ボカロメタル投稿祭2023を振り返って
2023年11月26日に、ニコニコ動画にて「ボカロメタル投稿祭2023」を主催しました。その振り返り記事です。
ボカロメタル投稿祭2023とは
ボカロ音楽のジャンルに「ボカロメタル」と呼ばれるものがあります。合成音声キャラクターが歌うヘヴィメタル、ハードロックなどを総称するジャンルです。
昨年、僕が主催となってニコニコ動画へのボカロメタル曲の同日投稿を呼びかけたイベントが「ボカロメタル投稿祭」で、その2年目となるイベント開催です。
告知ページには、下記のような条件設定を行いました。賞レースやコンテストではないため参加条件はできるかぎり緩くしましたが、後日、「ニコニコ動画に未投稿の音源/MV」という条件を追加しています(詳細は後述)。
参考までに、昨年の報告記事です。
参加傾向
集計結果の概要を記載していきます。詳細はGoogleスプレッドシートをご参照ください。
またTwitter上で行った投稿127曲全作品のレビューを、ニコニコ動画の下記の「ボカロメタル投稿祭2023 - マイリスト」にまとめました。
投稿作品の内訳
当日は100名以上の参加、合計127曲の投稿がありました。内訳はオリジナル曲111、カバー曲16です。この対比は、昨年のオリジナル169・カバー26と比較してもそれほど大きくは変わりません。
ジャンル傾向の分析をしましたが、当方のジャンル分けはかなり大雑把です。複数のメタルサブジャンルのミックス曲も多く、また当方の知識不足で最新のサブジャンルについては正確な判別ができていないものもあります。
昨年に続き、メロスピやパワーメタルから派生したメロディアス系のジャンルと、スラッシュメタルやデスメタル、メタルコアを中心としたエクストリームボイスを多用するモダンメタル系のジャンルが主流を占めています。昨年は双方で全体の4割を超す程度でしたが、今年は5割を超しています。
また、Djent系列の作品も増えており、プログレッシブメタル/Djentの割合は昨年の6%から10%へと、存在感を増しています。
一方で、一般に「オールドスクール」と呼ばれる王道のメタルやハードロックは昨年よりも数を減らしています。また前回も少数であったEDMメタルやフォーク系列の作品は今年も少数にとどまっています。
メタルだがどれにも属さない系統や、他ジャンルの色が強くメタルへのカテゴライズが難しいものは「オルタナ」として区分しました。このオルタナ分類の作品は昨年の15%から6%へと数を減らしています。
全体として、メタルらしい作品への集中が今回の傾向として見て取れます。前回の投稿曲の傾向から、参加者のバックグラウンドが少し絞られてきたのかもしれません。
参加者の属性
ルーキーが48%、3〜9年が60%、10年以上のベテラン区分が19%でした。昨年とはルーキーと3〜9年の比率が逆転しており、昨年のルーキー参加者がそのまま中堅に移行した印象を受けます。
また、少数ですが今回もこの投稿祭がニコニコ初投稿だという方もいました。ボカロPの世界へようこそ! 今後、現在以上のメタル系のルーキーの登場にも期待したいところです。
投稿やランキングに関して
今年も大多数の作品が、開催開始となる0時直後の投稿でした。一方で、時間ギリギリまで制作を頑張ってくれた方も一定数いて、「せっかくのお祭りへ参加したい」という意欲の高さを感じました。
デイリーランキングで数字がついた方は、昨年以上に多い結果となりました。特に100位以内の順位が、前年よりも2〜3割増加していることに驚かされます。
ランク外の方は、ランキング対象として必要なタグがついていなかったり、投稿後のアクションが少なく、結果的に順位が付くほどの動きが見られなかった作品に限られています。
なお、動画ページに表示されるランキング順位は、動画に付けられたすべてのカテゴリタグの中での最高順位となります。そのため、VOCALOIDカテゴリ以外の順位がページに表示されている場合もあります。当方もこの数字を集計用に拾っています。
