接触確認アプリ『COCOA』がリリース!〜コロナウィルスを巡るストアの変化と課題を考察〜
■ はじめに
こんにちは!Repro Growth Marketerの稲田宙人(@HirotoInada)です!
本日6/19に日本においても新型コロナウィルスの感染拡大防止のための接触感染アプリ『COCOA』(COVID-19 Contact-Confirming Application)がリリースされました。
多くの人が「接触確認アプリ」とアプリストアで検索をしても当該アプリが出てこないという投稿をSNS上で行なっており、実際にストアで検索をしてみても以下のような検索結果が表示されます。
まだまだ公開初日なので課題は山積みだとは思いますが、今回は日本において本アプリが普及するためにどのような課題があるかを、他国の接触確認アプリの事例も踏まえながら、アプリマーケティング観点で読み解いていきます。
1. 接触確認アプリとは?
本論に入る前に、そもそもの今回の接触確認アプリ開発を可能にした技術に関して簡単に説明します。
国民の動きをトラックするには、人が移動する際に常に持ち歩くスマートフォンを使用するのが最適ですが、LINEなどのプラットフォーマーではリーチ数はLINEを使用しているユーザーだけであるという課題がありました。(それでも国民の2/3にリーチできるLINEのユーザー基盤は強大です。実際、厚労省と連携したLINE上での健康状態のアンケートは感動しました。)
それでは、最大公約数にリーチするにはどのレイヤーの協力が必要になるかというと、ソフトウェア本体を保持するAppleやGoogleなどのプラットフォーマーなんですね。
今回の接触確認を可能にしたのは正にそのAppleとGoogle両者の提携によるAPIです。
このAPIはiOS13.5のリリース日である5月21日に公開され、各国の公衆衛生機関が提供するサードパーティアプリにより接触の確認ができるようになりました。
本API開発において最も焦点が当たったのが個人情報の保護に関してでしたが、以下のような対策を行うことでその懸念を払拭しようとしています。
①:接触記録のアクセスにはオプトインが必要
②:オプトアウト後には過去データの削除も可能
③:ユーザー特定のIDではなくランダムに生成される一時的なIDを使用
④:ID情報はサーバーには保存しない
⑤:同一アプリ内での位置情報サービスと接触通知APIの同時使用の禁止
特に、「①:接触記録のアクセスにはオプトインが必要」に関しては、デフォルトでは記録へのアクセス許諾がオフになっており、両者ともにかなり透明性の担保に気を払っていることが伺えます。
このような両者の連携の結果、ようやく日本でも本日接触確認アプリ『COCOA』が利用できるようになったわけですね。
2. 各国の接触確認アプリ
この章では、日本に先んじて接触確認アプリをリリースした各国での使用状況と課題を簡単に整理します。
2-A. 各国アプリの個人情報管理方法
まずは、各国でリリースされているアプリで採用されている個人情報管理技術に関してです。
接触確認アプリは個人情報の管理方法で大別すると以下の3種類に分けられます。
①:データを国が管理・個人が特定できる
②:データを国が管理・個人が特定できない
③:データは端末で管理・個人が特定できない
Source:各国で導入が進む“接触確認アプリ” | 国際報道2020 特集 | NHK BS1
①のタイプのうち、カタールでは利用が国によって義務化されており、使用していない場合の罰則規定まで設けられています。普及率は非常に高くなりますが、人権団体からはプライバシーの保護を主張する声も上がっているような状況です。
②に関しては、匿名で使用できる点・情報が国によってサーバーで一元管理されている点で、サイバー攻撃のリスクがあります。イギリスではこのセキュリティの問題により、現時点でも導入には至っていません。
今回、日本は③の形式でのアプリ導入になりましたが、当初はシンガポールを参考にした①のタイプのアプリ導入が検討されていました。しかし、カタールのような法規制が難しい点、利用者が増えないとアプリの価値が無い点から、最終的には個人情報が特定できない③のタイプでの導入が決定しました。
2-B. 各国のアプリの普及状況と課題
さて、それでは実際に先行して接触確認アプリが導入された各国での普及状況と課題を見ていきましょう。
