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障害の子ほど心に優しさの遺伝子持ちて生まれ来るらむ

東京に居を定めて、毎朝最寄りの駅まで10分ほどの距離を歩くことになった。ビジネスマンなら誰しも似たり寄ったりだと思うが、昨日を振り返ったり、その日の仕事の段取りを考えながら、歩くことになる。まわりの景色と言っても殺風景なものだが、それでも季節の移ろいにつれて、路傍に花が咲いていたり、木々の彩りが変化したりする。しかし、それらに目を向けたことがどれほどあっただろうか。ましてや、感動など。
その駅までの通勤路で、毎日のようにすれ違う子供がいた。その子は、ダウン症らしく、ほとんどの時はひとりだったが、時には父や母と思しき人と一緒のこともあった。一心不乱に道を急いでいるように見えるときもあれば、しゃがみ込んで道端の花を見ているときもあった。そして気づいたのだが、付き添いの親と一緒の時には、明らかに表情が違うのだ。親はもちろん障害をもつ子を気づかうのだが、子供の表情からは親に対する全幅の信頼感、いや無限の「優しさ」が溢れ出ているのだった。
思わず目の奥が熱くなり、乾ききった心に朝から潤いをもらった気持ちになり、駅への道を急ぐのだった。

2002(平成14)年

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