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「神がかり!」第19話

第19話「天孫」

 「せっかちだなぁ。、ま、いいか?」

 そう言いながら、無遠慮に警戒心の欠片も無い状態で俺の元に近づいて来る男。

 「僕たち六神道ろくしんどうってのはね、信仰する神様から特殊な能力を特殊な儀式から、ある程度扱うことが出来るんだ」

 いつも通り、波紫野はしの けんという男は持って回った言い方をする。

 ――特殊な能力?

 ――ああ、あれもそうか……

 波紫野はしの けんの言葉に俺は先ほどの戦いでの東外とが 真理奈まりなの不可解な、黄金色の残像を纏った動きを思い出していた。

 「人と違う能力、神秘的な能力、人では理解できない能力、そういうモノって昔から尊敬と畏怖の対象、つまり信仰になるよね?」

 「……神には奇跡がつきものってやつか」

 「そう、そう、相変わらずさくちゃんは話が早くていいね」

 ――波紫野はしの けん……

 ほんと、他人ひとを喰った奴だ。

 呆れながらも俺はその情報源に耳を傾ける。

 「六神道ろくしんどうの家々は代々その奇跡とやらで信望を集め、敬われ、時には畏怖されながらこの地を支配してきた」

 「……」

 「その奇跡ってやつがね、不味いことに守居 蛍かのじょのはワケが違うんだよ……ってか、格が違う?」

 「格?」

 「この地域にはね、六神道ろくしんどうの神を奉る六つのお祭りがある。刀剣を司る”不刀主神ふとぬし”を奉るとうじんさいとか、知恵と幻術を司る”宇豆女神うずめ”を奉る神楽かぐら祭とかね。そういった年に一度の儀式から神の御業みわざをやどした特殊な宝具ほうぐ六神道ろくしんどうの家系の者が身につけることで多少の特殊能力を得ることが出来る」

 ――本気マジか?

 ――そんなオカルティックな代物が本当に存在するっていうのか

 「それが”てんそん”か?」

 半信半疑、しかし俺は話の腰を折らずにそのまま確認する。

 「”天孫てんそん”だよ、さくちゃん。ただね、一年かけてそんな大がかりな儀式を行う必要と、宝具ほうぐの携帯という条件、それとその能力、つまり神通力が宿った宝具ほうぐの力は使用回数制限があるってこと」

 ――なるほど、映画やアニメの異能力者と比べれば随分制限がある

 「各々おのおのの信仰神の祭りで年に一度それを補充するのか?」

 俺の問いかけにけんはうんうんと頷いた。

 「”そこまで”して、”それ位”しか出来ないのが現状。それが六神道おれたちの奇跡の正体さ」

 言葉は自虐的ともいえるが、波紫野はしの けんの表情は少しも残念そうで無い。

 「守居かみい てるの、彼女のように自身の身体からだの内から無限に行使できるような、しかも人の傷や病気の治癒とか神話の世界のような神がかり的な能力って……それこそ本物の奇跡だよね?」

 「本物があると困るのか?」

 俺には理解できない。

 別に他人ひと他人ひとだろう。

 「困るんだろうねぇ。俺は自分たちのもつ能力が偽物とは思わないけど、より強力な本物の奇跡があれば、それに劣る奇跡は奇跡じゃなくなると考える者達もいるって事だよ」

 「……」

 俺は黙り込む。

 ――くだらねぇ

 ほんと、くだらねぇな。こんな伝統と誇りプライド骨董品できそこないてるが……

 いや、俺が関わらなきゃならないんだ?

 ――阿呆らしい……

 「さくちゃんさ、彼女が昔、カルト宗教の教祖って言うか、本尊みたいなものだったのって知ってるの?」

 俺が急激に興味を無くしていくのが表情から解ったのか?急遽話題を変えてくる男。

 「……」

 無論、俺は答えない。

 「可愛そうに。十歳程の少女が、ちょっと特殊な能力を授かって生まれたからって両親に利用されカルト教団の象徴に……遠い街の出来事だったし随分と前の事件でもあるからほじくり返されさえしなければ覚えている者は少なかっただろうけど……」

