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【小説】初華 死刑を求刑された少女 ~第一章~ (4)

(4)


2026年 1月18日 
判決日まであと16日 


 あ~もう、背中が痛くてしょうがない。いつも思うんだけど、拘置所(ここ)の敷き布団って中に何も入ってないんじゃないの? かと思えば、掛布団は体が押しつぶされるかと思うくらいに綿がパンパンに詰まって重たいし。掛布団の綿を半分くらい敷布団に分けて欲しい。
 独居房は寒いし、寝心地は悪いし、すべてがマジで最悪。


「外は天気も良くてあったかそうなのに、なんでここはいつもこんなに寒いの! 早くきてよ!」


 コンクリートの壁に囲まれた四畳の狭い部屋の真ん中で、寒さに体を震わせながら正座をして待つ。
 朝七時に流れる「爽やかな」音楽で起床し、布団をたたみ、七時十分までにトイレと洗面を済ませる。トイレと言っても個室ではなく、便器はむき出しだ。ベニヤ板の衝立で下半身は隠せるようになっているけれど、外からはしているのが丸わかりだ。下手をすると、見回りに来た刑務官に用を足しているところを見られることもある。もちろん、一秒と経たずに刑務官は去っていくから一瞬のことだけれど、しているところを見られたことに変わりはない。見られるのも嫌だけど、それ以上に音を聞かれるのが嫌だった。
 以前、タイミング悪く見回りに来た宮田くんと目が合ったことがあった。おそらく、わたしの顔は一瞬で赤くなっていたと思う。宮田くんがばつが悪そうな顔をして、慌てて去っていったのを思い出すとマジであの顔をぶん殴りたくなる。


 唯一、ここのトイレは普段使い慣れている洋式だったのが救いだった。拘置所と違って、警察の留置場のトイレは和式だった。留置場に収監されるまでは、和式トイレという存在すら知らなかった。
 使い方がわからないので、看守さんに訊いたら(留置場は女性の看守だった)、大袈裟に驚いていた。そして、看守さんがトイレの使い方を実践して教えてくれた(実際にしたのではなく、用の足し方を演技してみせただけ)。正直、眩暈がした。こ、こんな恥ずかしい恰好でするの?
 床から一段高くなった和式便器に上がり、しゃがみ込む。ただしゃがんでいるだけなのに、看守さんの大きなお尻が突き出しているように見えて、見ているこっちが恥ずかしい。しかも、トイレのスチール製のドアはなぜか四分の一程度が切り取られていて、トイレの中が見えるようになっていた。それに、この留置場は看守がをぐるっと一周して房内を監視できるようになっていた。これ、トイレ側の格子窓から丸見えなんじゃないの?
 トイレのドアを開けたり閉めたりして廊下から見えないかどうか、何度も確認した。看守さんに単独室でよかったわねと言われた。どうしてと訊くと、共同室だとトイレも共用だからと言われた。死にたくなる。

もっとも、わたしは未成年という理由でどのみち単独室であることに変わりはなかった。未成年の容疑者が、誰かと相部屋になることはないらしい。


「そんなことよりも点検はまだなの!」


 今は朝食前の「点検」待ちだ。部屋にいるかどうかなんて、ドアの窓から中を見ればすぐにわかるのに、いちいち正座して待たなければならないなんて、意味がわからない。しかもこんなうら若き女子高生にこんな酷い仕打ちをするとは、古い考えしか持たない体育会系の大人の嫌がらせなのだろうか。正座して待たせるなんて。今の学校で正座なんてさせたら体罰で訴えられるレベルだ。下手をすれば解雇されるか、別の学校に転任させられるかもしれない。
……なんて、こんな事だから「反省していない」と思われているのだろうか。人を五人も殺している凶悪犯罪者なのに。しかも死刑確実の……。

 反省……
 わたしは、何も悪くない。
 悪いのはあいつらだ。だから反省なんかしない。
 あの子を殺したあいつらの方こそ、地獄に堕ちて反省するべきだ。
 やったことに、何も罪悪感はない。
 死んだ連中は報いを受けただけだ。わたしと、そして彼女の報いを。
 殺されて当然だった連中だ。それなのにわたしが死刑なんて納得がいかない。
 あたしを裁く連中にあたしがどんな気持ちで人を殺したのかなんて、わかりはしない。わかってたまるか。裁判官の右隣りに座っていたおばさんは泣いていた。なんなの。あたしに同情しているの?
〝謝れば許してあげるから〟って? 〝こんな子供が〟って? 〝可哀そう〟だって?


