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ミャンマーのスー・チー氏拘束で想うこと

 今年もあっという間に1ヶ月が過ぎましたが皆さま如何お過ごしでしょうか?

 数日前に突如メディアで取り上げられたミャンマーにおけるアウンサン・スー・チー氏の拘束と軍による権限掌握。何故これ程世界的にも取り上げられるのか、皆さんと考えていければと思います。

アウンサン・スー・チー氏の拘束の意味合い

 ミャンマーは、2011年に軍事政権からの民政移管によりテイン・セイン氏が大統領に就任し、政治経済に係る様々な改革に取り組んできました。

 以降、世界の警察として影響力を誇示してきたアメリカもミャンマーへの経済制裁を緩和し、日系企業にとって「アジア最後のフロンティア」として一気に投資が進み、現在では400社以上の日系企業が進出するまでになりました。

 しかし、ヤンゴン周辺に有力な港湾インフラが存在せず、重工業を中心とした輸出型産業の誘致がなかなか進まず、貿易による経済成長が望めません。その為ベトナムなど貿易収支による経済恩典を受ける周辺国と比べて内需に依存せざるを得ず、1人あたり名目GDPも1,300を上限で伸び悩むなど、民政移管後とはいえ民衆が経済的恩典を受けることが難しい状況が続いています。2015年の総選挙でNLD(国民民主連盟)が圧勝し、アウンサン将軍の再来として鳴り物入りで政権トップの座についたアウンサン・スー・チー氏の下でも大きくは好転しませんでした。

 これは、新興国での安定パターンである規制緩和による外資の受け入れ→製造業の強化による貿易収支改善と雇用安定化→国内消費の活性化による乗数効果という流れにつながっていないことを意味します。

 憲法上国会議員の4分の1を占める軍関係者にとっては、民政移管を進めたものの、民衆にとってそれ程大きな成果が波及していないことに対する鬱屈があるため、一見すると軍によるスー・チー氏の拘束は軍が暴走したように見えますが、実態としては、国会議員の一定数を占める軍関係者が、民政移管をしたにも関わらず善政には程遠いスー・チーの政に対する不満が顕在化したと捉えた方が良いと思います。

 軍政か民政かではなく、民衆が幸福になる政が出来ているかどうかが重要なポイントです。

スー・チー氏の拘束を受けた諸外国の動向

 スー・チー氏の拘束は、これまで制裁緩和を続けてきた欧米諸国にも衝撃を与えました。米国のバイデン大統領は、2月1日に「民主化の発展が逆戻りするなら制裁に関連する法律などを再検討したうえで適切な行動をとる」と厳しい声明を発しました。

 但し、厳しい声明とは裏腹に、アメリカは早々に経済制裁を科すことは難しいと考えます。その理由は中国の存在です。

 憲法改正により習近平の独裁が進む中国では、2013年に提唱した「一帯一路」を現在も協力に推進しています。表向きはアジアとヨーロッパを陸路と海上航路でつなぐ物流ルートをつくって、関係諸国で貿易を活発化させ、経済成長につなげるという理想を掲げていますが、貿易活性化に必要な諸国のインフラ整備にも中国がヒト・モノ・カネで関与するケースも多く見受けられます。

 性善説の観点からは、諸外国にとっても貿易による国内経済が潤うことになりますが、性悪説の観点からは、中国に自国のインフラ整備や貿易に貸しを作ることになるため、パワーバランスの観点から中国と対等な関係を築きづらくなります。

 中国はアヘン戦争以来諸外国の干渉で辛酸を舐めてきた反動から、「中国の夢」を抱え、唐の再来を目指し世界的な影響力を強めています。ここでアメリカが経済制裁を再開すると、ミャンマーは中国との関係を強め、大西洋のシーレーンを中国に押さえられてしまうため、安易に制裁を決断することはできないと思われます。

 ミャンマー西部のチャオピューでは、深海港開発で緬・中間で合弁会社が設立されるなど、シーレーンの関与と天然ガスの安定輸送などを目的とした中国の関与が積極化していることなどからも、ミャンマーをバッサリと批判することは欧米諸国にとってプラスには結び付きづらいでしょう。

 ミャンマーに対して厳しい姿勢を取るアメリカに比べて、中国が融和的な姿勢を示したことは、ミャンマーを自国陣営に取り込む戦略が透けて見えます。

独裁=悪、民政=善といった二項対立を超えた価値観を持つ

 ここで大切なのは、民主主義が100%優れた統治システムであると思い込まないことです。例えばシンガポールは「明るい北朝鮮」と言われ、実質一党独裁ながらも、その危機感と類まれなビジネス感覚を以てSociety5.0の社会を生き抜く企業を多数創出しています。例えば再生可能エネルギー企業であるEnvision社は、再生可能エネルギーによるエネルギー効率を最大化すべく、自ら衛星領域に投資し、自社が運営する再生可能エネルギー設備が最適に運営される為に気象データの分析などを手掛けるなど、「宇宙×データ」という先端領域に果敢に挑戦しています。

 また、経済成長著しいベトナムでも、政を司るのは共産党による一党独裁政権であり、ASEANでも随一の防衛力を誇ります。韓国のSamsungは、ベトナムを電子製品の一大輸出拠点と位置づけ、日本円に換算して累計1兆円以上の投資を行っています。

 中国も然りで、今でこそ共産党による独裁がクローズアップされますが、コロナ禍でも先端のテクノロジーにより民衆の生活が保障されている点は見過ごせません。13億人の民衆を食べさせていく為には想像もつかない強力なリーダーシップが必要で、かつ中華民国の再興を想う程欧米列強に辛酸を舐めてきた歴史的事実を認めない訳にはいきません。

 これらの事例を踏まえると、軍や特定政党による独裁が必ずしも悪とは言えず、民衆を幸せにする手段として機能する可能性を秘めているとも言えるでしょう。

 今回のミャンマーの件についても、軍が暴走したという一方的な見方ではなく、民衆が現在幸せに感じているか、幸せに感じる為に為政者がその期待に応えているかを客観的に評価し、その国の歴史的・文化的背景なども鑑みその国の在り方を尊重してこそ、本当の意味での調和が生まれると思います。

 ミャンマーには沢山の友人がいますが、断片的な情報で日々の生活が左右されず、元気に過ごされることを祈念しています。

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