ハードワールドコンクエスト 第三話【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
キャラ紹介
ベルク=メンデレス(16)アスマト帝国軍傭兵部隊所属の魔術師。
バジン=コルテス(19)同上。
レイラ=ギュルムント(16)同上。
アセナ=アスマトアウル(15)アスマト帝国の皇女。
ロイ=ハイドラー(18)アスマト帝国軍軍戒兵。
本編
〇ソンリ王国領内・ヒスラ砂漠(朝)
傭兵達の列が徒歩で行軍し、ベルクとアセナは並んで歩く。
ベルク「すげえな、砂漠ってホントに砂しか無いんだ!」
アセナ「良かったな、海に続いて砂漠も見られて。だがそれにしても……」
二人の前方で、パンツ一丁に剣を背負ったバジンとフリル付きの服を着たレイラが歩いている。
バジン「いやぁ、空が高いな!熱い日差しに俺の体も照れちまってるぜ!」
レイラ「それ日焼けですのよ。本当に気品も常識も無いんですわね」
バジン「いやいやマジだって!ほら見ろよ見ろよ!」
振り返ったバジンの大胸筋がピクピク動く。
レイラ「何ですのいきなり!とりあえず服を着なさい!」
バジン「着る訳ねえだろ!お前こそそのお嬢様みたいなフリフリ脱げ!暑さで死ぬぞ!」
レイラ「女性に服脱げって正気ですの!?それに、わたくしは『みたい』ではなくお嬢様です!」
バジン「はぁ~?本物は自分で自分をお嬢様だなんて呼ばねぇだろ!」
レイラ「品の無い方でもわかりやすいようにして差し上げただけですわ!」
バジン「おい、失礼だろ!」
バジンはベルクとアセナに振り向く。
バジン「大丈夫、お前らが品の無いやつな訳ないからな!」
アセナ「いやお前のことだろ」
〇シアロ駅前(回想)
ベルク・アセナ・ロイの前にバジンとレイラが立っている。
ロイ「という訳で、こいつらが貴様らと隊を組むことになる。その方が監視が楽だからな!まずは互いに名乗れ、それが礼儀だと思うぞ!」
バジン「俺はバジン=コルテス、この隊の隊長だ。よろしくな!」
レイラ「レイラ=ギュルムントですの。この男に隊を率いさせる気はありませんので、わたくしを頼ってくださいまし」
ベルク「こっちこそよろしくな。俺はベルク=メンデレスで、この人が──」
アセナ「アセナだ。諸事情あって家名は名乗らない」
バジンは大きく、レイラは小さく笑う。
バジン「まあ家名なんて些細な問題だしな、お前らがベルクとアセナだってわかればいい」
レイラ「名乗りにくい家名もありますわよね。わたくしもあまりに高貴な家名すぎて名乗るのが憚られますもの」
バジン「いやお前のは聞いたことねえけどな……」
レイラ「お黙りなさい。あなたのような下品な人間とは無縁の高貴な家名なんですのよ!」
アセナM「ギュルムント……どこかで聞いた気もするな」
ロイ「よし、貴様らは上手くやっていけそうだな!健闘を祈るぞ!」
ロイは走り去る。
ベルク「助かったよ、ありがとな!」
ロイは足を止めて振り返る。
ロイ「貴様らの頑張り次第では同士討ちは不問に処す!心して戦え!」
ベルク「……そういえばさ、あんた達って同士討ち」
バジン「してねえよ。こいつを勧誘したらいきなり引っ叩かれただけだ」
レイラ「裸で胸筋をピクピクさせながら『お前とは相性がいいって体で感じる』とか言いながら近寄ってきたあなたが悪くってよ?」
バジン「いや男ならみんなするって!」
バジンはベルクを見る。アセナもベルクを見る。
アセナ「するのか?」
ベルク「しない」
〇ヒスラ砂漠
ベルク「いや、品が無いって言われたらそうかも。俺田舎者だし」
レイラ「おやめなさい。この男に賛成してはいけません」
アセナ「あまり自分を卑下するな。出自で決まるものじゃない」
ベルク「アセナに言われてもなあ」
レイラ「アセナさんの仰ることは間違いではありませんわ。気品とは生き様で身につけるものですのよ」
ベルク「そういうもんかな」
レイラ「ええ。そこの変態露出筋肉男みたいに気品をドブに捨てる生き様もあれば、わたくしのように生まれながらにして満ち満ちている気品をさらに高める生き様もありましてよ?どうするかはベルクさん次第です」
ベルク「そっか。じゃあさ、レイラの言う気品ってのは、あんたが戦場に出てきたのにも関係してんの?」
レイラの表情が一瞬だけ強張り、すぐに笑顔になる。
レイラ「バジンさんが静かですわね。日射病で倒れて離脱するならお早めに言ってくださいまし」
ベルクM「たぶん俺まずいこと言ったな」
アセナM「ギュルムント家……後で帝都の弟に少し調べさせるか」
バジンは立ち止まり、他の三人も足を止める。
アセナ「どうした?」
バジン「ここを離れるぞ。今すぐ」
レイラ「あら、理由を教えてくださいます?」
バジン「説明してる時間が無い、とにかく急ぐぞ!」
バジンはレイラを担いで走り去る。ベルクとアセナは顔を見合わせる。ロイが後方からそれを見つける。
ロイ「貴様ら!隊列を乱すな!何をしている!」
レイラ「ちょ、こら、離しなさい!」
バジン「何してんだはそっちだ!下から攻撃が来る!お前ら死ぬぞ!」
