堀 裕嗣

「研究集団ことのは」代表。公立中学校教員。 新著『道徳授業で「深い学び」を創る』(明治…

堀 裕嗣

「研究集団ことのは」代表。公立中学校教員。 新著『道徳授業で「深い学び」を創る』(明治図書)/『アクティブ・ラーニングの条件』(小学館)

最近の記事

抽象と同時に捨象が生まれる

子どもたちのつながりが希薄になっている。 子どもたちをつなぐことこそがこの時代に最も必要だ。 ALは子どもたちがつながるための重要な教育手法である。 ロングレンジで考えた場合、これからは学力の保障以上に、子どもたちをつなげることこそが学校教育の使命となる。 昨今、こんな声が方々から聞こえてくる。しかし、現実はほんとうにそういう方向に進んでいるのだろうか……と疑問に感じることが多い。 例えば、この十年、「特別支援教育」の発想が学校教育に大々的に導入されてきた。「特別な

    • 「教材研究」の構造

      一 仕事か、実践か 教職について三十年以上になりますから、多くの国語教師と出会ってきました。 中学校の国語教師ばかりでなく、小学校で国語を自らの主たる研究教科と位置付けている教師にもたくさん出会ってきました。そうした経緯のなかで感じたことなのですが、説明文好きの国語教師には「仕事志向」の人が多く、文学好きの国語教師には「実践志向」の人が多いという傾向があるのです。 教師の仕事には、「仕事」と呼ばれるべきものと「実践」と呼ばれるべきものとがあります。「仕事」はそれがないと

      • おとな

        内田樹がこの国に「おとな」が少なくなり「こども」ばかりになったと嘆いています。 「こども」はシステムの保全は「みんなの仕事」だから「自分の仕事」じゃないと思う人、「おとな」はシステムの保全は「みんなの仕事」だから「自分の仕事」だと思う人、そう定義してもいます。つまり、道端に空き缶が落ちていた場合、それはだれかが拾えば良いのだから自分が拾わなくてもいいと思うのが「子ども」、ああ、まったくこんなところに空き缶捨てて…と自分で拾ってくずかごに捨てるのが「おとな」です。「おい、なん

        • あともどりできるポイント

          長い時間をかけて我々がその建物に辿り着いた時、雨は既にぽつぽつと降り始めていた。建物は遠くから見るよりずっと大きく、ずっと古びていた。白いペンキはいたるところでかさぶたのようにめくれあがってはげ落ち、はげ落ちた部分は雨に打たれ長いあいだに変色していた。ここまでペンキがはげ落ちてしまうと新しくペンキを塗りなおすためには古いペンキを全部はがしてしまわなくてはならないだろう。その手間を考えると他人事ながらうんざりした。人の住まない家は確実に朽ちていく。その別荘は疑いもなくあともどり

        抽象と同時に捨象が生まれる

          おもしろがる

          「学級経営」という言葉があります。 「学級づくり」という言葉もあります。 「学級経営」という言葉を使うとき、僕らの中には「ちゃんとさせること」が含意されているように思います。学級組織とか、当番活動とか、生活指導とか、朝・帰り学活のプログラムとか、この行事で何を学ばせるかとか、学級経営上の様々な要素を組み合わせて、年度計画に基づいた意図的でシステマティックな運営が目指される、そんな印象のある言葉です。これに対して、「学級づくり」には、どこか創造的な匂いがします。「学級を作る

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          やはり必要なこと

          学級も授業もうまくいかない。子どもたちとの関係もうまくいかない。保護者からのクレームも日常茶飯だ。どこかで歯車が狂ってしまった。 去年まではそれなりにうまくやってきたのに……。それなりに自信ももっていたのに……。そんなプライドがよけいに自分を落ち込ませる。 教師を続けていれば、だれもが経験することだ。 「毎日、いまできることを一つ一つ積み重ねて行くことだな。それ以外にできることはないんだ。絶対にやってはいけないのは諦めてしまうことだ。もしかしたら確かに今年度はこんな状態

          やはり必要なこと

          どこかでお目にかかれたら幸いです。

          〈今後の予定〉 御依頼は下記日程以外でお願いします。 【受付開始/定員30名/残席15】 国語授業づくり改革セミナー2024in鳥取/日時:2024年9月14日(土) 09:30〜16:30/会場:鳥取県立生涯学習センター県民ふれあい会館/参加費:5,000円/講師:堀裕嗣・宇野弘恵・山下幸/登壇者:梶川大輔・桑原憲生・山中卓 https://www.kokuchpro.com/event/20b927b237667299f01ac9d280cb6778/ 【受付開始/

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          〈今後の予定〉 御依頼は下記日程以外でお願いします。 【受付開始/定員20/残席4】 EDGE at えりも/大野さんが立ち上げた新しい研究会です/2024年7月20日(土)/えりも町内/参加費3,000円/大野睦仁・西村弦・堀裕嗣 https://www.kokuchpro.com/event/6c6d2f378d9f9927efb016b8dbfb1312/ 【定員20/残席3】 エモーショナルな授業セミナー2024夏in函館/日時:2024年7月26日(金) 09

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          私は三人の師をもっています。 一人は森田茂之。大学時代の直属のゼミの師匠です。いわゆる現場上がりの大学教員で、文学教育の研究者でした。私が現在、国語教育において研究対象としている「問題意識喚起の文学教育」「状況認識の文学教育」「十人十色の文学教育」(荒木繁・大河原忠蔵・太田正夫)という1950年代以降の日本文学協会の実践群は、師匠森田茂之から引き継いでいる研究です。現在、盛んに発信している道徳授業研究もこの延長線上にあります。 森田は中学校の部活動のような感覚で、水曜日と

          教師らしくなりたい?

