「神がかり!」第09話中編
第09話「裏世界のひとびと」中編
「どいつもこいつも使えねぇ奴ばっかりだな、なっ?イングラムさんよ!」
「その呼び方はやめて下さいませんか?永伏さん」
――同時刻、天都原学園、生徒会室にて
もうそろそろ日付も変わろうかという、学園には似つかわしくない時間帯に。
――
数人の学生と一人の成人男性がそこに集まっていた。
成人男性が発した侮蔑の言葉にブロンドの髪と碧い瞳が印象的な少年は言葉全体では無く個人的な部分にのみ反論する。
生徒が利用するには些か大仰な机に両肘を立てて、口元の前で手を組んだポーズの為だろうか……
口調と涼しい瞳から一見柔和な対応ではあるが、少年の口元が笑っていないことは、そこに集まったメンバーは誰一人として気づいていない様子だった。
「あっ?本名だろうが!ライト・イングラムさんよ!」
自身の目前に立つ少しばかりガラの悪い男に、穏やかではあるがハッキリと否定の言葉を発するブロンド髪の少年。
正面に座す、美少年に苛立たしげに文句を続けるガラの悪い男……
永伏 剛士は二十代後半くらいで、お世辞にも堅気に見えない風体である。
長身のヒョロリとした体型で、面長の輪郭に光る細い目と鼻筋の通った顔立ちは見た目上はハンサムと言えなくもないが……
生来のガラの悪さがそのすべてを打ち消して余りある。
――対して
穏やかな表情で座るブロンド髪の少年は御端 來斗。
英国人を父に、日本人を母に持つハーフで、涼しげな碧眼と蜂蜜のような甘いブロンドが特徴の美少年だ。
また、天都原学園の生徒会長である御端 來斗は、兼任で”学生連”のトップでもあった。
「今の僕は御端の人間です。本名は確かにそうですが……フルネームで呼んで頂けるのなら母の実家の方でお願いします」
和やかに促す來斗だが、今度は目も笑っていない。
「……ちっ、ガキが」
永伏は面白く無さそうにそう吐き捨てると、今度は來斗の横に控える巨漢の男に視線を移す。
「っ!?」
永伏と一瞬目が合った巨漢の男、岩家 禮雄はビクリと大きな肩を硬直させた。
生徒会室には生徒会長である御端 來斗、その右隣に岩家 禮雄、左隣に波紫野 嬰美と波紫野 剣が並んで立っている。
本年度の天都原学園、学生連幹部五名のうち四名だ。
「六神道の家系も最近はこんなもんか?最近の若いのはそろいもそろって不出来だな!」
――っ!
永伏 剛士の吐き捨てるような言葉に、岩家 禮雄、波紫野 嬰美の表情が一見してわかるほど険しくなる!
――
一方……御端 來斗と波紫野 剣の表情には目立った変化はないが、それもあくまで表面上のはなしだ。
「なんだ?”異教の女ひとり”を一年以上放置しているような無能連中が一端にプライドなんてご大層なモノがあるのか?」
岩家 禮雄と波紫野 嬰美の反応を楽しそうに眺めながら挑発を続ける永伏 剛士。
「永伏さんこそ、異教なんて随分と時代錯誤な言いようですね。年長者は年長者らしく、学園のことは”若い者”に任せたらどうですか」
波紫野 嬰美はお返しとばかりに、わざと”若い者”を強調させて言い返す。
「ふん、メスガキが!もうチットでも膨らんでから一人前言えよ!」
「なっ!?」
永伏は自身の両手で女性の胸を表現しながら嬰美を馬鹿にした。
「このっ……」
嬰美はつい、怒りにまかせて一歩前に出ようと重心を……
「えーーっと、永伏さん。それで今日はどう言ったご用件で学園へ?」
緊迫する永伏と嬰美の間に絶妙のタイミングで割り込んだ剣は、自分の姉を左手で制しながら目前のガラの悪い男に和やかに質問した。
「……波紫野弟か」
永伏は面白くなさそうにフンと鼻息を漏らす。
この永伏という男の態度は最初から争いを目的としていたような節がある……
それを警戒しての波紫野 剣のフォローであった。
「六神道のジジイ共から催促だよ!いつまであの”守居 蛍”とかいう小娘を放置しているのか!ってな」
そこで生徒会室の面々は、永伏 剛士が何故にこんなに不機嫌なのかがやっと合点がいった。
――
六神道の各家を代表する老人達。
所謂、”長老達”からお使いのような仕事をさせられて極めて不機嫌なのだ。
――で、行き掛けの駄賃にひと喧嘩でもと……
そういった感じだろう。
――
御端 來斗は無言に、岩家 禮雄は小さく舌打ちを、波紫野 嬰美の男を睨む視線は鋭さを増し、波紫野 剣は控えめに笑う。
反応は様々だが、永伏 剛士の人となりをよく知る面々の反応に共通する頭文字は、”呆れて……”だろう。
「長老達が?心配はご無用です、放置はしていませんよ。ちゃんと監視して問題を起こさないように……」
「それが生ぬるいって言ってんだよ!問題を起こす前にぶっ叩いちまうのが普通だろが!」
來斗の言葉を遮って一喝する永伏。
「それは永伏さんの常識でしょう?野蛮な!」
嬰美は高校生の中で、唯一の成人であるにも拘わらず喚き散らす大人げない男に怒りの眼差しを向けていた。
「嬰美か!はは、波紫野の家命で監視の為に極秘裏にあの小娘に近づいてるって聞いたぜ?ふっははっ!まんまと雌狐に取り込まれて公私混同してんじゃねぇよっ!」
「な、何ですって!」
自身の友人を、仕事を馬鹿にされ、沸騰する少女。
彼女は絶対に認めないだろうが……
正直なところを言うと、痛いところを突かれたという気持ちもあるのかもしれない。
「落ち着けって、嬰美ちゃん。それと永伏さんも言葉が過ぎますよ」
「剣!この無礼者斬らせて!!あと、アンタに呼び捨てにされるいわれはないわ!」
「メスガキが……年長者に対する言葉遣いがなってねぇな、てめぇの”なまくら”で俺が斬れるかよ!」
永伏は怒鳴り返す言葉とは裏腹に、嬰美に対する挑発が愉しそうですらある。
「永伏さん、そこまでです、ご用向きはよく理解しました。善処します」
今度は生徒会長で学生連のトップでもある御端 來斗が二人の間に割って入った。
「ただ、学園内のことは学園内にいる六神道の僕らに任せて頂きますよ」
六神道の長老達からの使いであるからか、永伏が目上だからか、あくまでも下手に出る來斗だが……
それでも自分たちの縄張りでの介入には拒否を示し、釘を刺すところはしっかりと釘を刺す。
「ち!さっさとしろよ?ガキ共」
上手く躱された。
こう返答されては、使者である永伏はそう答えるしか仕様が無い。
永伏は玩具を取り上げられた子供のように不満顔をした後、不承不承に承諾する。
そしてチラリと視線を正面の來斗からゆっくり右隣にスライドさせ――
「じゃあ、お次は……岩家、おまえだな?」
第09話「裏世界のひとびと」中編 END
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