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路傍より呼び止められし思いして振り向けばただ沈丁の花
長かった冬が去り、桃が咲き、梅が咲き、しかし桜の開花にはまだ少し間がある。そんな暖かい日ざしの中、バス通りに向かって歩いていると、不意に懐かしい感覚にとらわれた。瞬間、それがどうしてなのか、分かりかねる不思議な状態。
古い友人だろうか、昔の恋人だろうか。来た道を振り返っても、もちろん誰もいない。そして気づくのだった。道端の垣根に咲き始めた沈丁花の香りが僕を呼び止めたのだと。
1992(平成4)年 水戸
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