それでもそのカテゴリの中で、一定の存在感を示した作品がこれほど多かった事実はしっかりと言及しておきたいと思います。これだけの数の方がTOP100までのランキング上位を経験したというのも、投稿者皆さんの熱意の高さが伺えます。
また全作品のレビューを書いていく中で、ランキング100位以下の作品でも、音楽作品としての評価は非常に高いものを付けたいと感じた作品も多かったです。本人が過度の露出を避けたり、宣伝のタイミングが悪かったり露出が上手でなかったといった要素もあったと思います(僕も普段から苦労していますし)。
もしご自身で「ランキング順位という結果」に対する評価をする際には、それら音楽外の要因も頭に入れておいた方が、自分の取り組みや生み出した作品を変に否定することにつながらずに済むと思います。
また昨年に引き続き、多くの方がTwitterに自主的にレビューを投稿し、ボカロP・リスナー共々、相互に評価しリスペクトする動きが見られました。こうした地道な取り組みがジャンル自体の裾野を広げ、投稿者やリスナーを育てていくと考えています。
主催が考えていた「お祭り」の意義
ここから先は、主催側の話題となります。まず「お祭り」を開催した意義や想いについて。
楽しむこと・つながること
昨年から引き続き掲げたのが、「楽しむ」ことでした。
ボカコレのような賞レースの場合、知名度の向上が期待できる半面、Twitterのタイムラインに怨嗟の声が流れるなど、素直に楽しむには参加者達が少々追い詰められ過ぎてしまっている一面もあります。この投稿祭は「メタル好きのボカロPとリスナーが一堂に会する場」であり、「広義のメタルを楽しむ」機会として企画しています。
また、「ボカロメタル」というジャンル自体がマイナーです。ボカロP側には、ボカロメタル作品を作ることに躊躇する気持ちや、活動に対する孤独感を感じる、といった疑問が常々付き纏います。
ボカロメタル投稿祭のようなジャンル特化の集まりで同志の存在を知り、好きな音楽について話をする体験により、「活動を楽しむこと」自体へのきっかけができるのではないかと考えています。
多様さや可能性を知る
もう一つは多様さや可能性を知るきっかけ作り。
人は自分が触れたことのないものを、想像したり共感したり共鳴することは難しいものです。メタルというジャンルと向き合った時の他者の発想や表現と出会うことも、「次」を生み出す小さな一歩になる気がしていました。
また、多くのボカロメタル作品が集まることで、お祭り騒ぎを見て興味を持ったリスナーが「この曲のメタルなら聴ける、好き」という出会いを体験してもらうことも、1つの狙いでした。
リスナーの音楽に対する感情は「好き」か「好きではない」しかありません。メタルを敬遠していたのは「自分の『好き』に刺さる作品と出会っていない」、ただそれだけなのです。そうした方にメタルが聴かれる可能性を示すことも、このイベントの命題の一つでした。
とはいえ、これは「お祭り」にかこつけた遊び心を集めた小さなきっかけです。一夜にして世界を塗り替える革命の火には至らないものだとは重々承知しています。だから主催としては、楽しんでもらうことを最優先に考えています。
告知・宣伝
次に、今回の告知・宣伝活動についてです。6月中旬に告知をTwiplaに行い、その後ニコニコ動画に投稿した告知動画で詳細な参加方法等の説明を行いました。
宣伝は去年に続き、Twitterでの広報活動が中心でした。とはいえ、今年は僕のTwitterでの浮上率がそれほど高くなかったこともあり、8月終わり頃まではあまり大きな盛り上がりは見せませんでした。Twiplaに開設した告知にも、参加希望は様子見といった程度の表明で終わっていました。
7月後半に、ニコニコ動画が運営するユーザ主催イベントを集めたポータルページ「投稿祭&誕生祭スケジュール」への掲載申請を行い、公式経由での情報拡散も試みました。8月のツイートで掲載のご報告をしています。
