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きっと成功を掴む未来【第25話】(完)

【登場人物】
主役:佐々木隼人(横須賀大学・4年生:経済学部)
《勤務先:ジャパンファイナンス(金融会社)》

同級生:宮崎ひとみ(横須賀大学・4年生:経済学部)
《勤務先:グローバル保険(保険会社)》

同級生:石原勇気(横須賀大学・4年生:社会学部)
《勤務先:日本開発不動産(不動産会社)》

同級生:木内早苗(横須賀大学・4年生:商学部)
《勤務先:アジアパシフィック証券(証券会社)》

【第25話】別れ

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フランス山で佇(たたず)む佐々木は結論が出ないまま時間だけが過ぎ去っていった。

すると我に返った佐々木が時計をのぞき込むと宮崎を迎えに行く時間が迫っていた。

佐々木:
『や、やばい! 遅刻する!?』

佐々木は、急いでフランス山を駆け下り同級生の宮崎の家へと向かった。

同級生の宮崎が住む最寄り駅に着いた佐々木は、前回の事もあり宮崎と会うのに躊躇(ためら)いを滲(にじ)ませていた。

待ち合わせ時間が迫る中佐々木は、再び宮崎の自宅へと足を進めた。

徐々に宮崎の家が近づくと佐々木の鼓動は次第に激しくなり「ソワソワ」とした気持ちに苛められていた。

宮崎の家の前に着いた佐々木は、自宅のベルを押す前に深呼吸をして気持ちを落ち着かせていると自宅から宮崎が扉を開けて出てきた。

宮崎:
『佐々木君・・・!』

佐々木:
『おぉ~! 宮崎』

宮崎:
『迎えに来てくれてありがとう!』

宮崎もまた佐々木と会うのが楽しみだった。

佐々木:
『この前は退院祝いに行けなくて本当にゴメンね!』

宮崎:
『今日、会えて本当にうれしいわ! ありがとう!』

佐々木は徐(おもむろ)にカバンの中から紙袋を取りだし宮崎に手渡した。

佐々木:
『これ! 美味しかったから食べてよ』

佐々木は数時間前にパン屋で購入した「アップルパイ」を宮崎への快気祝いとして準備をしていた。

宮崎:
『甘い香りがして美味しそう! ありがとう佐々木君!』

宮崎は佐々木の顔を見つめて微笑んだ。

佐々木:
『石原と木内が待っているから急ごう!』

宮崎:
『すぐに支度をするから待ってね!』

宮崎は身支度を整える為、自宅に一度戻って行った。
しばらくすると身なりを整えた宮崎が再び家から出てきた。

宮崎:
『お待たせしました』

佐々木と宮崎は、石原と木内が待つレストランへと向かった。

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佐々木と宮崎は予約してあるレストランに向かう間も「思い出話」が尽きる事はなかった。