          ある年、僕が学年主任をしていた年の一学期のことである。初めて担任を経験する隣のクラスの女の子が子どもとのちょっとした言葉の行き違いで落ち込んだことがあった。彼女がメールで相談してきたので、それに応えてやりとりをしているうちに、こんな言葉が送られてきた。 「いつになったら教師らしくなれるんでしょう……。」 僕はすぐに返信した。 「そんな馬鹿なことを考えるんじゃない。教師らしいお前なんて目指すんじゃない。目指すべきはお前らしい教師だ。お前が教師に近づくんじゃなくて、教師とい

          教師らしくなりたい?

          金曜の夜、土曜の朝が好き?

          金曜の夜と土曜の朝が好きだ。 日曜の夜と月曜の朝は絶望的な気分になる。人間ならあたりまえだ。 教師の世界には教師の仕事を神聖化する人が多い。土日も含めて常に教師である、教師でありたい、そんな綺麗事がまかり通る傾向がある。馬鹿を言うな。僕は教師を仕事してやっている。教師をやることは喰えるということが前提だ。この仕事で喰っていけないとしたら、僕はすぐに別の仕事を探す。教職を天職だとは感じているが、喰えない天職など「天職」の名に値しない。 僕は金曜の夜はとことん遊ぶことにして

          金曜の夜、土曜の朝が好き?

          教師の仕事は感動的?

          教師の毎日には感動がある。そう思われているフシがある。確かに中村雅俊演じる教師にも武田鉄矢演じる教師にも毎回感動があった。でも、それはあくまでドラマでのこと。一般的な社会人の毎日がルーティンワークに明け暮れているように、教師の毎日だって感動も涙もない膨大な子どもたちのやりとりでできている。もっと言うなら、教職なんていうのは子どもたちに、ただ淡々と、普通の、日常的な学校生活をつくっていくことにこそ本質がある。 教師が仕事に感動を求めてしまうと、感動と親和性の高い子どもにばかり

          教師の仕事は感動的?

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          〈今後の予定〉 御依頼は下記日程以外でお願いします。 【定員16/残席3】 THE 不登校対応~教室実践力セミナー2024水無月in札幌/日時:2024年6月15日(土) 09:10~16:50/会場:札幌市産業振興センター/参加費:4,000円(含・弁当代1,000円)/登壇者:千葉孝司・宇野弘恵・髙橋和寛・梶原崇嗣・太田充紀・山口淳一・新里和也・大野睦仁・高橋裕章・友利真一・山下幸・堀裕嗣 https://www.kokuchpro.com/event/533e17e

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          ハプニングはできるだけ排除すべき?

          論理的思考ほど実生活の役に立たないものはない。その証拠にだれもが論理的にものを考えようとするけれど、だれもが論理的にものを考えることができない。実生活においてだれもが論理的に考えて動くことができないのだとしたら、論理的に考えて対策を講じようとしても無駄骨に終わるだけだ。論理で動かない世の中に論理で対抗しようとしても虚しいだけである。  教師は教室からできるだけハプニングを排除しようと努める。指導案通りに進めようとする授業然り。教師の思い通りにコントロールしようとする学級経営

          ハプニングはできるだけ排除すべき?

          高いアンテナってどうしたら手に入る?

          僕はアンテナの高さに割と自信がある。 もちろん我が家のアンテナが高いと自慢しているわけではない。あくまでも比喩だ。だいいち僕は自分の家のアンテナを見たことがない。だから我が家のアンテナを自慢することができない。人は知らないものを自慢できない。それはちょうど、自分の体力の自慢できても、自分の十二指腸がいかに活発に機能しているかを自慢できないのに似ている。 僕は小説をよく読む。学生時代にもよく読んでいたが、就職してからはあまり読まなくなり、四十代の後半に入ってまた再びよく読む

          高いアンテナってどうしたら手に入る?

          多忙なら必ず多忙感をもつ?

          僕は「忙しい」と呟いたことがない。もっと言えば、自分が忙しいと感じたことがない。 「忙しそうですね」と言われたことはある。僕は自分の予定をブログにアップしているから、毎週末に全国を飛び回っているのを見てみんなそう言う。「これで平日は勤務があるんですよね」とも驚かれる。でも、それは当たり前のことだ。それを承知で週末に予定を入れているのだから、文句は言えない。だいたいそういう予定に文句を言いたくなったら、僕は週末に予定を入れなくなるだろう。週末の研究会は必ずしも「やらなければな

          多忙なら必ず多忙感をもつ?