緑のインクに導かれて


緑のインクが
ボルヘスの本を濡らした
マチスのカードにシミをつけた
ボルヘス
マチス
おそらく
ホックニー

探していた万年筆が出てきた
前の万年筆が壊れたから
新しいのは壊して
古いものに
もどせ

スイカを食べる

緑のインクは床を染めた
紙で拭き取る
手が汚れた

床には
あの人の写真が
散らばっている
あの子もいる
どうしているのだろう
ヌードがでてくる
浴室で
化粧をしているところ

ヌード

2013年震災の後
僕は壊れた建物を直して
餃子の店にすることを思いついた
ポルトガルワインと餃子の店
街で拾った女を店長にして
それなりに
成功した

末期癌の師匠は
奈良から何度も来てくれた
奈良

店は成功したが
コロナでクローズした
先輩と僕に
カルティエのライターをくれた
僕はまだ使ってない

兄弟は離れちゃダメだ
そう言われた
今回京都のイベントに
兄貴は来てくれたが
ダメ出しをくらい
ひどく落ち込んだ

俺のやることがいちいち
気に入らないらしい

身内には
言わないではいられないのかもしれないが
この年の身内からのダメ出しは骨身に染みる
師匠はあの世から心配して
まあ カリカリしなさんな
と伝えている

メッセージを消した

インドのこともそうだ
僕は
やりすぎて
愛情をかけてくれる人を
否定しようとする

どうせ
俺を捨てるんだろ
と思っているから

それは
子供の時の
トラウマ
どうせすてるならこつちからすててやる
そう
思っているんだろう
そして誰もいなくなる
僕は安心する
そろそろそういうのはやめろ
師匠は言っている

わかりました
僕は答える

緑のインクは
僕の運命を心配している
詩集に書いたから
サリンジャーの
あの話

グローブの緑のインク
僕の手の緑のインクのしみ
中指だけは汚れていない

3211
震災の間に兄さんがいる

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