■ カタール
まずはカタールです。前述の通り、カタールではアプリの利用が義務付けられており、「EHTERAZ」という名の接触確認アプリがリリースされています。
アプリストア内のカテゴリランキングでもHealth&Fitnessカテゴリで順位が急上昇しており、現在も継続して1位表示がされています。
また、アプリストアでの検索量の大小を示す検索ボリュームという指標が存在しますが、「EHTERAZ」というキーワードのそれは、現時点で最大値を示す100を叩き出しており、如何に利用義務の効力が強いかを伺えます。
一方で問題になっているのがプライバシーの観点です。カタールでは、前述の通り全国民にアプリの利用を義務付けており、個人が特定できる形での接触確認アプリとなっています。既に国民の約1/3にあたるユーザーの個人情報が流出する事件も起きており、セキュリティが問題視されますが、使用しない場合厳罰も発生するという背景もあり、国民は継続利用せざるを得ない状況になっています。
■ 中国
中国の一部都市では、Apple・GoogleのAPIを使用しない独自の接触感染アプリの導入が進んでいます。
仕組みとしては、メッセージアプリ「WeChat(微信)」・決済アプリ「アリペイ(支付宝)」にインストールされた追跡アプリを使用して、QRコードの読み込みにより感染者の移動経路などを明らかにするものです。
普及率は明らかではないですが、「WeChat」「アリペイ」使用ユーザーにリーチできることを考えると、多くの国民が使用をしていると考えることはできるでしょう。
ただ、中国でもプライバシーの懸念は例外ではなく、杭州市ではコロナウィルスの鎮静化後も恒久的にアプリを市で導入しようとしているため、多くの市民からデータの利用目的などに関して疑問の声が挙がっている状態です。
■ アイスランド
アイスランドの接触確認アプリ「Rakning C-19」は世界でも特に早い4月上旬から運用が開始されています。
既に36万4000人の国民のうち38%、つまり約14万人が利用しているという発表もあり、この38%という普及率は世界最高とされています。(もちろん人口母数の関係もありますが…)
ただ、世界最高の普及率でもまだ決定的なツールにはならないというのが当局の見解です。
各国の接触確認アプリの中でも類を見ない高いプライバシー保護を唄う同アプリでも、普及率が38%に留まっている点は、他の国からみるとかなり厳しい現実に映るでしょう。
■ ドイツ
一番直近の導入国であるドイツでは「Corona-Warn-App」というアプリ名で6/16にリリースがされました。
リリース初日からHealth&Fitnessカテゴリで1位表示をされており、公開後わずか1日で650万ダウンロードを達成したとのことです。
ドイツの総人口は約8300万人であるため、約7.8%の国民が既にアプリを利用開始しているということになり、後述の欧州国家と比較すると、圧倒的に速く・そして高い普及率を誇っています。
特に「corona」の検索ボリュームと検索量(検索ボリュームから算出)の推移は、アプリリリースのタイミングで急変動しており、リリース日である6/16と6/17を比較すると検索量は2倍以上になっており、直前までダウントレンドであった検索量(≒国民の関心)を回復させる大きな契機となったと言えるでしょう。
Source:AppleSearchAds
後述の他の欧州国家と比較すると、かなり速いスピードで普及しているドイツですが、課題がないわけではありません。やはりプライバシーの観点での懸念は多くの国民から挙がっており、ここから普及率がどこまで上がるかは要注目と言えるでしょう。
■ その他欧州国家
最後にその他の欧州国家での動向を見てみます。
ここでは、フランス・イタリア・イギリスの3国を取り上げます。
まず、フランスでは6月初頭に「StopCovid」という名前で接触確認アプリをリリースしましたが、国民のわずか2%にしかダウンロードされていない状況です。
次に、イタリアですが、フランスと同じく6月初頭に「Immuni」という名前でアプリをリリースしましたが普及状況は3.5%を超えたばかりで順調とは言えません。
フランスもイタリアも一応カテゴリ内順位は1位を継続して取得しており、アプリ名での検索量も高い数値を継続して叩き出しているのにも関わらずDL数が伸びていない状況になっています。