ロイ「何だ──」
アセナはベルクに抱きつき、ベルクは魔術による高速移動でバジンの元へ滑り込む。直後、先ほどまで四人がいた場所に大きな口のある巨大なミミズのような魔獣が地中から飛び出し、巻き込まれた傭兵達を丸吞みして再び地中に潜る。
ベルク「危ねえ、助かった!」
レイラ「感謝いたしますわ」
バジン「いや、助からなかったやつもいる。一応訊いとくが、人死にが初めてのやつは?」
誰も首肯せず、バジンは口角を上げる。
バジン「じゃ、魔獣退治でもして追加報酬もらおうぜ」
レイラ「賛成ですわ」
ベルク「同じく。でも何だあの魔獣?初めて見た」
アセナ「当然だ。あれはデスワーム。第二大陸の中央部、タルタンの領土に広がる砂漠に棲息している魔獣だからな」
レイラ「ではなぜヒスラ砂漠に?」
ベルク「……魔獣使い」
アセナは頷き、声を張り上げる。
アセナ「ロイ!シアロで仕掛けてきた魔獣使いがまた攻撃してきた!本隊に伝えて、この傭兵隊を散らばるよう誘導しろ!固まってると一網打尽にされるぞ!」
ロイ「貴様らはどうする気だ!」
アセナ「魔獣を倒す!」
ロイ「だと思ったぞ!無事を祈る!」
ロイや他の軍戒兵が傭兵隊列を誘導する。
バジン「そっち来るぞ!」
バジンが叫んだ方向にいた傭兵達は地中からのデスワームの襲撃を受ける。
バジン「クソっ!」
ベルク「魔獣の位置がわかるのか!?」
バジン「ああ。触覚を拡大する魔術だ。これで俺は遠距離の索敵ができる」
レイラ「だから裸でしたのね。だとしても気色悪いですが」
アセナ「人数が多い場所を狙っているようだ。目視で位置、バジンの魔術でタイミングがわかれば私の光明魔術で敵を仕留める。だが問題は……」
ベルク「アセナの魔術だと味方を巻き込むかもしれないのか。だったら俺が斬れば──」
言いかけた直後、別の傭兵グループが襲撃される。
ベルク「ごめん、作戦決まったら教えてくれ。とりあえず一発入れてくる!」
ベルクは高速移動して地中に潜る寸前のデスワームに一太刀浴びせる。
バジン「一発って、大したダメージじゃねえぞ」
アセナ「いや、あいつが一発入れたのはかなり大きい。後はどれだけ味方を巻き込まないかだが……」
レイラ「それ、わたくしの魔術で解決できますわよ?というか既に解決済みですわ」
バジン「来るぞベルク!」
デスワームの襲撃をベルクは回避する。
バジン「って、一人しかいないのにベルクが狙われた?」
レイラ「ええ。わたくしの魔術は気品を満ち溢れさせるものですの。だからベルクさんは狙われたんですわ」
バジン「常識人にもわかるよう言えよ」
レイラ「あなたこそ異常者でしょう」
アセナ「特定の相手に敵を注目させる魔術か……これでいくぞ」
アセナは剣を抜き、術の発動準備をする。アセナの体から魔力が立ち上る。
バジン「ベルク、右後ろからだ!」
ベルクは避けようとするが、砂に足を取られる。
ベルクM「しまっ──」
地中から出てきたデスワームはベルクを狙わず他の傭兵に体を向け、再び地中に潜る。
レイラ「注目対象の切り替え、なんてこともできるんですのよ」
バジン「次で決まるはずだ!耐えろベルク!」
デスワームが地中から襲い、ベルクは回避する。デスワームは口から岩を吹き出してアセナを狙い、アセナはこれを寸前でかわす。その隙にデスワームは地中へ戻り始める。
バジンM「発動が遅れた!」
レイラM「逃げられる!」
ベルク「減速」
ベルクが唱え、デスワームの動きが遅くなる。ベルクはアセナを見て笑い、アセナも口の端を上げて返す。
アセナ「光明魔術」
デスワームの頭上に術紋が現れる。
アセナ「天刑!」
光線が降り注ぎ、デスワームは動きを止める。
〇ヒスラ砂漠・野営地(夜)
ベルクとアセナが焚き火の前で並んで座っている。
ベルク「アセナ、あの二人とやっていけそう?」
アセナ「ああ。クセはあるが悪いやつらではなさそうだしな」
ベルク「そっか。何か意外だったな、箱入りじゃないのはわかってたけど、あんたが人死ににも動じてなくて」
アセナ「後宮はお前が思うよりずっと陰謀が渦巻いてる。死に触れたことの無い者はいない」
ベルク「そっか。にしても遅いな、あの二人。飯取りに行ってくれるのはホントにありがたいけど、またケンカしてるかも」
アセナ「……逆に、田舎村にいたお前がなんで人死にに慣れてるんだ?」
火の当たりが悪く、ベルクの顔は夜闇に沈んでいる。
ベルク「それはさ」
バジン「大変だぞお前らあああぁぁぁっ!」
二人が叫び声に目をやると、バジンとレイラが走ってくる。
ベルク「どうしたの?」
レイラ「わたくし達の気品溢れる活躍が認められて、今日の食事は豪華にしていただけるんですのよ!本営の天幕にお呼ばれですわ!」
ベルク「おお、すげえ!でも、本営の天幕って……」
バジン「そうだ。俺達、傭兵のくせして陛下に拝謁できるんだ!ほら、お待たせできねえから早く行こうぜ!」
バジンとレイラがはしゃぎ、ベルクとアセナは顔を見合わせる。
〈つづく〉
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