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一人百首:人生の春夏秋冬

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生活の中で折に触れて詠んできた短歌です。
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記事一覧

あからみて駆け戻りける幼子はアポロの像に手だに触れずて

ポンペイの神殿に立つアポロの像は、ベスビオ火山の噴火で埋もれる前には、黄金の弓矢を携えて…

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障害の子ほど心に優しさの遺伝子持ちて生まれ来るらむ

東京に居を定めて、毎朝最寄りの駅まで10分ほどの距離を歩くことになった。ビジネスマンなら誰…

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われにとり花見とはただ一隅の桜に寄りて愛でることなり

今年も桜の季節になった。一気に花を咲かせ、ほんの一旬ほどの後には、花吹雪となって散ってし…

秋の花にぎわう中の銀木犀かのひとのごと目立たなけれど

秋には、色とりどり数多くの花が咲き乱れる。 菊、薔薇、サルビア、コスモス、ダリア、金木犀…

鼻たかき目立ちたがりの子のごとしアベノミクスの救いの無さよ

安倍晋三は僕と同い年の昭和29(1954)年生まれだ。いや、もう故人となってしまったので、「だ…

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ひと時代終わり見とどけ濡れて立つ国会議事堂バスティーユのごと

2015(平成27)年9月17日、僕は国会議事堂前にいた。東京は朝から雨だった。デモに参加するの…

さしのべる神とアダムの指の間は無窮の悲しみ今し触るがに

ローマに着いて、まず向かったのはバチカン宮殿にあるシスティーナ礼拝堂。お目当ては、ミケランジェロが天井に描がいた「天地創造」だ。その中でも白眉と言えるのが『アダムの創造』だろう。 神が自分の姿に似せて土から作ったアダムに、生命を吹き込もうとしている瞬間を描いていると言われる。 僕は、天井を見上げながら、その指と指の間から目をそらすことができなかった。ミケランジェロによって創り出された1センチばかりの距離こそ、すべてを語っているのではないだろうか。 神に似せて作られたが、

夕暮れの小雪の中で人々はいのりも絶えてひざまずくのみ

今年も3月11日がめぐってくる。あれから、もう12年が経つ。われわれ人類は、文明を謳歌し、地…

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息を呑む光幾万みなぎりて眼下に眺むシカゴの街は

ニューヨークからシカゴに向かう便に乗りウトウトしていると、着陸が近いと言う機内放送。飛行…

咲きそめし桃の香りのただよへる庭も静けし日だまりの朝

水戸のわが家の庭には、一本の幹に赤と白の花をつける「源平」という桃があった。わが家は少し…

和太鼓を聴き終えし後のカタルシス全てを肯定したくなる夜

水戸出身の池辺晋一郎が水戸芸術館のためにプロデュースした『現代音楽を楽しもう』という企画…

路傍より呼び止められし思いして振り向けばただ沈丁の花

長かった冬が去り、桃が咲き、梅が咲き、しかし桜の開花にはまだ少し間がある。そんな暖かい日…

吾子を抱き小高き丘より見渡せりドゥオモ聳ゆる花の名の町

北イタリアのヴェローナからドライブしてトスカーナに入ると、景色は明るく、色彩は柔らかく変…