最後にイギリスに関してです。当初は独自のアプリを採用することを画策していたイギリスですが、結局Apple・Googleが提供するAPIを使用する方向に転換すると発表を18日に行いました。動き出しが遅かったこともあり、アプリの提供は今秋を予定しているとのことです。
3. アプリマーケティング観点の日本における普及率向上への課題
さて、ここまで各国の接触管理アプリの普及状況と課題感を見てきました。
最後に、実際に『COCOA』がリリースされた日本において、普及率を上げる上でどのような課題があるのかをアプリマーケティング観点から見ていきます。
ここでは主に、アプリストア要因・ASO要因・技術要因の3つに分解してみます。
3-A. アプリストア要因
まずは、アプリストア要因に関してです。
ここでは主に、Apple・Googleがコロナウィルス関連のアプリに対してどのような規制を引いているかに注目します。
前提として、「コロナ」のアプリストア上での検索量がどのように変化したかを見てみましょう。
Source:AppleSearchAds
年始と比較して最高地点では実に40倍以上の検索量があるのがみて取れますね。直近でも多くの検索がストア上で為されており、今回の「COCOA」リリースにより検索量が再燃する可能性は大いにあると言えます。
このトラフィック量に便乗したいと考えるアプリデベロッパーは少なくないのは予想が容易いですよね。
実際にAppleとGoogleが公式にどのような規制を発表し、実態はどうだったのかを振り返ります。
■ Appleの規制
まずはAppleですが、公式に発表した規制は以下の2点です。
①:営利目的でコロナ関連の情報やテーマを使用したアプリは全て公開差し止めに
②:密集などを想起させるようなスクリーンショットを使用した場合はフィーチャー審査は差し止め
で、実態がどうだったかと言うと、「コロナ」で検索すると以下のようなアプリが表示されます。
赤文字にしているのはVOD系のアプリで、それ以外もエンターテイメント系のアプリが並んでいるのが分かり、各社トラフィック増加にあやかろうと対策をしているのが伺えます。
一番ゾッとするのがAppleの公式アプリ「AppleTV」が上位表示されている点です。
このようにAppleAppStoreでは、公式の発表と実態が伴っていない状況なんですね。
本日「COCOA」がリリースされたことで、そのトラフィック量にあやかろうと各社が対策することが予想されます。このタイミングで真に必要とされるアプリが最上位に表示されないとうことが起きてはいけません。
■ Googleの規制
次にGoogleですが、こちらは完全に「コロナ」関係のキーワードにアプリを表示させないという手段をとりました。実際検索をしても、WHOのアプリとサイトへのリンクのみが表示されるようになっており、発表と実態が一致していると言えます。
ただ、今後「COCOA」を日本中に普及させていく上で、Googleにもまだできることがあると僕は考えています。
GooglePlayStoreでは考慮するべき点があります。それは、アプリをリリースしてから各キーワードがインデックスされるまでの期間です。iOSと違い、Androidの場合はインデックスが正常にされ、検索結果に表示されるようになるには2〜3週間の時間を要します。
これでは、明日以降「COCOA」や「接触確認アプリ」と検索するユーザーがアプリを見つけられず普及率が向上しないという機会損失が起き得ます。
「COCOA」を例外としてクロールの頻度を上げてインデックスの速度を速めるや、ストアのトップにアプリを掲示するなどでGoogleと政府が協力をできれば、普及率の向上は望めると考えます。
3-B. ASO要因
次にASO(アプリストア最適化)要因です。ここでは、いかにしてアプリを見つけてもらいやすくできるか・ダウンロードしてもらいやすくなるかに関して論じます。
普段僕がTwitterで連載している「#勝手にASO診断」のフォーマットに沿って簡易診断した結果が以下です。
まだリリースしたばかりということもあり、レビュー返信ができていない点はしょうがないと思いますが、国民に見つけてもらえる状況になっているかというと、そうは言えないと思います。
ここでは、主に致命的な2つの問題点を取り上げたいと思います。
