうすれば、ここに眠っているたくさんの住宅は市場に出てくるに違いない。そして、新たな価格調整の局面に入るのだろう。囤房族の動向は、不動産バブルの行く先を占うことになるのではないか。この記事を読んで僕はそんな風に思いました。


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