 わざとらしく、大げさに、嘆き節の演技で続ける波紫野はしの けん

 俺に向けた”あからさま”なパフォーマンスだが、それでも俺は終始無言を貫いていた。

 「当時の関係者とか?」

 情に訴えるのが無理だと判断すると一転、直球ど真ん中を投げてくるた男。

 「質問しているのは俺だ」

 そして、やはり俺は駆け引きに乗るつもりは無い。

 「こっちは情報出してるんだから、そっちも協力してくれると嬉しいんだけど……」

 「…………」

 俺は、ならいいとばかりに東外とが 真理奈まりなの首筋に宛てた手に力を入れる。

 「きゃっ!?いや!ゆるして……」

 途端に悲鳴をあげる東外とが 真理奈まりな

 「ああ、冗談!冗談だよさくちゃんっ!」

 「……」

 慌てて取り繕うフリをするけんを俺は睨んだ。

 「いじめっ子だねぇ、さくちゃんは」

 ――どっちがだ

 どこか余裕のある男……

 俺が、折山おりやま 朔太郎さくたろうという人物が、最終的にそうしないと踏んでのやり取りだろう……

 小賢しい。

 「守居かみい てるの”けいせつの会”……あれの勧誘を妨害していたのはやはり学生連か?」

 気を取り直して俺は質問を続ける。

 「違うよ。前にも言ったでしょ、学生連はそんなだるっこしいことしない。そのつもりなら実力で排除できる組織だよ」

 「お前の言うことは鵜呑みに出来ない」

 俺の言葉にけんはやれやれと言ったような表情で情けなく笑った。

 「じゃあさ、一年前に彼女の見せた奇跡の話って知ってるの?さくちゃん」

 「……」

 俺はけんを見据えたまま黙り込む。

 「知ってるんだ?なかなかどうして。彼女のことに関してはリサーチ力凄いね」

 俺がそれを知っているのは”そんなん”じゃ無い……

 ただ、この学校にいるとあいつに関する様々な雑音が勝手に耳に入ってくるだけだ。

 俺はそんな言い訳を頭の中に思い浮かべていたが、結局言葉には出さなかった。

 この波紫野はしの けんという男にとってはどんな事でも冷やかすネタのような気がしたからだ。

 「……」

 そして俺は”どうでもいい、先に進めろ!”と目で促していた。

 「ふぅ。まあ、"あれ"で学生連に目を付けられたのは確かだけど……」

 けんは仕方ないと残念そうに話を続けた。

 「がんちゃんがさくちゃんを襲ったことに関しては多分、彼の個人的な判断だし、その理由や、ほたるちゃんの身辺に起こっている不自然な不幸な事故のたぐいも……まあ、聞く相手が違うね」

 「?」

 ――聞く相手が違う?

 知らないじゃ無くて、聞く相手……

 ――どういうことだ?

 「ともかく……俺はさくちゃんの質問には答えたんだから、彼女、解放してあげてほしいなぁ」

 「……」

 少し考え込んでいた俺は、飄々とした波紫野はしの けんを一瞥した後で地面を見つめたまま固まっていた真理奈まりなの白い首を手放した。

 「っ!……はぁ」

 緊張が緩み、肺の奥から大きく息を吐き出す少女。

 その直後、俺は背を向けて屋上の出入り口に向かっていた。

 ――
 ―

 ――おっと?そうだ

 そして俺は二つばかり聞き忘れた事を思い出し、数歩ばかり歩いたところで立ち止まって振り返る。

 「なんだい?さくちゃん」

 「……」

 相変わらず緊張感無く佇む男と、軟体動物の様にへたり込んだままの少女。

 「”今回の件”の首謀者は誰だ?」

 「……」

 俺とけんを順番に、不安な瞳で見る東外とが 真理奈まりな

 目が合った波紫野はしの けんは彼女に頷いてみせる。

 「が、学園OBの……永伏ながふし 剛士たけし……です」

 戸惑いがちな少女の言葉を確認した俺は右手を高く掲げて彼女にそれを示す。

 「わ、私のスマホ!?いつの間に!」

 「解除番号パスワード……なんだ?」

 「うっ…………RN01AM20IA……です」

 中々素直な反応を示す、未だコンクリート上でへたり込んだままの少女。

 脅しがかなり効いたみたいで何よりだ。

 「借りてくぞ」

 俺はそう言い残して今度こそ屋上そこを去ったのだった。

第19話「天孫」END

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