円安加速を「お金の値段」から考える 『おカネの教室 in ほぼ日の學校』補講
糸井重里さんに誘われて、「ほぼ日の學校」に登壇しました。
「おカネの教室 in ほぼ日の學校」のテーマは「お金の値段」。
モノに値段をつけるのがお金の役割だから、なんだかおかしなタイトルだけど、3つの側面から「お金の値段」を考えると、経済の勘所が見えてくる(のではなかろうか)というお話をしました。
ご興味のある方は、下のリンクからどうぞ。
会員登録が必要ですが、1か月は無料でお試しできます。素晴らしい講義が山盛りですので、ぜひこの機会に。
ほぼ日の學校
先の見えない世界を歩くための「おカネ」の基礎知識(高井浩章)
収録は3月はじめ、ロシアがウクライナに侵攻した直後で、その後、世界情勢や経済、マーケットにかなりの変化がありました。
「講義」のテーマ、為替、インフレ、金利の3つという「お金の値段」からみても、景色がかなり変わりました。
受講者の皆さんに、「今」につなげる補助線があると良いのでは、と思い、補講を用意しました。
以下、「本講義」を受講済みの前提で参ります。最後に当日使用した図版だけ載せておきます。
急激に下がる「円のお値段」
なんと言っても今、気になるのは急激な円安でしょう。
2022年末に115円台だった円相場は1ドル136円台まで下がりました。
為替レートは3つある「お金の値段」のひとつと申し上げました。「よその国のお金と比べたら、ウチのはいくらかな」とお金の価値を決めるのが為替市場です。
さて「円のお値段」は半年足らずでドルと比べて15%も下がってしまった。「コロナ前」との比較なら25%くらい下がった。金融危機でもないのにここまでの売られっぷりは、ちょっとビックリします。
もうちょっと長めの期間で見ると、円安は四半世紀ぶりの水準です。
「お金の値段」のもうひとつの尺度、物価を加味すると、実態はさらにシビアです。物価が上がるインフレは「モノに比べてカネの価値が下がる=お金の値段が下がる」と考えられるというお話をしました。
前に「1ドル136円」を付けた四半世紀前と比べて、ほぼ世界中の国で物価は上がっています。136円出しても、四半世紀前と同じだけモノは買えない。そうした物価変動の影響などを考慮して「円のお買い物パワー」をはかるのが実質実効為替レートです。
円の価値は半世紀前に逆戻りしています。私が生まれたころです。
なぜこんなことになっているかと言えば、アメリカが自分のお金=ドルの「値段」をつり上げようとしているからです。
今度は金利という側面からお金を見ます。
アメリカは今、急ピッチで利上げをしています。平時は1回の利上げの幅は0.25%ずつなのに、今は2倍速(0.5%)、3倍速(0.75%)です。
この結果、講義のときには2%くらいだったアメリカの長期金利は3%を超えてきました。
金利をあげて、もらえる利息を増やす。「ドルを持つ価値=お金の値段」が上がっています。
2%から3%はたった1%の違いですけれど、「72の法則」あるいは「70の法則」を当てはめると、干支ひとまわり分の時間が買える差がある。これは大きい。
なぜそんなことをしているかといえば、インフレが急上昇しているからです。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギーや食品の価格が上がっているのは皆さんご存じの通りです。
物価は裏返すと、モノを基準にした「お金の値段」です。それが40年ぶりの跳ね上がりを見せている。
8%って、ちょっとすごいですね。この状態が何年も続くとは思えませんが、仮に定着した場合、9年ほどで物価が2倍になる計算です。72の法則、便利。
アメリカでは秋に中間選挙があります。議会の勢力を左右する一大イベントで、生活に直結するインフレは最大の争点です。
ただでさえ与党民主党は敗色濃厚なので、慌てて利上げでドルの価値を上げて「モノよりカネをもった方が良いですよ」と誘導している。買い物や住宅買うのはちょっと控えませんか、と景気を冷やしに行っている。
さて、一方の日本。
日銀が「長期金利はゼロ%近辺じゃなきゃ、ダメ」という金融緩和をキープしています。ブレていいのは上下0.25%だけ。つまりほぼゼロです。
日銀は大胆にも金利が上がりそうなら無制限(!)に国債を買って金利を下げますよ、と宣言している。かなり強行、強引です。
「国債を買うと金利が下がる」で引っかかった方、債券の価格と金利(利回り)の関係もおさらいしておきましょう。
煎じ詰めると、日本は引き続き「お金の値段は安くします」という政策を続けています。これは、国内だけ見れば、モノの値段が上がりにくい=需要が弱い状態が変わっていないからです。
「いやいや、スーパーやガソリンスタンドに行けばため息が出ますよ」というご意見はごもっとも。なのですが、「日本で作って日本で売っているモノやサービス」の値段はあまり上がっていないのです。
日銀としては、日本経済はまだ元気がないから「金融緩和=お金の値段を下げる」を続けた方がよい、という理屈になります。一見、筋は通っている。
のですが、間が悪いというか、センスが悪い(笑)
アメリカが「お金の値段、上げますよ」と利上げして、日本は「お金の値段、安い方がいいです」と公言すれば、円安が進むのは自然です。ある意味、お互い、政策の狙い通りなわけです。
しかも、ここに至った経緯を考えると、「狙い」だけじゃなく、日本の政府や日銀の戦略ミスも見え隠れします。この辺りは少々こみいった話なので、とても他人とは思えないよく似た名前と顔の方の動画をご紹介します。
補講のまとめです。
為替市場で急激に「円の値段」が下がっている。
それは「ドルの値段=金利」をアメリカが引き上げているから。
根っこにあるのはインフレ上昇、裏返しの「お金の値段」の下落。これに対抗して金利を上げている。
3つの「お金の値段」はそれぞれつながっていて、円という通貨にとって、なかなかダイナミックな場面に私たちは立ち会っています。
「円の値段」が50年前に逆戻り、というのは、なかなか憂鬱な話でもありますが。
でも、本当に憂鬱なのは「本講義」でも申し上げた、「上がったとはいえ、アメリカの金利は歴史的にみてとても低い」方かもしれません。
続きはまた、機会があったら、改めて。
補講は以上です。
「ほぼ日の學校」当日スライド集
以下、「ほぼ日の學校」で使用したスライドです。
重複は話の流れで再掲したものをそのまま並べているからです。
サーっと見てみてご興味わいたら、最後に再び「ほぼ日の學校」のリンクを置いておきますので、ぜひご視聴を。
ほぼ日の學校
先の見えない世界を歩くための「おカネ」の基礎知識(高井浩章)
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