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ノベル版「Parallel World」- [第6章] みかんいろ

原作: みるくかふぇ、設定協力: ひぃ熊、キャラクターデザイン&イラスト: 水野色

曲名「みかん色」、作詞: ひぃ熊、作曲: みるくかふぇ

■ストーリー

気がつけば陽は傾き、夕方を迎えていた。昼過ぎに市街に入りショッキングな光景を目の当たりにし、クララの話を聞き、想いを歌うクララの姿を見て、めぐみは思い悩んでいた。

(クララは立派だと思う。自分の気持ちをきちんと伝えることができて、歌に力があるというこの世界で他人を勇気づけようと歌う。たとえその力が歌姫に及ばなくても、クララは何の躊躇いもない。なのに私ときたら)

まためぐみは俯いてしまう。その時、めぐみの視線に足元にいる幼い少女の姿が映った。

少女は少し弱っているような、その苦しさを堪えるように硬い表情をしている。不幸の音楽の影響だろうか。少女は、小さく振り絞るようにめぐみに語りかける。

「……ねぇGUMIさん。……歌って」

少女にはめぐみがGUMIさんに見えたようだ。一瞬めぐみは固まり、どう返答しようか思いあぐねていた。少女はめぐみの手を取り再度語りかける。

「GUMIさん、歌って」

(温かい……)

小さな手の温もりに、めぐみは少しだけ自分の頑なな心が解けていく感覚を覚えた。

「私は歌えるのだろうか」

少し迷いながら、小さな声で「おはようの歌」を歌いだす。少女の表情が少しだけ柔らかくなるのが見えた。それとともに、めぐみの歌声は少し明るく、1人きりで歌っていた時のように優しく伸びやかになっていく。

クララと少女が見守る短いほんのひと時。やがてめぐみが歌い終わる。

「GUMIさん、ありがとう」

上気した小さな笑顔は、そうめぐみに告げて去っていった。

「私、歌を歌った……。人前で」

めぐみは自分の中に静かな喜びが湧いていることに気がつく。今までの自分が知らなかった、新しい感情。

「めぐみ! やっぱり私の思った通りだ。本当にGUMIさんが歌っているかと思ったくらいだよ。見た? あの子の笑顔。めぐみが来てくれて本当によかった、ありがとう!」

クララはめぐみに手を差し出す。声にならない嬉しさにはにかんだ表情を浮かべ、その手を握っためぐみは自分の気持ちの変化を反芻する。

(私には世界を救うことは難しいことかもしれない。それでも心から歌うことができた。繋いだ手が笑顔になった。このくらいの小さなことだけど、私にもできたんだ)

めぐみを優しい目で見守っていたクララが語りかける。

「さて、音楽王の手下に見つからないように拠点に戻らないとね。監視されているかもしれないから、尾行を巻きながら行くよ。手を離さないでね」

繋いだ手はしっかりと握られている。みかんいろに染まった空と同じように温かな気持ちで、めぐみはクララに付いていく。

やがていくつかの通りを経由して雑踏の中にめぐみたちの姿が紛れていった頃、めぐみたちを見失った諜報員たちは悔しそうな表情を浮かべ街の中心部へと引き返していった。

■キャラクター紹介

※この作品はみるくかふぇが制作した音楽アルバム「Parallel World」の原作ストーリーです。アルバム「Parallel World」はSound Cloudでの無償公開(ストリーミング視聴のみ)のほか、各社サブスクリプションサービスでの配信、BOOTHでのダウンロード販売/CD通販を行っています。

Parallel Worldアルバム情報:
https://note.com/hiroys_milkcafe/n/na13b39e4b322


※この作品は二次創作です。作中に登場する人物「GUMI」は株式会社インターネットが販売する製品「メグッポイド」の愛称ですが、販売元は当作品とは無関係です。また「メグッポイド」の商標・キャラクター等は販売元に権利があります。

ノベル版「Parallel World」目次
https://note.com/hiroys_milkcafe/m/m09bbd902a64d


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