石原と木内が待つレストランへと到着した二人はすぐさま店内へと入って行った。

レストラン店員:
『いらっしゃいませ!』

佐々木:
『本日、予約している石原ですが!』

レストラン店員:
『石原様ですね! ご案内いたします』

レストランの店員に案内をされながら佐々木と宮崎は別室の部屋へと向かうと石原と木内が待っていた。

木内:
『佐々木君・・遅いんだけど!』

佐々木:
『えっ・・時間通りなんだけど!?』

木内:
『1週間も待たされて足に根っこが生えちゃいそうだったよね・・ひとみ』

宮崎:
『みんな、ありがとう!』

石原:
『ほら佐々木! 早く宮崎をエスコートしろよ!』

佐々木は石原の助言を受け宮崎が座れるように椅子を引いてあげた。

宮崎:
『佐々木君・・ありがとう!』

佐々木は、宮崎を席に座らせるとすぐさま宮崎の隣の席へと座った。

石原:
『宮崎!・・・体調の方は良くなったかい!?』

宮崎:
『お陰様で少しずつ良くなって来ているわ!』

石原:
『それは良かった!』

木内:
『佐々木君・・・、ひとみはまだ「心の病」が治っていないみたいだよ!』

佐々木:
『えっ! まだ体調がすぐれないの!?』

木内:
『鈍感だな!』

4人が会話を楽しんでいる所にレストランの店員がやって来た。

レストラン店員:
『お料理をお出ししてよろしいですか!?』

石原:
『お願いします』

レストラン店員:
『わかりました・・コース料理を順次お出しして参ります』

佐々木:
『コース料理だって! 凄いね!』

石原:
『勿論、佐々木からのリクエストだから抜(ぬ)かりなくしないと!』

木内:
『佐々木君、お招きいただきありがとうございます』

佐々木:
『おっ、俺の支払い!?』

石原:
『あったりめ~だろ!』

宮崎:
『かわいそうだよ! 私の為に開いてくれている「会」なんだから私も払うよ!』

石原:
『男は好きな女性の為には無理をしてでも尽くすものです・・な! 佐々木』

佐々木:
『勿論だよ! 石原、木内、今日は本当にありがとう!』

早速、4人の前にはコース料理の前菜が運ばれてきた。

木内:
『真鯛とズッキーニのカルパッチョって美味しいね!』

石原:
『宮崎・・! マリネを食べながら泣いているのか!?』

木内:
『ひとみは「涙もろい」からマリネに感激しているんでしょ!』

宮崎:
『みんな、ありがとう!』

石原:
『宮崎! 早く食べないと次の料理が出て来ないぞ!』

4人は昔の思い出話を語らいながら料理を次々と堪能していた。
お酒も入りメインディッシュを食べ終わった頃には宮崎の表情も明るくなっていた。

木内:
『食べたね~!』

石原:
『あとはデザートとコーヒーで終わりかな!』

木内:
『デザートは楽しみだわ! 何かしら!?』

しばらくすると4人のテーブルにデザートが運ばれてきた。

石原:
『凄い! ティラミスとパンナコッタだ!』

木内:
『美味しそう!』

宮崎:
『ちょっと待って!』

突然、宮崎がみんなが楽しみにしているデザートに待ったをかけた。
すると宮崎は徐(おもむろ)にバックの中から紙袋を取り出した。

木内:
『何よ! ひとみ!?』

宮崎は紙袋に入っている「アップルパイ」を取り出し石原と木内のお皿に置いた。

宮崎:
『この「アップルパイ」は今日佐々木君が持ってきてくれたの! 一緒に食べよう!』

木内:
『何でひとみが貰った「アップルパイ」を私と石原君にくれるの!?』

宮崎:
『佐々木君からお祝いをしてもらった証を早苗と石原君にも共有をしてもらいたくて』

石原:
『佐々木は随分渋いものを持ってきたな!?』

佐々木:
『宮崎に美味しいものを食べさせたくて!』

木内:
『ひとみは幸せ者だね!』

その後も4人はコーヒーを飲みながら懐かしい話に話題を欠かなかった。

石原:
『だいぶ遅くなったからここらで終わりにしよう!』

4人は店を後にして各自が帰路へと着くことにした。

宮崎:
『今日は本当に楽しかったわ! ありがとう! 私は家が近いから皆とはここで分かれるね!』

木内:
『ひとみまたね!』

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佐々木、石原、木内は宮崎と別れ最寄り駅へと向かった。

ホームに着くと東京方面の電車がやって来た。

石原:
『佐々木、木内、またな!』

佐々木:
『石原・・ありがとう!』

目黒に住んでいる石原は、佐々木、木内と逆の電車に乗り込み帰って行った。

石原が去った後すぐさま佐々木と木内が住んでいる横浜行きの「下り電車」がやって来た。二人はその電車へと乗り込み宮崎の事について語り合っていた。

木内:
『佐々木君・・』

佐々木:
『何!?』

木内:
『ひとみが何故「アップルパイ」を私と石原君にくれたかわかる!?』

佐々木:
『友達だからだろ!』

木内:
『ひとみは佐々木君の事が好きなんだよ!』

佐々木:
『そうかな!?』

木内:
『佐々木君の気持ちがわからないからひとみは不安なんだよ!』

佐々木:
『それと「アップルパイ」との関係って何!?』

木内:
『佐々木君が誰かの所に行ってしまうんじゃないかって心配しているからこそ、もらった贈り物を私たちにも託したんだよ!』

佐々木:
『そうだったんだ』