 一体何様のつもりなの。気持ち悪い。気持ち悪いんだよ。みんな。


 心に沈んだ澱が泡立っていくのを感じると、痛いほどに爪を膝に食い込ませた。裁判のことを思い出すと眩暈がしてこめかみがズキズキと疼いた。
心臓の鼓動が早くなって息も苦しい。

 わたしは顔を上げて瞼を閉じると深くゆっくり深呼吸した。鼻から息を吸って、鼻から出す。それを何度か繰り返した。
 泡立った澱が暗いしじまに沈んでいくのを感じて落ち着いてきたわたしは、ふーっと長い息を吐いた。それと同時に廊下から声が響き渡った。


「点検用意ー」


 やっときた! あのイケメンヴォイスは杉浦さんだ。
杉浦さんは細くて背が高くて黒縁の眼鏡をかけている。イケメンじゃないけど、あの特徴的な渋い声は好き。でも、普段喋る声のキーは結構高くて軽い。どうやってあんなに低くて渋い声を出しているんだろう。
 わたしの独居房の前に杉浦さんともう一人、名簿みたいなものを手に持った刑務官が立っていた。この刑務官は海老原さん。ドラマで見るような「これぞまさしく看守」みたいな感じの人で、帽子を目深にかぶって、いかつくて、だけどわたしよりもちょっとだけ背が低いおじさん。明らかに制服のサイズが合っていなくて、袖が長すぎるのが可笑しかった。海老原さんは「ほかのヤツに舐められたらいけん」と言って、わざとオーバーサイズの制服を着ることで自分を大きく見せたいようだけれど、はっきり言って逆効果だった。
 海老原さんは見た目と違って結構優しい。初めて拘置所に来て不安になっているわたしに気を遣って声をかけてくれたり、ここでの生活の仕方について色々教えてくれた。
 点検はいつも二人一組で行っていて、杉浦さんが扉の施錠を確認してから海老原さんがいつもの文言を言った。


「3室、番号」


「3番! 3番!」
 寒いから両手で膝をがさがさ擦りつつ、早口で番号を答える。


「3室、1名」
海老原さんと杉浦さんの声がハモった。この部屋にはわたし1人しかいないのに、わざわざ確認する必要があるのだろうか。


「3番。呼称は1回。あと、手の位置は足の付け根」


「はーい」


 海老原さんはこういう時「だけ」は真面目だ。お堅いというか、規律を重んじるっていうか、まるで学校の先生みたいだ。
 点検は朝と夕方の2回あるけれど、いつもわたしが最初だった。わたしよりも前の番号の人はいないらしい。というか、わたし以外に誰もいないような気がする。この拘置所は4階建てだから、もしかしたら別の階に人がいるのかも知れないけど、確認したくてもほかの部屋を見てまわることはできないし、誰も教えてくれない。みんな、けちんぼだ。
 わたしの点検が終わると、杉浦さんと海老原さんは他の部屋の施錠を順番に「よし」と声を出しながら確認していった。
施錠を確認する音で、わたしがいる南側廊下の独居房が何室あるのかがわかる。音が10回聞こえたから、わたしの前の2部屋とわたしの3室を合わせて全部で13室ということだ。10回目の音でようやく「点検やすめー」の間延びした号令が廊下に響き渡る。この点検やすめの号令がかかるまで、正座して待機していなければいけない。


