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#19 アナタは、一年前のことを鮮明に覚えていますか?

任意同行での取り調べでは
「証拠は全て揃っている」
と豪語していたにも関わらず、逮捕後に執拗な取り調べが始まりました。

素人の私にも、検察の手元に証拠が揃っていないことは想像に難くありませんでした。

証拠も無い状況で、美濃加茂市の多くの人を巻き込んだ逮捕劇を行なった、警察、そして検察に大きな怒りを覚えました。

ただ、長時間にわたる取調べは、その怒りさえ封じ込めてしまうほどに厳しいものでした。

■登場人物
私:藤井浩人

中森氏:詐欺師。私に浄水プラントを提案しながら、その裏で数億円の融資詐欺を実行。私に30万円の賄賂を渡したと証言。

K検事:検察官取調べで私を担当した検事。

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K検事からは、細かなことを聞かれました。

しかし、市長に就任してから、毎日いろいろな出来事が起きていたため、1年以上も前の記憶の多くは曖昧となっていました。

もちろん
「現金を受けとっていないこと」
は、固く断言することができましたが、

「いつ、どこで、誰と、どんな話をしたのか?」

このようなことを手帳や記録が無い中で、記憶だけを頼りに思い出すことは非常に困難でした。
それでも、K検事は何度も何度も同じことを聞いてきました。

数時間にわたり、一つ一つのことを聞いてきました。

「初めて会ったのは、どの店ですか?」
「どのような席の配置で座っていましたか?」
「ファミリーレストランでは、何を飲みましたか?何を頼みましたか?」
「あなたと中森氏、どちらが先にお店に着きましたか?」
「お店に行く前は、どこにいて、誰と会っていましたか?お店の後は?」
「中森氏と会ったのは全部で何回ですか?」
「この資料を見たのは何回目に会ったときですか?」

覚えていたことは答えられましたが、思い出せないことや、答えに自信がないことも多くありました。

「記憶が曖昧ではっきりとは、わからない」
「その日のことは、いくら記憶を辿っても思い出せない」
そう正直に伝えても

「本当ですか?隠していることがあるのではないですか?」
「言いたくないことが、あるんじゃないですか?」
「おかしいですね。そこにいたのに覚えていないなんて」

こんなことをネチネチ、ネチネチ言われ続け、答えられない自分が間違っているのではないかと思ってしまうこともありました。

繰り返しますが、私が受けた取調べは、事実を明らかにするためのものではなく、私が犯人であることを決定付けるための自白を引き出すためのものであるという意図を強く感じました。

録音録画だったので、後に確認することができたのですが、こんなやりとりが残っていました。思い出すだけでも嫌な気持ちになります。

<やりとりの一部を、そのまま記します>
K検事「何か隠そうとしていませんか?」
私「このような状況で思い出せといわれても。資料があれば思い出すこともあるはですだ」
K検事「覚えていないことが多過ぎるのではないですか?」
私「浄水プラント事業の他にも市長として色々なことに着手しているため、このことだけ思い出せと言われても難しいです。あいまいでも良いと言われているから話していますが、覚えていないのはおかしいと言われると何も話せなくなってしまいます」
K検事「覚えていそうなことさえも、覚えていないのはおかしいんじゃないのですか?」
私「あなたが言う覚えていそうなこととは、例えばどこのことですか?」
K検事「こっちに聞くんじゃなくて、努力してください。覚えてないというより何かを隠そうとしているのではないですか?」
私「例えばどの辺りから、隠そうとしているように感じるのですか?」
K検事「例えばではなくて、全体的に隠そうとしている気がします」
私「どの辺りを隠そうとしていると感じるのか言ってください」
K検事「では、これからイチからやっていくから、しっかり話してください」
私「隠すことは何もないので。記憶にあることは全て話します」
K検事「隠すことがあると全体がおかしくなってくるんです。聞いていておかしい気がしてくるんですよ」
私「あいまいな部分は思い出していきたい。隠し事は何もありません」
K検事「隠し事があると辛いと思うから聞いているのですよ。隠しているのは辛いですよ」

何が目的なのか分からない問答がが永遠と続きました。ただ、手錠をかけられ、パイプ椅子に縛り付けられた犯罪者のような扱いを受け、一方的に質問をされ続けれる時間は、大変に辛いものでした。

そして、恐ろしいほどに時間が長く感じました。

取調室に時計は無いため、私が聞くと時間を教えてもらえるのですが、ある時、時間を尋ねてから、数時間は経っただろうと思って、もう一度時間を尋ねたところ、40分しか経っていなかったことがありました。

時間が経つごとに心が折れそうになっていきました。
冤罪事件の自白というものは、こうやって作られるのだと身を以て理解することになりました。

苦痛に満ちた取調べの最中、机の上の電話が鳴ることがありました。
電話を切るとK検事が渋い表情をしながら
「弁護士の面会だ」

これから先、この一言に私は何度も救われました。


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