宮崎の話で夢中になっていると、電車は横浜駅に到着してしまった。

木内:
『私はここで乗り換えだからじゃあね! ひとみの事を任せたわよ!』

木内は乗って来た電車を降り、佐々木を振り返ることなく階段を駆け下りて行った。

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~ あれから3年の月日が過ぎ去った ~

佐々木はいつものように忙しい仕事に追われていた。
3年が経ち佐々木は係長へと昇進を果たす一方、先輩の須藤も課長へと昇進をしていた。

須藤課長:
『佐々木! 先週に相談されていたお客様の融資の件は審査部へ回したのか!?』

佐々木:
『今日あたり結果が上がってくると思います』

須藤課長:
『先輩として部下にもしっかりとやり方を教えておけよ!』

佐々木:
『須藤課長・・わかりました』

すると同僚の金子が佐々木の元へとやって来た。

金子:
『佐々木君・・少し話があるんだけど今夜食事でも行かない!?』

佐々木:
『よっ!金子・・夕方には客先から戻れると思うので構わないよ!』

金子:
『では、品川駅のいつもの喫茶店で待っているね!』

佐々木:
『了解・・仕事が終わったらすぐに行くよ!』

佐々木は金子の相談に載る為に仕事のスケジュールを手際よく熟(こな)していった。

~ その日の夜 ~

佐々木は、同僚の金子の待つ喫茶店へと足早に向かった。

佐々木:
『金子!・・遅くなってゴメン! 食事に行こう!』

金子:
『急に呼び出してしまってごめんなさい!』

佐々木:
『どうせ一人で外食をするんだから気にしないでよ』

佐々木と金子は近くのレストランへと向かった。

レストラン店員:
『いらっしゃいませ!2名様ですね・・ご案内いたします』

35階のレストランに入る佐々木と金子は、夜景の見えるベンチシートへと案内された。

二人はレストランの店員にエスコートされながらベンチシートへと腰かけ、しばらくの間夜景を楽しんだ。

レストラン店員:
『お待たせしました・・ご注文をいただいた年代もののワインです』

レストランの店員が運んできたのは、佐々木と金子が「生まれた年のワイン」だった。

すると金子は時より何かを思うように笑みを受けべていた。

金子:
『夜景がとてもきれいだわ!』

佐々木:
『何かに悩んでいるの!?』

金子:
『やっぱり佐々木君は仕事が出来るよね!』

佐々木:
『そんなことはないけど!?』

金子:
『佐々木君・・私と山形に行ってみない!?』

佐々木:
『山形・・!?』

金子:
『前に話していたでしょ! 私の故郷に連れて行くって!?』

佐々木:
『時間が出来たら行きたいと思っているよ!』

金子:
『私の両親に会ってもらいたいの!?』

佐々木:
『どういう事!?』

金子:
『私と一緒に暮らさない!?』

佐々木:
『えっ・・・』

金子:
『なんだか少し・・疲れてしまったの!』

佐々木:
『ゴメン!・・山形には行けないよ!』

金子:
『そっか! 佐々木君はとても忙しい時期だもんね』

佐々木:
『ゴメン!』

金子:
『こんな素敵なお店に連れて来てくれたありがとう!』

佐々木は返す言葉が見つからなかった。

金子:
『今日は美味しいものを沢山食べたいわ!』

佐々木:
『そうだね! 美味しいものを食べよう!』

二人は終電間際まで楽しい一時を語らい合っていた。

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~翌日~

佐々木は眠たい目を擦りながらいつものように会社に出社をしていた。

佐々木:
『須藤課長・・おはようございます』

須藤課長:
『みんな、集まってくれ!』

須藤課長の号令の下、仲間たちが須藤課長の周りへと集まって来た。
そこには、金子の姿もあった。

須藤課長:
『残念なことだが、本日をもって金子君が「退職」をすることとなった』

佐々木は突然の出来事に動揺を隠せなかった。

須藤課長:
『金子君・・挨拶をしてくれないか!』

金子は須藤課長の一言を受け、仲間たちが見守る中で言葉を発した。

金子:
『皆さんの支えもあり今日まで頑張る事ができましたが、本日をもって退社することになりました・・ありがとうございました』

須藤課長:
『金子は故郷の山形に帰る事になったので、みんなには残念だが最後の1日を金子との思い出にしてくれ!』

金子は一点の曇りのない清々しい表情を受けべていた。

佐々木:
『金子・・今までありがとう!』

佐々木もまた仲間たちのいる前で素直な気持ちを伝えた。

~その日の夕方~

佐々木は現在抱えている仕事に翻弄されていると佐々木の元に金子がやって来た。

金子:
『佐々木君・・今までありがとう!』

佐々木:
『一緒に仕事が出来てとても楽しかったよ!』

金子:
『これでお別れね!』

佐々木:
『東京駅まで見送りに行くよ!』

金子:
『ありがとう! でもここでサヨナラをしよう!』

佐々木:
『わかった!』

金子:
『じゃあね!』

金子は潤んだ瞳を滲ませながら佐々木の前から足早に去って行った。

佐々木は、今までの思いに馳(は)せながら去っていく金子の後ろ姿を見つめていた。

~完~

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