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「神がかり!」第20話後編

第20話「痣と手掛かり」後編

 「まりなちゃん?」

 「おーい、真理奈まりなちゃん?」

 「……」

 「まり……」

 「と、とにかく!作戦の練り直しですよ、こっちは!」

 真理奈まりなはそう言って突然立ち上がると、パンパンとプリーツスカートの裾を払った。

 「あ、それから、嬰美えいみさんにも言っといて下さいね。余計なことはしないで下さいって!」

 少しばかり八つ当たりっぽくもあるが、東外とが 真理奈まりなはなんとか気持ちを切り替えて作戦の本道に戻ったようだ。

 「まあ嬰美えいみちゃんは甘いというか、割り切れないところがあるからね」

 真理奈まりなの言っている文句は朝の廊下での出来事だろう。

 「優しいのはあのひとの魅力ですが、今回は私の指示に従ってもらわないと困ります」

 やっぱりこのことも知っていたのかとばかりにけんを睨む真理奈まりな

 「魅力と言えば……そういえば見事に振られたね、真理奈まりなちゃん」

 「っ!?う、うるさい!黙ってて下さい!」

 けんの今更の指摘でさっきまで事を思い出したのか、彼女の顔は急激に真っ赤に染まった。

 恐らくは自身の容姿からこういったことには自信があったのだろう。

 それを簡単に覆され、ばつが悪くて真理奈まりなはつい視線を逸らす。

 「まあ、好みは人それぞれだから仕方ないよ」

 「……」

 「おーーい、真理奈まりなちゃん?怒っちゃったの?おーーい?」

 黙り込んだ真理奈まりなの顔をのぞき込むけん

 この波紫野はしの けんという男。

 本当に敵意無く他人の癇に障ることをさせれば右に出る者がいない。

 ここまで行けばこれも一つの才能だろうが……

 当の真理奈まりなにいわせれば

 ――”なんて嫌な才能”

 真理奈まりなはせっかく無理矢理切り替えた心情をまたもやかき回され、大いに不満になりながらもなんとか冷静さを保っていた。

 「あまり、あの男と馴れ合わない方が良いんじゃ無いですか?あなたも六神道ろくしんどうのひとりなんですから。もし、あなたに彼の抹殺命令がでたら……」

 気を取り直した風を装い真理奈まりなは真けんな眼差しで目前の不真面目な男に忠告する。

 「嬰美えいみちゃんと違うから、俺はね……やるときはるよ」

 変わらない様子で答えた波紫野はしの けんの瞳の奥に静かに闇が揺らめく。

 ――っ!

 途端に男の雰囲気が嘘のように変わり、ぶるりと真理奈まりなの背筋に悪寒が走る!

 東外とが 真理奈まりなは僅かにだが、自身の周りの気温が下がったような感覚に陥った。

 「…………朔太郎アレに劣らない化け物だわ、ほんと」

 「なに?」

 真理奈まりなの言葉が聞こえているだろうに、平然と笑顔を返す波紫野はしの けん

 「……」

 「そういえばね、真理奈まりなちゃん。キミに頼みたいことがあるんだ」

 「……」

 そうしてにこやかに、またもや話題を変える男。

 真理奈まりなは呆れながらもその男の言葉を待った。

 巫山戯ふざけてばかりの男ではあるが、真剣みを帯びた瞳が確認できたからだ。

 彼女の経験からこういうときの波紫野はしの けんはなにか重要な思慮があるときである。

 「学園で頻発している女生徒失踪事件、東外とがが調べている事件なんだけど、こっちのが本腰入れているんでしょ?あれのね、手がかりを掴んだんだ」

 「っ!」

 「まぁまぁ、そんな驚かないで……俺のは偶然だよ、偶然手がかりが転がり込んできたんで、ちょっとついでに調べてみただけ」

 「それって……」

 「直接的な証拠は無いよ……でも、かなり絞り込めるモノは確認した」

 そう言ってけんは自分のスマートフォンに写った画像を見せる。

 「これは……例の痣……でも……」

 そこに写っていたのは、後ろにきっちりと畳まれた制服から天都原あまつはら学園、三年の女生徒らしい少女の裸身。

 ――畳まれた制服……

 真理奈まりなは僅かに眉をひそめる。

 つまりその少女は痣がわかるように下着姿でそこに写っている。

 「でも……この痣って……」

 ディスプレイの中の少女には、胸元の……

 心臓のあたりにひとつ、左の足の付け根あたりにひとつ、計二カ所の例の痣があった。

 「そう、失踪した女生徒の身体からだにある痣だよ。でもこれはもっと状態が新しい、多分解放される前に逃げ出したか、助けられたか……とにかく、”後処理”される前のものだね」

 「……この女性は、今何処どこに?」

 静かな瞳で画面を凝視したまま真理奈まりなは訪ねる。

 「ああ、波紫野はしのの経営している系列会社……えっと、あるホテルに匿ってる」

 「ホテル……それにこの写真って……」

 「ん?」

 真理奈まりなの怪訝そうな瞳はけんを捉えていた。

 「手を……出したんですか?波紫野はしの先輩」

 先ほどまで真剣にスマートフォンの画面を見つめていた彼女は、いつしか隣の男にこれ以上無いくらいに軽蔑した視線を向けていた。

 「いや、まあ……ね、裸見せて貰わないと詳しい事は解らないし……他の人を頼るにしても敵が誰か解らない状況だったしね……ああ!合意だよ合意!表面上はちゃんと口説いて……」

 「……最低です」

 控えめな薄い唇から嫌悪の感情も露わな彼女の本音が零れる。

 「うっ!……で、どうだい。真理奈まりなちゃんが追っている事件の手がかりになるかな?」

 これにはさすがの波紫野はしの けんも多少たじろぎながら訪ねる。

 「状況と経緯を詳しくお願いします……それから……彼女には会えますか?」

そして、真理奈まりなは個人的感情はともかく……

 少し思案してから結論を出した。

 「もちろんさ」

 真理奈まりなの問いかけにけんはふっと口元を緩めた。

第20話「痣と手掛かり」後編END

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