小説 熊野ポータラカ  【第1話】 火祭り



「お燈まつり」
は2月6日に和歌山県新宮で開催される神事。春の到来を祝って新しい火を神様から戴く。神倉山の山頂から千人を超える登り子が松明を持って駆け下りる
「死者の日」は11月1日2日に行われるメキシコのお祭り。蘇った死者を歓迎しパレードやパーティを行う。先住民の儀式とキリスト教が融合した。起源は数千年前にさかのぼる。

マリは六人姉妹の末っ子だった。本宮町から熊野川を上流に船で10分ほど遡った地図にない「」と呼ばれる部落に住んでいた。姉妹にはメキシコの血が流れていた。シルクのような光沢のある黒髪、大きくて形の良い胸、しなやかな体は、六人に共通していた。彼女たちは活火山の火口に舞う蝶だった。そして加減の知らない女の子だった。食事もせず、3日間くらい塞ぎ込んでいると思えば、突然街に踊りに出て、セクシーな振る舞いで新宮の男たちを虜にした。街の女たちは、姉妹に嫉妬し、忌み嫌った。マリは、特別な配慮で一年間だけ定時制の高校に通ったが、美しさを妬まれ、揉め事が絶えなかった。右頬をカミソリで切られ傷跡が残っていたが、それはむしろ彼女の美貌を引き立たせた。マリは、姉妹の中で一番賢く、上手に躍り歌った。花の絵を描いた。強い共感性があり、誰かが傷つくと、自分のことのように苦しんだ。彼女たちの父親は、ギャンブルの借金で失踪し、母親はドラックに溺れた挙句自殺した。地元のギャングは姉妹に返済を迫った。上3人は、大阪の風俗店に連れ去られた。下3人は「地花」の叔父の家に預けられ、船で新宮に通い、花屋で働いていた。新宮の街では、そこに麻薬の取引所があると言われていた。地元の警察は見て見ぬふりをしていた。メキシカンマフィアは相手が警察であろうとターゲットの家族に容赦無く復讐する。過去に何度か、陰惨な一家惨殺事件があった。政治家に巨額の献金をし、被差別民として保護されてもいた。そういった戦後の悪習がまだ残っていた時代だった。マコトが熊野川沿いに、メキシコ人の集落があることを知ったのは、高校に進学してからだ。幼少の頃は鬼が住む町があると信じていた。町名の「地花」はティハナというメキシコの街から名前から付けられた。カソリックの小さな教会があって、以前は神父がいたようだが、神父が死んだ後、後継者はおらず、部落が教会を守っていた。

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