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感情と思考と行動を結ぶ線

 生活というのは、なんでしょうか? こういうとき、辞書というのは便利です。いつでも調べることができます。少なくとも、大学やら言語学の専門家やら、様々な偉い大人の人たちが知恵と知識を集合させて、完成させた見解を。
 辞書によると、「生活」とはこうありました。

せいかつ【生活】
 社会に順応しつつ、何かを考えたり、行動したりして生きていくこと。
「家事で家を失いしばらく友人の家で――する」
「恵まれた――を送る」
「庶民の――感とかけ離れた優雅な暮らし」

新明解国語辞典 第七版

 これは今回の意図に沿ったものだけを、提示しています。他にも生命活動としての意味や、家計のみに焦点を合わせた意味がありますが、今回は省かせていただきます。
 要するに生活とは「考え、行動すること」だと言えるでしょう。しかしそこで注意すべき点は、あくまで「社会に順応しつつ」ということです。これは広い意味で捉えておきましょう。僕はいわゆる病気や、働けない人も含め、ほとんどの人が、この「社会に順応しつつ」に当てはまっていると思います。つまり、犯罪を犯すなど、この近代社会で禁忌とされていることを侵さない限りは、国民として生きている限りは、社会に順応しているもの、として考えてます。
 なので、基本的には「考え、行動すること」のみに焦点を合わせます。そこから導き出せるのは、やはり僕たち人間が、常に「考える生き物」だということです。

 考えるというのは、感情と不可分です。ただ淡々考えるだけというのは、恐らくあり得ません。人は何かしら、感情とともに考えています。喜怒哀楽しかり。もちろん、それ以外の感情でも。
 面白がって考えているときもありますし、悲しい気持ちで考えているときもあります。考えるというのは、感情的な行為でもあるんです。そう考えると、もしかしたら感情というものが先に来て、その先に思考(=考える)があるのかもしれません。
 カフカはかつてこう言っています。

恐れをもつことは不幸だ。それゆえに、勇気をもつことが幸せなのではなく、恐れをもたないことが幸せなのだ

フランツ・カフカ

 恐れ、というのは困ったものです。人間の感情の中で、最も厄介かもしれません。僕らは常に、何かを恐れています。それは日々続く幸せが、崩れてしまうことかもしれないし、いま目の前に迫っている借金の返済、ということかもしれません。いずれにしても、感情が動くこと、そしてそれが恐れを引き出すことは、避けることが出来ないのでしょう。
 海外ドラマの「グッド・プレイス」で、わるいところのデーモンであるマイケルが、実存的危機に陥ってしまう場面がありました。ちなみに、実存的危機というのは、こういうものですね。

心理学や心理療法において、人生に意味がないのではないか、あるいは自分自身のアイデンティティに混乱が覚える内的葛藤のこと。

Wikipedia「実存的危機」

 要するに、「死を意識する」ということです。少なくとも「グッド・プレイス」においては、死ぬことのないデーモンは、まったく死を意識せず、自分の存在の不安定さに悩むことはなかったのですが、有るとき、死を意識してしまったことで、「なぜ生きるのか?」「生きる意味はあるのか?」という実存的危機に陥ります。
 これぞ、まさに最大の恐れだと言えるでしょう。僕らは実は、少しだけ、心の片隅にずっと、この実存的危機を抱いています。だからこそ、アイデンティティの問題を扱っている作品は、心に響くものがあるのでしょう。僕らは基本的に、不安定です。だから、感情が動いてしまうんです。動いた末に、色んなコトを考え、悩んでしまう。それが実は、僕らの「生活」というものなんです。
 「グッド・プレイス」で主人公のエレノアが良いことを言っていました。

人間はみんな死を意識してる。だからいつだって少しだけ、悲しいの。
悲しみから目を背けようとしても、結局は、漏れだしてきちゃうの。

グッド・プレイス S2 EP4

 そう、漏れ出してくるんです。だからそれを、否定することはできない。僕らは心の片隅に、ほんの少しの悲しみを常に抱いています。大事なのは、それを見つめることです。決して否定はしない。なぜなら、感情を否定すつことはできないからです。感情があるからこそ、僕らは考えている。つまり、生活している。生きている。
 こうして、日々を過ごし続けているんです。

 恐れ以外にも、もちろん感情はあります。大事なのはそれもまた、自分だと思って、見つめることです。あるいは、発見、という言い方もできるでしょうか。恐れは確かにある。死を意識したことで、僕らは常に実存的危機に陥っている。それでも、喜びもあれば、楽だなって気持ちもある。そういうものも同じように付き合っていけたら、きっと生活は面白くなると思いませんか?
 僕であれば、花を飾ること、好きな食器を使うことが、ここ最近の楽しい行為です。そういう行為をしているとき、楽しいって感情が、考えにも影響を及ぼします。
 感情があり、思考がある。そして行動していく。この関係が結ぶものが、きっと「生活」と呼ばれるものなんでしょう。
 できればこれからも、この結ばれた像を、自分の心地良い形にしていきたいものですね。

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