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空虚と描写 01

 敷かれた黒いビニールシートの隙間や破れ目のところどころから、成長した雑草が生え出ていて、一本の茎の頭頂部に白い小さな花を咲かせているだけのささやかなものもあれば、細長い葉と薄黄色の穂を噴水のように飛び出させているものや、極めて長い茎を持って天に伸びようとしているもの、子犬でも隠れられそうな茂みにまで成長しているものなど、規模は大小様々であって、人の手入れが為されないまま放って置かれたようなその雰囲気は、アスファルトの道路とを隔てる境目に、一本だけ立っている細い木の杭に、かつて道路とは完全に別の領域であることを示すために、張られていたかあるいはこれから張られようとしていた、黄と黒の着色がほどこしてあるロープの、巻きつけられただけで地面に垂れ下がって、どこにも結び付けられないままの様子や、その杭のそばの、より大きな破れ目から露出している土と、その表面に転がっている細かな幾つかの小石、水を出すための蛇口、そして包装を剥がされ中身もなくなった透明のペットボトルなどの、これも整理されないまま放って置かれている様子から、醸し出されているのは明らかであったが、破れ目が接している、境界を形づくる一辺のほかには、三辺の境界線が引かれているのであり、つまりそこは四角形に区切られた土地なのであって、もしそこに人が立っていれば、隣家のコンクリートのブロック塀、裏口を見せている家の壁面、雲が浮かんでいる鮮やかな青い空を見上げることが出来るし、この荒れた敷地と、整備された隣の土地の対比に、驚いてしまうかもしれないが、でもその中には、そもそも人などいないのだ。

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