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第二十三話:愛を感じるための「自分」のイメージ

今回書くことは、特に「こんな自分ではダメだ!」と、そんなふうに「自分」の価値を認められない人に読んでほしい。

「自分」とはいったい何者なのか。
「自分」が「自分」のことをどう捉えているのか…。
それが、物事に対する自分の感じ方を決定し、その後の行動を決めてしまう。

宗像は、ヘルスカウンセリング学会年報第12号(2006)pp9-18で、イメージスクリプトについて解説している。

感覚・感情そして行動が「自分」を形作る

人は、記憶にないものは知覚すらできない。あなたの周りの環境にあるものがすべて記憶にないなら、重症な認知症のように、そこにいるだけで混乱するばかりである。
人は、すべて過去の記憶にもとづいて物事を知覚し、解釈し、予期している。たとえば、私たちは、「地球は自転している」という知識と、地平線に太陽が隠れる姿を見た経験からなる記憶を持っているから、地球がゆっくり自転しているかのようなイメージを描くことができる。
シャンクとエイベルソンは、対象を認知するための記憶としての知識や経験を「スクリプト」と呼んだ。

「地球は自転している」という「知識」に、
夕暮れの海で、太陽がだんだんと地平線に沈んでいく景色を観るという「経験」が加わる。
このことによって、人は地球が自転していると思い込み、「地球は自転している」と記憶するのだ。
実際には、自転している地球を、自分の目で見たことがないのに…。

宇宙からの映像で確かに見たという人がいるかもしれないが、それは真実の映像ではないかもしれない。
それでも、人は、それを疑うことなく、先の自分の知識と経験によって、「地球は自転している」と思い込むのだ。この一連の流れ、枠組みをスクリプトと称している。

(シャンクとエイベルソンの)2人は、スクリプトを知識と経験にもとづいて、「因果的、時間的に順序づけている一連の目標指向行為についての一般的な知識構造」と定義している。
たとえば、レストランに入ったら、通常、人は、「メニューを見る→注文する→料理が来る→食べる→お金を支払う」といった一連の動きを予想・期待する。その期待(予想)される一連の動きの枠組みをスクリプト(脚本)と定義したのである。
私たちは、常にこのスクリプトの影響下で物事を理解せざるをえず、今という現実を見ているようで、実は自分の過去を見ていたり、あるいは他者の持つスクリプトを用いて知覚している。

いつものように難しい表現が並んだが、ここまで理解できるだろうか。

例示された「外食時のスクリプト」。この一連の動作は、一度経験したら、当たり前のこととして記憶され、次に外食するときに困ることがなくなる。困らないのは、過去にこうだったからという経験、あるいは誰かからこういうときはこうなる、だからこうしたらいいという経験知を記憶しているから、ということなのだ。

言葉の裏を探ろうとするカウンセラーの事例。

たとえば、あるカウンセラーの女性は、クライエントの言葉をそのまま受け止めることができないという悩みを抱えていた。
子どもの頃に、母親から「人の言葉には裏がある」と聞かされて育った経験がスクリプトになり、カウンセラーとしてクライエントに対するときでさえ、言葉の裏を探ろうとする行動を止められなかった。

これこそ思い込みなのだが、母親のそのような記憶の擦り込みゆえに、人の言葉を素直に聴けなくなってしまった例だ。

さらに宗像は、

一般の心理学で用いられるスクリプト(script)が主に言語的な「視聴覚物語」であるのに対し、
筆者は視聴覚だけでなく、嗅覚や味覚、体性感覚、バランス感覚などまで含む、すべての感覚野から入力された「感覚情報」と、悲しい、楽しい、怖いなどの扁桃体で記憶され、価値評価を生みだす「感情情報」や、その二つから出力される「行動情報」の物語からなるイメージスクリプト(image-script)概念を用いている。

たとえば、子どものころに家族で食卓を囲み、おいしいものを一緒に味わった舌の感覚情報は、脳に送られ、安心という感情情報となって記憶される。メンタルヘルスが極度に低下しているある女性は、この家族団らんの記憶が欠落していた。家族とともに食した、おいしかった、楽しかったという過去の感覚や感情や行動の記憶情報は、私たちの研究によれば自己価値観(self-esteem)の高さと強く相関し、一般に考えられている以上にメンタルヘルスに大きな影響を及ぼす。
イメージスクリプトは、主としてこのような感覚情報や感情情報を含めたエピソード記憶の集積によって構成されており、その結果として「特定の刺激に対する感情や心の声や感覚からなる一般化された行動出力や身体出力のパターン」をつくりだす。

と、五感からの感覚情報と、その感覚から想起される体感によって、人は行動を決めると説いている。
つまり、こういう感覚の時、こんな気持ちや感情になる。マイナス感情を感じると身体のここがこんなふうに不快になるからこんな行動をとるというように、イメージスクリプトとしてつながっているとする。

たとえば、恐怖感が強く、強迫性障害やパニック障害などがあるために、引きこもり行動をとる子どもの過去を、「イメージスクリプト」を手がかりに検討していくと、多くの場合、どうしよう、助けて、怖いよ、アーアーなどという心の声を伴う、恐怖感や孤独感の感情をもち、またスキンシップ不足という皮膚感覚記憶などがスクリプトの構成要素となっていることがわかる。
しかも、大抵は、その母親も、さらにその親も、同じスキンシップ不足のイメージスクリプトを持っている。こうした世代を超えて伝達された問題の因果関係は、特定の刺激に対する感覚や感情や行動出力の物語である「イメージスクリプト」でなければ解き明かすことは難しい。

