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先の見える方を選ぶ?見えない方を選ぶ?

人生の岐路に立つことがある。そのとき、先を見通せる方を選ぶのが成功のコツで、先を見通せない方を選ぶのが成長のコツだ。僕の経験から言って間違いない。

例えば数ヶ月後に芝居を上演するとしよう。過去にやった演目を上演すればそれなりの成功を収めることができる。完成度が高くなるから評判を呼び、観客も動員できるかもしれない。しかし、演技する者はもちろん、演出する者にも裏方を担う者にも大きな成長は見込めない。過去に上演した演目はそれに関わった人たちのなかである程度の固定イメージが出来上がってしまっている。そんなとき、哀しいかな、人は自らの成長よりも失敗しないことを優先してしまう生き物だ。

例えば人事上の判断を突きつけられたときも同様である。僕は教職十五年目を迎えようとする年度末、自宅からすぐ近くの大規模校(当時24学級程度)に転勤して一担任として勤めるか、自宅から遠く離れた小規模校(当時9学級程度)に転勤して学年主任を務めるかを迫られた経験がある。

僕は通勤の移動時間が大嫌いだ。だからいつもできるだけ近くの学校に勤務したいと考えている。人の上に立つことも嫌いだった。そもそも自分の労力を他人のフォローのために使うことを無駄だと感じていた。もう不惑に手が届こうかという時期である。結局、僕は小規模校の方の校長に熱心に誘われたため、いわば情にほだされる形でその学校の学年主任になったのだが、いまではこの校長に感謝しても仕切れないくらいの恩があると感じている。この学校には学年主任として四年間勤めたのだが、この四年間は僕に革命的な変革をもたらした。学級という近い人間関係をつくれる生徒たちのみならず学年集団という自分以外の担任を介して生徒たちを育てる楽しさと難しさ、指導とフォローを重ねて若者を成長させることの喜び、自分のあとを任せるべき学年主任を育てることの喜び、そして何より他人と協働しながら成果をあげることの喜び……。簡単に言えば、僕はこの四年間でこの四つを学んだ。結果、この四年間の成果がもととなって僕は十冊以上の著書を上梓した。それも、「10原理・100原則」シリーズや「学級開き90日間システム」や「教師力ピラミッド」といった、僕の代表作と目されるものばかりである。もしも僕がこの小規模校への転勤を選んでいなかったとしたら、おそらく僕の現在はない。

ではなぜ、僕はこの四年間に結果として十冊以上の著書になるだけの実践研究を編み出すことができたのか。それは僕がこの四年間、一日たりとも先を見通すことのできる時間をもつことができなかったからである。そう僕は確信している。

先を見通せない毎日を送ることが、先を見通せる毎日を送ること以上に僕に頭を使わせたのである。僕の原理原則やシステムの提案はその賜だと僕は確信している。

先を見通せない毎日を送ることが、先を見通せる毎日を送ること以上に僕に人と関わらせたのである。僕の協同学習やチーム力の提案はその賜なのだと僕は実感している。

人生の岐路に立ったとき、先を見通せる方を選ぶのが成功のコツ、先を見通せない方を選ぶのが成長のコツ─この原理を僕は信じて疑わない。しかも、成功よりも成長の方が人生にとってずっと大事であり、常に成長の可能性が高い方を選択することが長い目で見たときには成功にも繋がっていくのだという人生を賭けた直観を僕はみじんにも疑わない。だから何か判断しなければならないとき、僕は先の見通せない方を必ず選ぶ。そういう主義だ。

この原理は若者を育てるときにも通すことにしている。新卒さんや臨採さんの指導を受け持ったとき、僕は彼らにどんどん新しいことに挑戦させる。年度当初の一ヶ月程度を例外とすれば、ルーティンをしっかりとこなすことよりも、新しいことに取り組ませることのほうを優先する。ルーティンワークなどというものは年度当初に形をつくってしまえば、あとは自分で考え、自分で修正しながら慣れていくしかないものである。そんなことに時間や労力を割くことはしない。新しいことに、しかも難しいことに次々に挑戦させていく。秋口になると新卒さんや臨採さんはだんだん自分で新たなことを考えて提案してくるようになる。自分のアイディアを実現してみたくなってくる。そして多少無理があってもそれを実現させる。子どもたちの安全が確保されている限りはすべてを認め、その実現に向けて協力を惜しまない。若者たちはもう冬には自分の仕事のすべてにおいて自分なりに工夫しようとし始める。一年目にこのサイクルをつくることが長い教員人生にとって何よりも大切なのだ。その後を決定してしまうほどに大切なのだ。それを僕は熟知している。

人生の岐路に立ったとき、先の見通せない方を選ぶ。それが自らを常に成長の渦中に置くための唯一の心構えだ。自らに「成長のサイクル」をつくる唯一の心構えだ。

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