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理科教育におけるモデルとモデリング

はじめに

この記事は,2020年10月31日に行われた「Science Education Book Club in Japan」で議論した内容をまとめたものです。
今回,私が担当したのは「Science Education: An International Course Companion」の「Models and Modelling in Science Education」です。
さらに,この記事は 理科教育 Advent Calendar 2020 の23日目の記事も兼ねています。
以下は,本章の簡単な紹介と読んだ感想です。

本章の概要

本章は次のような項目で構成されていました。

・モデルとは何か
 ーメタファー,類似,アナロジー
・科学的モデルについての教授
 ー生徒の科学的モデルの理解
・科学におけるモデリングの役割を生徒に教える
 ーカリキュラムモデルとティーチングモデル
 ー生徒自身がモデルを作る
・結論

第一に,モデルとは何かについて説明がありました。
具体例としてガイア理論におけるデイジーワールド,シミュレーション,思考実験,磁力線,光の「線」,メンタルモデルなどを取り上げていました。そして,このような科学で使用されるモデルは,主に思考ツールとして使用されていることが多いと著者は指摘しています。
このようなモデルを理解するうえで,著者は「『何がモデルか,何がモデルでないか』よりも,『それがどのように理解され,どのように使用されるか』が重要である」と述べています。つまり,単体で語られるものではなく,使用される文脈によって変わってくるということです。

第二に,科学的モデルについての教授について説明がありました。
著者は,科学的モデルを教えることは科学の本質(Nature of Science)を教えることと述べています(科学の本質については,下記の記事が参考になります)。

つまり,科学者の営みは,現象の説明や予測をする理論(モデル)を構築・修正・発展させることであると捉え,そのような活動を子どもたちも経験することを通して,科学とは何かを理解することができると著者は考えています。

第三に,生徒の科学的モデルの理解についての説明がありました。
生徒はモデルを『スケールを変更した模型』だと思っていると著者は指摘します。そして,原子軌道と太陽系のモデルを例に,教師があるモデルを提示しても,学習者がそのモデルを適切に理解していないと,学習者にとってモデルはうまく機能しないと述べています。

第四に,科学におけるモデリングの役割を生徒に教えることについての説明がありました。著者は,モデルを以下の二種類に分けて説明していました。

カリキュラムモデル
いわゆる科学の知識に相当するモデル。

ティーチングモデル
教育者が科学を教えるために作ったモデル。たとえば肺の構造を説明するペットボトルとゴム膜で作った「肺モデル」など。

このようなモデルの分類を理解したうえで,モデルの限界を説明しながら教えることが大切であると述べています。さらに,自然現象を説明することを目的に,生徒自身がモデルを作っていく学習活動が重要であると述べていました。

最後に,本章の結論として,次のように述べられていました。一部省略しています。

a. モデルとモデリングは科学の中心である。
b. 真正な科学教育は,モデルとモデリングに重点を置くべきである。
c. 科学を教えることは教育学的なモデルに大きく依存する傾向があり,その中には現在の科学的モデルや,歴史的な科学的モデルを反映したものもあるが,それらはすべてではない。
d. ティーチングモデルは,モデルの性質と可能性を探究する機会を提供する。教師は,教えるモデルが「科学的な価値を持つとき」と「単に教育的な道具として使用されるとき」とで明確に使い分けなければならない。

関連論文

理科教育におけるモデル・モデリングに関する文献は膨大です。Springerから下記のシリーズ本が出ていますので,これを読んでいけば大体の研究の動向を知ることができます。

Models and Modeling in Science Education

国内の理科教育におけるモデル・モデリング研究は下火なのですが,たとえば,今回の話題と関連した内容ですと,以下の文献があります。

■子供の実態
長瀬諒麻・古屋光一(2016)「中学生は科学モデルをどのように理解しているか?―日本語版SUMSの開発を通して―」『科学教育研究』40(4), 314–324.

■モデリングの実践(教師対象ですが・・・)
小川治雄・生尾光・藤井浩樹(2014)「化学現象のモデル化を取り入れた教員研修プログラムの開発」『 日本教科教育学会誌』 37(1), 75–83.

■国内の論文レビュー(露骨な宣伝)
雲財寛(2016)「理科教育におけるモデリング研究の動向と課題 : 日本の研究動向を中心として」『広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部 文化教育開発関連領域』65, 19–27.

感想

この章を読んで一番重要だと思ったのは,「『何がモデルか,何がモデルでないか』よりも,『それがどのように理解され,どのように使用されるか』が重要」という部分です。モデルの話は,ついつい「あれはモデルですか? これはモデルですか?」ということに終始しがちなのですが,モデルは写像する「対象」があって初めて成立する概念なので,単体で論じることは不可能だということです。その意味で,説明・予測する対象(ターゲット)とその表現物(ベース)の関係を理解すること,そして使用される文脈を考える重要性を改めて感じました。

さいごに

前述したように,国外では理科教育のモデル・モデリング研究は盛んなのですが,国内ではまだまだ下火で,明らかになっていないことがたくさんあります。興味をもった方はぜひご連絡ください。共同研究しましょう。

謝辞

Science Education Book Club in Japanで議論に参加していただいた皆様,ありがとうございました。

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