その後、「#ボカロメタル投稿祭小出し情報」というタグによって、ぼちぼち参加表明者による情報発信が始まったが10月の中旬頃からでした。
昨年頃より公式・ユーザ主催問わず、投稿祭やオンラインイベントが多数開催されるようになりました。それらを片付けるまで動きが取れなかった参加希望者が、前の投稿祭準備が落ち着いて制作状況を発信し始めているようでした。
その他の活動としては、昨年同様同人即売会でのリーフレットによる周知に努めましたが、こちらの方は思ったほど反応がありませんでした。
音楽というよりはキャラやボカロPにフォーカスしたボカロ・ボイロ系即売会での反応はともかく、音楽に特化したイベントであるM3でも特に興味を惹く人が現れませんでした。M3については「申込時の、参加カテゴリを見直す必要性もあるかな」と感じた出来事でした。
良かった点と反省
昨年の反省を踏まえ、他投稿祭への同一MVでの参加については「開催期間が同じであればOK」という旨を最初から告知に含めました。
ただ1点、予想をしていなかった出来事が起こりました。ニコニコ動画公式が後援して11月頭に開催された「無色透明祭Ⅱ」です。
こちらは「投稿時に投稿主を告知しない」ことを主旨としたイベントですが、期間終了後の投稿主の開示は認められています。そのため、期間終了直後の開催である当イベントに再投稿したい旨の問い合わせが、無色透明祭Ⅱ終了間際ごろからポツポツと来始めました。
この件の対処ついては「できる限り投稿祭用に音源を用意して欲しい」との想いからから、追加で下記のルールとしました。「曲が同じでも一部の差し替えで参加が可」というのが、ギリギリのタイミングで当初考えていた想定から譲れるラインでした。
この対応に、同一音源での参加を考えていた全員が納得してくれたとは考えていません。次回開催することがあるようであれば、こうしたケースに対するルールの再考も検討する必要があると思われます。
また今回はTwitterでの浮上率の低さから、宣伝活動が思うようにできなかった反省があります。僕のアカウトについては時々シャドウバンのような状況に陥ることもあり、反応が得られないPRもありました。そういったことを踏まえ、投稿祭過多な状況下でこの投稿祭へ参加する意義をどれだけ伝えられたか、参加表明者へのフォローアップがどれだけできたか……、については及第点には程遠いと思っています。
一方で嬉しかったのが、Twitterのトレンド入りをしたことです。
まず開催当日の昼頃。これは僕の投稿・閲覧内容から、僕個人に向けてカスタマイズされたトレンドのようです。この時点ではまだ大きくは広まっていなかったのではないかと考えています。
そして夜になり、今度は「音楽・トレンド」として、音楽関係の閲覧者に向けたトレンドとして再び表示されるようになりました。
アイドルファンの場合、新曲MVのリリース時やオンラインイベントがある際は、ファンで一丸になってトレンド入りを目指すといった推し活が存在するそうです。確かにトレンド入りすれば、普段縁のない方でも気になって見にくるケースがあることは、僕も自分の行動で心当たりがあります。
そうした意味で、皆でトレンド入りするまでボカロメタル投稿祭の話題をポストし続けたことは、普段ボカロメタルに縁のない潜在的なリスナー層が「何か騒いでいる。どうしたのだろう?」と興味を持つきっかけになった可能性があるのかもしれません。
こうした良かった点や反省点を踏まえ、また今後も皆が楽しめるお祭りの開催要望があれば、再びチャレンジしていきたいと考えています。
最後に
お祭りに参加してくれた投稿者の方々、観にきてくれたリスナーの方々、また告知への反応といった形でイベントを応援してくれた方々。皆様の力で無事にお祭りを終えることができました。多数のご支援ありがとうございました!
長文でしたが最後までお読みいただき、ありがとうございます(๑>◡<๑)
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