 拘置所(ここ)に来たばかりのときは号令がかかるまでちゃんと正座をして待機していたけれど、今はわたしの「点検」が終わって刑務官の姿が見えなくなるとすぐに足を崩している。今日もたぶんバレてるだろうけど、いくら注意しても直さないとみて諦めたのか、誰も何も言わなくなった。
 一月だから当たり前なんだけど、それにしても寒い。就寝のときは、靴下を履いたままじゃないと、とてもじゃないけど寝られない。それくらいに寒い。この建物にはエアコンや空調というものがなかった。信じられない。いったい、いつの時代に建てられたものなのだろうか。ここに来てからもう一生分の「寒い」を口にした気がする。


 外は晴れていて天気がいいみたいだ。窓が「青色」だからわかる。すりガラスで外の様子を見ることはできないから、窓の「色」を見て晴れているのか、曇っているのかくらいしかわからない。
 朝ご飯まで少し時間があるけど、特にやることもないので何気なしに部屋を見渡してみた。洗面台やトイレのスペースを含めた約4畳の独居房は狭くて殺風景だけれど、物が何もなかった警察署の留置場に比べて、部屋の中にある物は意外と多い。
 洗面台にはコップと歯ブラシ。壁の小さな私物棚には洗面用のタオルと官本が4冊。そして差し入れされた私本が1冊。官本は2週間に1回、文庫本や漫画を4冊まで借りることができる。ただし、本はどれもかなり古い。刊行年が昭和って書いてあったけど、昭和っていつ?
 私物棚には、本のほかに拘置所内での生活の手引も置いてあった。何時に起床、何時に食事とか、ここで生活していく上での規則がつらつらと書かれていた。ちなみに、時計はないから時間を確認することはできない。そして、「~してください」ではなく、「~しなさい」と命令口調で書いてあることから、普通の人間と同じ扱いはしないということが文面から感じとれた。
 行動時間表に書かれている以外の時間は「余暇時間」と書かれていた。つまり、何をしていても自由ってこと。とは言っても、この部屋でやることなんて殆どない。ひたすら寝ているか、本を読むことくらいしかない。
そして、たたんで置いてある布団。これが狭い部屋の半分を占領していてすごく邪魔。留置場にいたときは、たたんだ布団を「布団庫」と呼ばれる部屋に片付けていたので、部屋を広く使うことができたけれど、ここでは置きっぱなし。
 あとは、食事や書き物の時に使う小さな折り畳み式のテーブル。そして私物入れの籠と大きなボストンバッグ。ボストンバッグの中には、着替えの舎房着や下着が入っている。
 差し入れしてもらえれば、私服を着ることもできるんだけど、紐がついているものや、ベルトなどは入れることができない。「パーカーなどの紐を利用して自殺しようとする人間がいるから」らしい。


 あとは、食事の時に使用する箸と、テーブルに鎮座する、やかん。やかんは小学校の給食の時に見かけたようなやつだ。1.5リットルくらい入る。ちいさな視察窓から出し入れするときにぶつけるから、注ぎ口がへこんだり、傷ついたりしている。
 そして、このやかんに注がれる温かいお茶こそ、命の水! これがなかったらきっと凍え死んでいただろうと思うと、お茶の有難みが身に染みてわかる。

「やかん用意~」


 刑務官の声が響き渡ると、いそいそと蓋を取って視察窓の前にやかんを置いた。視察窓というのは物品の受け渡しや、食事を入れたりする小窓だ。洗濯物もここから出し入れする。幅はA4のノートが入るくらいのサイズで、高さは約二十センチくらい。
 そうこうしていると、視察窓が「ぱかっ」と開いて、やかんが取り出される。あ、またぶつけた。もうちょっと大事に扱ってほしい。
 視察窓を開けるのは刑務官だけど、やかんを取り出してお茶を注ぐのは、わたしと同じ若草色の舎房着を着て、その上に割烹着を着用している人たちだ。刑務官はその人たちが作業をしている様子を監視している。4階にわたし以外の人がいる気配はないし、どこから来た人たちなんだろうといつも不思議に思っていた。
 以前、宮田くんに、この人たちについてしつこく訊いてみたら、彼らは「受刑者」だと言っていた。でもここは拘置所だし、近くに刑務所らしき建物も見えなかった。宮田くんが言うには、彼らは拘置所に収監されている人間(未決拘禁者)の食事や、洗濯物などの世話をする、いわゆる世話係と呼ばれる人たちらしい。
 ただし、受刑者なら誰でも世話係になれるわけではないらしく、刑務態度が良くて品行方正で、問題を起こさない優秀な受刑者にしか与えられない特別な役回りなのだという。要するに受刑者の中でも選ばれたエリートってことなのかな? 雑用の仕事なのに、選ばれたエリートじゃないと世話係になれないなんて、刑務所ってよくわからないところだなと思った。


