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記憶の旅日記1 オックスフォード

21歳の4月、初めて日本からヨーロッパに着いてイギリスのオックスフォードで3ヶ月住んだ。オックスフォードは古い街で、ハリーポッターの映画もここで撮られたそうで、いかにも古いアカデミックなイギリスらしい街だった。日本でブリティッシュ・カウンシルが紹介してくれた大学附属の英語学校に行っていたが、授業料が高い割に学ぶことが少なくて学校はあまり楽しくなく、1年間日本でアルバイトして貯めたお金が消えていくのが辛かった。その時は長髪でゴムを5個ぐらい連ねて留めていて、確かカムデンマーケットで買ったBALIと書いてある蛍光ピンクのTシャツがお気に入りだった。まだ寒かったから日本を出るときに友達にもらったドイツ軍の深緑のアーミーコートを毎日着ていた。オックスフォードは街の真ん中になだらかな丘のある大きな公園があって、そこから森につながり、そこを超えると寮になっていた。ある日歩いていたらその丘の端から端まで虹が出ていて、それがぼんやりと言うより「確か」に存在していて、近くに行ったら本当に触れそうな気がしてそこまで走ったが、触れずにしばらくして消えた。

街に美術館があり、その時にはチャップマン兄弟の展覧会がやっていて、オープニングを見に行ったら来場者の一人が抗議でペンキをぶちまけて警察に連れ出されるところだった。ペンキにまみれて連行されるその人を見て、外国に来たなあ、と言う実感が湧いた。

いくらだったか忘れたが当時の僕にしては結構お金を出して、ロードサイクリングの自転車を買った。菜の花畑がその季節はちょうど咲き誇っていて、どこまで行っても黄色の地面と青い空が美しく、空気の匂いと一緒に記憶に残っている。

ロンドンに住んでいた友人が子供が産まれたと聞いて、街の玩具屋で可愛いバービー人形を買って、リュックサックに入れてオックスフォードからロンドンに自転車で週末に届けに行った。図書館にあった地図で見たらそんなにたいした距離じゃなさそうだったし、週末の天気予報は晴れていたので大丈夫と思ったけれど、実際に走ってみたら山がありかなりの高低差があった。ちょっと遊びにいくね、と言うぐらいの気持ちで町を出て、山の景色が綺麗だなあ、と思っているのもしばらく経って足が痛くなってきた。それでもがんばっていたら、タイヤがパンクした。山の中だったので誰も来なかった。何度か車が通っても通り過ぎていってしまった。それでしばらく歩いたら村が見えてそこでおばさんにロンドンに行きたい、「I want to go to Rondon」と伝えたが渡英2ヶ月の僕はLとRの差がわからずLondonではなくRondonと何度も言ってそのおばさんには伝えられず結局駅を教えてもらった。電車に自転車を乗せてしばらく走ったら街っぽくなってきたので、降りて、自転車屋を探して修理してもらった。そこから友達の家までまた走った。もう体力の限界だった。夕方に雨も降ってきた。でかいヘッドホンでボブ・マーリーを聞いていた。ロンドンの赤い2階建てバスが見えてきてようやく近くに来ていると言うことが感じられて、嬉しかった。

結局ほぼ真夜中に友達の家に着いた。ガクガクの足でリュックからプレゼントを渡したら、とても喜んでくれた。そして「ありがとう。すごく嬉しいよ。子供は男の子だけど」と言った。


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