よくないと思いながらも改められない行動がある場合、このイメージスクリプトを紐解いていくことで、その原因がわかり、行動を変えることが可能になるのだ。

「自分」に対する間違った認識が感情や行動を歪める

人は誰でも、過去の記憶からつくられた自分についてのイメージスクリプトを持っており、それに添う自分の刺激や感情や行動を決めているところがある。

ここがとても大事な話。
自分の行動は、自分をどう認識しているのか、それを意味づけている過去の記憶、その集積であるイメージスクリプトによって決定づけられているということを知っておくといいだろう。
自分が、どういう外界刺激で、どんな気持ちや感情を持つのか、それを感じることによって身体のどこがどう感じるのかをよく知ることで、自分の行動を変えられるようになるから。

ある女性は、子どものころに父親に冷たくされたときのエピソード記憶が彼女のイメージスクリプトをつくりだしていた。すなわち、ある女性には「いつも孤独で、見捨てられる緊張の強い自己」というイメージスクリプトがある。
その父のカウンセリングでわかってきたことは、そのころ浮気をしていたので後ろめたい気持ちがあり、娘の顔をまっすぐに見ることができなかったようなのだ。しかし、幼い子どもにそんな事情がわかるはずもない。

これこそ、幼い頃の勝手な自分の思い込みが創り上げた自己イメージスクリプトと言えるだろう。
父親は浮気の後ろめたさから子供の顔をまともに見られなかっただけなのに、不幸なことに子供の方はそれを「父親に冷たくされた」と取り、寂しさを感じ、見捨てられる恐れを抱いてしまったのだ。
その結果、そのある女性の行動は、自分が見捨てられないために、いつも父親の顔色をうかがい、おどおど、びくびく、さらには、その父親と似た他の人に対しても、同じように相対するようになってしまっているかもしれない。

そして厄介なことに、

自己イメージスクリプトは一度でき上がると、容易に書き直しがきかず、自己に関わる感覚・感情・欲求・行動に影響を与え続ける。

という。

でも、心配することはない。
この宗像の記述は、冒頭に書いたように2006年のもの。
これこそ宗像の愛なのだが、ヘルスカウンセリングは毎年発展を続けており、いまでは、たとえば第四話第五話で書いたように、自分の味方の力を借りて、イメージの書き直しをすることができるようになっている。

そしてまた、今月12日、今年2回目のヘルスカウンセリング講師会研修が予定されている。
そこでは、以下のような内容を学ぶ。

・あるがままの自己実現を阻害する母系、父系の世代間伝達する感情や身体感覚や光景イメージをコントロールし、健康不調を解決する問題行動変容を支援する
・記憶にない母親や父親から無条件に愛される記憶イメージを持つことによって健康不調を解決する問題行動変容を支援する

お母さんやその祖先、お父さんやその祖先、自分の遺伝子に刻まれ、世代間を伝達された、外界刺激などに対する感じ方やそれによる行動のクセ。そこに、もし、いまの自分にとって不都合なことがある場合、その祖先が、どんな場面でその感情を抱き、記憶したのか、そのシーン(光景)を思い出し、いいイメージに書き換える。すると、いままで、そのイメージスクリプトとして採ってきた行動を変えることができるという方法だ。
さらに宗像は、その世代間伝達された感情や身体感覚、光景イメージをコントロールすることで、健康不調まで解決しようと働きかける。

否定的な自己認識が病気をつくる

先の、ある女性の話。

この女性のような否定的な自己イメージスクリプトは、環境刺激を改善し、ストレスを軽減することはない行動出力(行動症状)や身体出力(身体症状)をつくる悪性ストレスを絶えず生み出し、それが病気をつくりだし、それがまた否定的な自己イメージスクリプトをつくりだすイルネスサイクルの悪循環をつくり出す。
これを良性ストレスの生み出すウエルネスサイクルの良循環へとシフトしていくためには、自己イメージスクリプトを肯定的なものに変えていく必要がある。

「見捨てられの恐怖」は、胸を締め付け、呼吸を浅くしてしまうかもしれない。自分を気にかけてくれない父親には頼ることもできず、その結果感じる孤独感によって、身体が縮こまり、四六時中どこかに力が入っているかもしれない。そんな心身はいつしか悲鳴を上げ、病に発展してもおかしくない。
父親は見捨ててなんかいない、そこに気づくことができれば、病気への負の連鎖を断ち切ることができるのだ。

宗像は、こんな言い回しも使っている。

自己についての嫌悪系記憶をつくりだす否定的な自己イメージスクリプトによる生活環境認知が酸化ストレスを生み、生活習慣病につながる

否定的な自己イメージスクリプトによる生活環境認知が酸化ストレスを生む、それが生活習慣病の元なのだと。
しかし、現代医療において、生活習慣病への対抗策は対症療法しかない。だから、それが発症しないように生活習慣を変えて予防しようと呼びかけられる。とはいえ、人々の生活は家庭や仕事と密接に関係しており、よくないとわかっていても、その行動を簡単に変えられるものではないかもしれない。
だが、たとえ、父母から無条件に愛された記憶がなかったとしても、それを創ることができ、健康不調を解消できるのがSATイメージ療法なのだ。
来週、いま一度、進化したSAT療法を学んでみたいと私は思う。

* 祖先のことについてもっと詳しく知りたい方は、以下も参照されたい。


二十二話を書いてから、5カ月も経ってしまった。
書き始めが2019年の4月4日なので、ちょうど1年と8カ月。すでに書いてきたことの記憶も乏しくなってきたが、最初、このマガジンに載せたいと思っていたことは、ほぼ書いたように思うので、あと2、3話で一旦結びにしたいと、いま考えている。


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