「神がかり！」第17話
第17話「学習しない神様」
――ガシッと！？
確かに俺は掴んだはずだった。
ドカッ！
「くっ」
至近距離！！
器用に畳まれた女の肘が伸び、
一本槍となった掌底の一撃が下方から的確に俺の顎を跳ね上げる！
「……」
しかしこれが――
実際の光景、現実だった。
堪らず、ヨロヨロと二、三歩後方に下がる俺。
「ふふん」
そして、少し間を空けて対峙する東外 真理奈。
「……」
俺は相手を油断無く観察してみるが、特に変わったところは無い。
「素直に言うことを聞いた方が……」
――ザッ！
「！？」
俺は真理奈の言葉を最後まで聞くことは無く、仕切り直していた。
ブンッ！
ダッシュで距離を殺し、先ほどと同じ距離で、
しかし今度は初手を拳に変えて再戦を所望する！
ブンッ！ブンッ！
そして拳だけで無く、掴み手も交えた攻撃にへと連携させるが……
ヒュン！ヒュン！
続けざまに放たれる俺の攻撃をその場でクルクルと、まるで風見鶏の様に回転して躱す少女。
「いま！」
ドカッ！
「くっ！」
そして俺の顎は再び天を仰ぐ！
「次手っ！」
――ちっ！
ブォッ
「！？」
俺は仰け反った身体をそのままに後方へと跳ぶ。
所謂、バク転で相手の二撃目を躱して再び距離を取ったのだ。
「……」
「……」
少し間を空けて、再び対峙した俺と東外 真理奈。
「たいした運動神経だわ、貴方。でも、もう解ったでしょう？」
彼女は勝ち誇るでも無く、淡々と俺を説き伏せにかかる。
「貴方は私に触れることさえ出来ない。”宇豆女神”の加護を受けし東外の家の者には何人も触れることは出来ないのよ」
――”宇豆女神”？
――加護？
俺は聞き慣れない言葉に頭を捻る。
「六神道の神さまが付いてるってか？とんだ七光りだな」
そして取りあえず意味を解して皮肉を言う。
「”宇豆女神”の加護を与えられるのは清廉なる純潔の乙女と相場は決まっているの。選ばれた人間の能力なのだから私は別に卑怯だとは思わないわ」
「……」
――ほぅ、清廉なる純潔の乙女とな
「な、なによっ！」
「いや、なんでもない」
「何でも無いって顔じゃないでしょ！絶対！」
「いや、本当に何でも無い……えっと、相変わらず俺は考えを変えるつもりは無いから、さっさと続きを始めよう。えと……”清廉なる純潔の乙女”さん」
「ぜ、ぜぇっーーーーーーったい！バカにしてるでしょうっ！！このっ折山 朔太郎のくせにぃぃ！」
ザザツ！
顔を真っ赤にした相手の罵倒を受け流しつつ、再び俺は駆けた！
寡黙に、黙々と……闘いを再開する。
命を賭けた真剣勝負とはそういうものだろう？
「折山 朔太郎っ！もう今更あやまっても許してやらないんだからっ！」
ブンッ！
俺は三度距離を詰め、拳を出す！
――あーー五月蠅い
――ほんとに面倒くさい女だ
ブンッ！ブンッ！
しかし結果は先と同じ。
真理奈はクルリクルリと難なく俺の攻撃を躱してゆく。
「ご愁傷様！嬰美さんや岩家先輩の攻撃を散々躱していたみたいだけど、”そういう戦法”は東外の家の専売特許なのよ！」
”ふふふ”とこれ見よがしに薄笑いを浮かべる少女はものすごく誇らしげだ。
「……」
色々と、かなり根に持っているのだろう。
――良い性格してるなぁ……
ブン！ブンッ！
「……」
――それにしても、おかしい
俺は攻撃を続けながらもある違和感を感じていた。
実際、彼女の動きは実に理にかなっていると言える。
体軸の変化で相手の力を受け流す体術はバランスが崩れにくい事から反撃が容易で、対する相手は攻撃直後の隙を良いように狙われる。
