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韓国発「悪童日記」が問う愛と倫理 『アーモンド』

本稿は光文社のサイト「本がすき。」に10月11日に寄稿したレビューです。編集部のご厚意でnoteにも転載しています。

先天的な偏桃体=アーモンドの疾患で、怒りや恐怖を感じることができず、他人の感情も理解できない主人公の少年ユンジェを、祖母は「かわいい怪物」と呼ぶ。ある悲劇を機に孤独な生活を送るユンジェの生活に、もう一人の「怪物」ともいうべき、数奇な生い立ちの少年ゴニが足を踏み入れてくる。
社会に溶け込めない異物である二人の「怪物」と周囲の人々の織りなすドラマを描いた「アーモンド」は、韓国でベストセラーとなり、世界13か国で出版が予定されているという。

『アーモンド』祥伝社
ソン・ウォンピョン/著 矢島暁子/翻訳

一読して受けた印象は、アゴタ・クリストフの名作「悪童日記」との共通点だ。

無感情なユンジェの語り口は、感情を排して事実の記述のみを自らに許した双子の日記の筆致に似ている。一心同体の「悪童日記」の双子とは違い、ユンジェとゴニは対照的な性格の持ち主ではある。
だが、社会の在り様を根っこから問い直す懐疑精神と、異物としての同族意識で結びついている。言ってみれば、「悪童日記」は一卵性双生児、アーモンドは二卵性双生児の物語のようだ。

そして、ユンジェとゴニ、2人の成長と他の登場人物たちとの交錯は、「社会の在り様の方こそおかしいのではないか」「人間が救われるためには何が必要か」という問いを読者に突きつける。
主人公たちが一見、それらを失っているように見えるからこそ、愛と倫理の稀有な価値が浮き彫りになるというメッセージも、「悪童日記」と似た読後感を残す。

作者は映画と文学の二足の草鞋をはくクリエイターであり、文章のイメージ喚起力が高く、ドラマ作りの勘所も押さえており、読みだすと止まらないエンターテイメント性もある。
青少年向けに書かれた作品で、暴力的な描写はあっても、ショッキングな性的シーンがてんこ盛りの「悪童日記」ほどハードルは高くない。早速、娘に一読を勧めてみようと思っている。

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