 毎日わたしのやかんにお茶を入れてくれたり、ご飯を持ってきてくれる世話係の受刑者はつるつるの坊主頭の人だった。金縁の眼鏡をかけていて、背が高くて体格もがっちりしている。雰囲気だけで言ったら、ヤクザの親分みたいな感じの人だった。マスクをしているから顔がはっきりとはわからないけど、年齢はたぶん50代くらい。名前はわからない。わたしと同じように番号で呼ばれているのかな? 
 ちなみに、わたしはその人のことを心の中で「つるぴかさん」と呼んでいる。そのくらい、つるぴかさんは光り輝いていた。つるぴかさんは大きな寸胴鍋に入ったほうじ茶を柄杓でやかんになみなみ注ぐと視察窓に置いてくれた。


「うおぉ……あったけぇ」


 お茶が入ったやかんに触れると、わたしの凍えた両手にも熱が伝わっていく。


「行き返る~」


 やかんの温もりに恍惚としているわたしの顔を見て、つるぴかさんの目尻が下がっているのがわかった。見た目は怖そうだけど、案外優しい人なのかもしれない。


「3番ちゃーん。早くご飯取ってね」


 軽々しい声がした。宮田くん、居たの。
 わたしの事を三番ちゃんと呼ぶのは、宮田くんしかいない。初華ちゃんと呼ぶときもある。だから中村さんによく叱られている。本人は反省しているけど、すぐに怒られたことを忘れてしまう。もしかして馬鹿なのだろうか。
 イケメンなのに、なぜか女の子にはモテなさそうな感じがするのはこの「軽いノリ」のせいなのではないだろうか。表裏がない人なんだろうけど、誰に対しても「軽いノリ」で接する宮田くんがわたしはあまり好きじゃなかった。というか、彼は本当に刑務官なのだろうか。実は、アルバイトか何かなんじゃないだろうか。なんというか、刑務官としての自覚が足りない気がする。
 蓋つきのどんぶりを受け取り、カリカリ梅が乗った小さな漬物皿と、おさかなふりかけ、かすかに湯気が立っている味噌汁を受け取った。食器は全部プラスチック製だから、小学校の給食を思い出す。
 朝食は毎日ほぼ同じメニューでどんぶりに入った米麦飯(白米に麦が混ざったご飯)に味噌汁。それと漬物。味噌汁の具は豆腐だったり、切り干し大根やわかめの時もある。漬物はカリカリ梅や柴漬け、煮豆など日によっていろいろ変わる。ふりかけも種類があって、おかかにめんたいこ、時々、ふりかけの代わりに海苔の佃煮だったりする。「ごはんですよ」みたいなやつ。
食事を受け取り終わるとお礼を言った。


「ありがと」


「どういたしまして」
 宮田くんがニカッと笑って返す。アンタじゃない。つるぴかさんに言ったの。


 世話係にお礼を言う必要はないと以前に注意されたけど、毎日お世話してくれるのだから別にお礼くらいしてもいいよね。つるぴかさんだって、お礼を言われて悪い気はしないはずだろうし。
 あ。今、つるぴかさんがお辞儀をした気がする。やっぱり、挨拶をした方がお互いに気持ちがいいよね。宮田くんが睨んでるけど、それは無視。


 壁際に置いてあるテーブルを扉の前に置いてようやく朝ごはんだ。食事中のテーブルの位置にもルールがあって、独居房の扉の前でテーブルをおいて食事をしなければならない。テーブルを使って書き物をするときも同じ。外からはわたしが壁のほうを向いて食事をしている様子が見えるのだけれど、これに何の意味があるのかはわからない。
箸を親指で挟んで両手を合わせた。