――けど、それにしても不可解だ
東外 真理奈の攻防一体の技はたいしたものだが、この近距離でまともに触れることすらもできないとは……
――異常だ
「……」
俺は手数を増やし、尚且つ躱されることを前提に大振りは控えて相手の反撃を出来るだけ殺す。
そして攻撃を続行しながらも、自身の目を細めて相手のシルエットを追ってみる。
ブン！ブンッ！
「……」
――っ！？
――なんだ？あの光は……
俺の攻撃をまるで神楽舞いの巫女のように軽やかに躱す少女。
その身体の表面に……
薄い膜のような……僅かな光……
本体に少し遅れるように流れる僅かな黄金色の光が……ある？
――確かに、ほんの僅かだが身体が光っている
ガシィィ！
その瞬間！
真理奈である三撃目の掌底が俺の横面を捕らえていた。
「ぐがっ！」
ヨロヨロと下がる俺。
さすがにこの距離では……
攻撃をセーブしていたとは言え、あの攻防一体の技を躱し続けるのは不可能だった。
「いい加減降参したら？あの女の為に、貴方がそこまでする義理はないでしょう？」
「……」
掌底を構えながら呆れたように促す真理奈に対して、
「っ！」
俺は無言で四度、間を詰める！
「ほんっと、男って馬鹿ばっかり！」
俺を誰と同類と見なしているのか？
彼女は心底軽蔑した眼差しで今回も俺の攻撃を廻って躱す……
――ガッ！
「えっ？」
しかし！
今度は違った。
「ちょっ！？」
真理奈が完璧に躱したと思ったはずの身体が反対側に引っ張られる！
――違うんだよっ！
俺の拳は今まで同様、彼女の身体に触れることもできなかったが……
俺はそこからさらに射程を伸ばしていた。
「ゆ、ゆびっ！？」
俺は振り切った拳を咄嗟に解除し、そのまま人差し指を伸ばしてターゲットのカーディガンの裾に引っかけたのだ。
「こ、この！」
真理奈はすぐさま体制を立て直そうと足を踏ん張って右の掌底を俺の顔面に定めるも……
ババッ！ババッ！
引っかけた指から手繰り寄せて完全に掌でホールドした少女のカーディガン。
俺は女の衣服、その背中部分を捲り上げ同時に足を払って彼女を前方に引き倒す。
「きゃっ！」
前屈みに倒れた少女は膝立ちになり、続いて両腕の袖のみ通した状態になったカーディガンを腕に巻き付けたままにして、俺は女の両腕を背中方向に拘束する。
グイッ！
さらに背中で揃えて拘束された腕をレバーのように強引に上へと引き上げる！
ググッ……ゴツン！
当然、少女の上半身はお辞儀するように前方に倒れ、
彼女は無様におでこを地面に貼り付けた。
「ぐ、くぅぅ……」
少女は呻いて暴れようとするがどうにもならない。
グイッ！
往生際悪く抵抗しようとする少女の両腕に更に角度をつける俺。
「きゃん！」
僅かではあるが、最後まで抵抗していた少女の膝は完全に崩れてお尻が為す術無く落ちた。
「……」
下半身が無理矢理正座させられた格好のまま、上半身を前方に折り曲げられて両腕は、後ろ手に……
自身の着用するカーディガンを拘束具代わりに絡め取られた少女。
「くぅ…………ぅぅ……」
頭を深々と下げて地面に張り付かせられた囚われの不憫な少女。
「……」
そして俺は――
その少女の柔な腕に巻き付くピンクのニットを捻り上げながら少女を見下ろしていた。
「たとえ神様だってなぁ……」
そう、見下していた。
「学習しない”怠け者”は人間以下なんだよ！」
第17話「学習しない神様」ＥＮＤ
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