①:正式名称とアプリ名の不一致
②:表記揺れの対策
■ ①:正式名称とアプリ名の不一致
まず最も致命的であるのが政府が大々的に発表しているアプリ愛称である「COCOA」と、実際にストアで表示されているアプリ名が全く違う点です。
「COCOA」と調べても検索結果に表示されないのは勿論ですが、仮に見つかったとしても一目で同一のアプリと認識することは難しいでしょう。
タイトル・サブタイトルどちらかに「COCOA」と含有させるなどで、インデックス・視認性の両方を担保することが重要になります。
■ ②:表記揺れの対策
今後、各アプリデベロッパーの「COCOA」関係のキーワードトラフィック増加にあやかろうとする動きが見られるでしょう。
ユーザーは「COCOA」だけでなく「ココア」や「ここあ」のような検索や、「コロナ アプリ」のように検索することも予想されます。
こういった表記揺れや関連語・複合語を対策を行なっていないと、検索結果に表示されず、ダウンロードしたいと考えているユーザーに見つけてもらえず機会損失が発生する恐れが大いにあります。
この損失を無くすためにも、早い段階で幅広いキーワード対策を行い、ストアで見つけてもらいやすくするASO施策の実施が必要になります。
3-C. 技術要因
最後に技術要因に関してです。
ここでは主に2つの課題が存在すると考えます。
①:アクセス記録のオプトインの複雑さ
②:サポートOSのバージョン普及状況
■ ①:アクセス記録のオプトインの複雑さ
前述の通り、Apple・Googleが連携したAPIを使用している「COCOA」では、行動ログを記録するためにはオプトインの作業をを行う必要があります。
このオプトインを行うためには、iOSの場合は設定画面からプライバシー設定、そしてヘルスケア設定と複数の階層を経由する必要があり、国民全員が容易にその作業をできるとは考えにくいでしょう。
この工程を誰でも分かるようにマニュアル化して、アプリ内外で積極的に周知していくことが必要になると言えます。
■ ②:サポートOSのバージョン普及状況
接触確認アプリに使用されているAPIがサポートしているOSは、iOSの場合はiOS13.5以降となっています。(Androidの場合は6.0以降)
Apple公式の集計によると、全iOS端末のうち、iOS13以上のOSを搭載しているのは70%とされています。
これはあくまでもiOS13以上となっているため、iOS13.5以上と限定した場合は、少なからず割合が低下すると考えられます。
つまり、30%以上が本アプリを物理的に使用できない状況にあるということです。
世界各国と比較しても突出してiOSのシェアが高い日本では、特にインパクトが大きいと言え、今後の大きな課題になるのではないかと思います。
■ 最後に
イギリスの研究によると、アプリが効果を発揮するためには、成人人口の56%前後がダウンロードする必要があり、これはイギリスのスマートフォンユーザーのおよそ80%に相当するとされています。
世界最高の普及率を誇るアイスランドでも38%に留まっており、人口母数を加味すると日本における普及には多くの時間を要すると考えられます。
※追記
COCOAのDL数・普及状況とコロナ関係のキーワードのストア上での検索量を可視化したダッシュボードを公開しました!
2020/06/24時点でのDL数と普及率は以下のようになっています。
・DL数:419万件
・普及率:3.3%
政府だけが必死になってアプリを普及させようとしても、プラットフォーマーやそのプラットフォームでアプリを提供するプレイヤーたちが協力をしなければ普及は一向に進みません。
ただ、どれだけ規制をしたところで、プレイヤーは自己の利益を追求するのは目に見えているため、彼らを弾き出すためにも、正しいASO施策やアプリマーケティング施策を政府自らが実践していく必要があります。
そこの一端を我々民間のデジタルマーケティングのスペシャリストが担えるのであれば、社会的責任として全力でお取り組みさせて頂きます。
これだけ大きなプロジェクト、最初から全てがうまくいくことは絶対にないです。国民全員が一丸となって、感染拡大のために、非難ではなく批判をしていくことが一番重要なんじゃないかと思います。
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