「いただきます」


 どんぶりの蓋を開けると、僅かに湯気が立つ。いわゆる、どんぶり飯なんだけど量はそれほど多くはない。運動部だった頃のわたしにはこの量でも少ないくらいだ。普段ならこの量で3杯はいける。学校では友達からも「いっちゃんよく食べるね」とよく言われていた。そのくせ、太らないし、つくとこにはつくから羨ましいとも言われた。そんなにコレがあることが羨ましいのかね? 視線を下に落とす。
 新体操は、走ったり跳んだりと動きが激しい競技だ。それなのに二つの重みがあると動きの邪魔になる。それに視覚的にもあまりよろしくない(男の人は嬉しいのかもしれないけど)。だから衣装の裏にブラを付けたりサラシを着用して演技したこともあった。
……新体操部の事を思い出すと、「あの事」も思い出してしまうからやめておこう。
 ちなみに、今はブラを着用している。拘置所で借りたものだけれど。この生活になってから食っちゃ寝ばかりしているから、少し太ったかも知れない。サイズがちょっとキツい。
 米麦飯を食べるのは小学校以来だったけど、普通においしかった。麦の匂いが苦手な人はいるかも知れないけど、わたしは気にならなかった。少しぬるくなった味噌汁もまあまあおいしい。というか、留置場のキンキンに冷えた官弁に比べたら拘置所の食事はどれもおいしい! やっぱり作り立てというのは、何でもおいしいものなのだ。


 お魚ふりかけをご飯にかけて、カリカリ梅をかじる。カリカリ梅は食べにくいからあまり好きじゃない。口の中でカリカリして、身を剥いでから種を小皿にぺっと捨てる。ふりかけがかかっている部分の米を食べて、残り少なくなったご飯を具がなくなって汁だけになった味噌汁のお椀にぶち込んだ。     これが今のわたしにとってメインディッシュであり、朝の唯一の楽しみだ。おっさんくさいと言われようが何と言われようが、わたしはこれが好き。
 この間読んだ素浪人が主人公の時代小説で「冷えた汁に麦飯をぶち込んだ質素なめし」というシーンを読んでからというものの、すっかり「ねこまんま」にハマってしまった。これが俗に言う、飯テロというものだろうか。さらさらとして食べやすい。


「ご馳走さまでした」


 食べ終えると箸をどんぶりに置いて手を合わせた。食器を重ねて視察窓に置いておく。そのうち、つるぴかさんが取りに来てくれるはずだ。
 お茶を飲んで一服してから使った箸を洗面台で水洗いする。この作業が何だか侘しい。あと、水がすごく冷たい。洗いものをしながら窓を見た。すりガラスの外は青い。でも陽射しがあまり入らないから、何度も言うけどこの部屋はかなり寒い。
 蛇口を捻って水を止める。さあ暇だ。借りた4冊の官本はすべて読み終えてしまった。次に本を借りられるのは1週間後だ。
 平日は夕方5時以降から就寝時間の夜9時までラジオが流れているけれど、今日は土曜日だから夕方5時の点検を除けば、朝の9時から寝る時間までのあいだラジオは流れっぱなしだ。普段はお昼寝の時間は決められているのだけれど、寒い時期は食事と点検の時以外は布団を敷いて寝ててもいいと言われているし、実際、寒いから布団に潜ってぬくぬくしている日が多い。
今日も1日ラジオを聴きながら「引き籠り」の生活で終わりそうだ。


 この退屈な暮らしも、1年以上になった。


初華 死刑を求刑された少女 ~第一章~ (5)に続く

~第一章~ (5)の登場人物

阿久津初華(あくついちか)
5人を殺害し、死刑を求刑された少女。裁判の閉廷間際に騒ぎを起こした。
聖フィリア女学院の生徒で新体操部のエースだった。Y拘置所に収監されている。

海老原(えびはら)
Y拘置所の刑務官。最年長。

杉浦(すぎうら)
Y拘置所の刑務官。

宮田(みやた)
新人の刑務官。お調子者で明るい性格。イケメン。

つるぴかさん
Y拘置所に収監されている未決拘禁者の世話係。受刑者。

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