見出し画像

歴史的文化財VRアーカイブ化計画(福山市)【スタートアップ共同調達事業】

福山市といえば「ばらのまち」で有名だが、実は「歴史のまち」でもある。お色直しが済んだ福山城、潮待ちの港だった鞆……など。貴重な文化財を記録として残しながら、その魅力をもっと知ってもらえないか? そこにVRを活用するという案はどうだろう?


文化財修理の際の情報を
立体的・多面的に記録


今回の福山市の採択案は「空間データ活用プラットフォーム『スペースリー』を活用した文化財のVRアーカイブ化による修理記録及びプロモーション活用」。「福山と文化財」と聞くと一瞬「ん?」と思うが、少し考えると「確かにそうか」と納得する。

この採択案に関して市の経済環境局文化観光振興部文化振興課主事の野村友規(のむら・ゆうき)さんと亀竹洋介(かめたけ・ようすけ)さんに話を聞いた。 

実は福山には文化財が多く、代表的なところでは福山城がありますよね。潮待ちの港・鞆があるように、昔から港町として人と物と情報が集まってきてたんです。市の北部の神辺、新市、駅家には古代から山陽道が通ってましたし、松永のある西部地域にも多くの古墳などの遺跡があります。福山には先史時代から明治・昭和に至るまでの幅広い時代の文化財が残ってるんです

野村さん

福山市にある指定文化財・登録文化財は約360件。県内では多い方らしい。

福山の文化財マップ。市内全域に渡ってこんなにあるとは!

そうした文化財って50~100年のサイクルで修理が行われるんですけど、その中で得られる情報ってすごく貴重なんです。たとえば建物の修理だと、建物を解体した際に部材の痕跡や年代が書いてある墨書が見つかったり、当時の伝統的な建築技術が判明したりしますから

これまでそうした情報は写真で残してたんですけど、立体的・多面的に記録することで、多くの人に関心を持ってもらえないかと思ったんです。文化財の情報発信と後世の修理に役立てるため今回応募することにしました

野村さん

貴重な文化財の修理記録をアナログからデジタルに変えることで保存できる情報量も増えるし、それを情報発信にも使えるのではないか?――そこがこのプロジェクトの起点だった。

360度VRで情報量も臨場感も
アクセスも圧倒的に向上する

 
福山市の要望に応えたのは「株式会社スペースリー」。360度VRコンテンツを手軽に制作できるクラウドソフト「スペースリー」の運用を行っていて、今回のThe Meetでは広島市の協業相手にも選ばれている。ちなみにそちらは同じくVRを使って防火管理講習をリモート化するという試みだ。さらに昨年度の「ひろしまサンドボックス」実装支援事業にも採択された経験がある。

スペースリーさんを選んだのは、まず文化財の記録を2Dではなく360度に近い3Dで残せるからです。写真だと文化財の一部しか残せないけど、VRを使えば360度建物全体がわかるので圧倒的に情報量が増加します

あと、デジタルになることで情報発信もやりやすくなります。たとえば修理工程を撮影して市のホームページに掲載すれば、普段は現地でしか見る機会のないものが気軽に見られて興味を惹く。もちろん最終的には現地に来て見ていただきたいですが、デジタル化することで文化財に対する間口が大きく広がると思いました

野村さん
普段は見ることができない修理中の様子が見られるのも魅力

これまで写真で行ってきた記録をVRにすることで、情報量も臨場感もアクセスも飛躍的に向上する。しかし福山市がスペースリーと手を組んだのは、それ以外の想いもあったようだ。

あとスペースリーさんのVR技術は文化財以外への活用も可能だと思ったんです。たとえば空き家バンクの空き家の内覧に使えたり、子育て施設の紹介に使えたり。今後文化財以外の行政にも活用の幅が広がることを期待してお願いしたところはあります

つまり文化財情報の保全も含めたVR技術の習得、それが今回の目的である。

神辺の「廉塾」を一例に
職員もVR撮影を学習中

 
では実証実験の様子はどうだろう? 

今年度はひとまずターゲットを決めて事例を作ろうということで、神辺にある「廉塾」をVRで撮影することにしました。廉塾は江戸時代の私塾で、後に福山藩の教育施設になった建物。国の特別史跡に指定されていて、2020年度から13ヶ年計画で保存整備事業を行ってます。その修理の様子をVRに収めると同時に、職員もVR機器の使い方を学んでます

野村さん
神辺にある「廉塾ならびに菅茶山旧宅」。往時の姿を色濃く残す
修理中の様子をVRで撮影。足場のかかっている状態も貴重

VR制作は順調に進行中。また撮影した画像の発信についても、「修理前・修理後を切り替えられるようにしてビフォー・アフターが見られるというのはどうだろう?」「周辺の文化財もVR化して、VR内で地域を周遊できるスタンプラリーをやるのはどうか?」などさまざまなアイデアが出ているという。今後は文化財のデータベース化や情報発信のためのポータルサイト開設まで視野に入れて進めていく。

クリックひとつで、その場のビフォー・アフターが切り替えられる機能
VR画面中にチェックポイントなどを設置することも可能

 一方、VR技術の習得の方はどうだろう?

今は市で360度カメラを購入して、スペースリーさんの指導を受けながら勉強している最中です。撮影や編集が容易に行えるのがこのソフトの特徴なので、初めてVRに触れる私たちでも操作しやすい印象です。もちろん細かい部分はまだまだですが、ひとまず自分たちができるレベルまでは自分たちでやってみようと思ってます

亀竹さん
撮影も自分たちでやることでVR技術の習得を目指す

360度カメラを購入し、実地でVRレッスンを遂行中。こうした経験を経てVR制作が内製化されたら、これは福山市にとって大きな武器になるのではないだろうか。

すぐに事業化は難しくても
今後の検討材料にはできる


最後にThe Meetに対する感想を2人に聞いてみた。

今回は文化財情報の保存・活用というテーマでいろんな業者さんから提案をいただきましたが、われわれ職員がイチから業者さんを探そうと思ったらものすごく手間と時間がかかったと思うんです。そういう意味では先方から手を挙げてもらえて助かりました

また、今回採択したのはスペースリーさんだけですけど、他の業者さんと接点を持つことができたのもよかったです。すぐに事業化は難しくても今後の検討材料にはできるので、情報収集という意味でもメリットの多い事業だったと思います

野村さん
潮待ちの港として賑わった鞆。古来からの営みを未来に伝えていく

協業相手を選考する際のやりとりは私が担当してたんですけど、全体のスケジュールがもう少し早めにわかっていればと思うことがありました。先方のスケジュールを確保したり、選考に向けての資料を作ったり、全体の流れがもっと早く見えてると計画も立てやすいので、次はそこを意識してもらえると助かります

亀竹さん

野村さんも亀竹さんも事務職なので今後今の文化振興課から異動になることももちろんある。そうなれば今回習得したVR技術や、ここで接点を持ったスタートアップが他の事業に活かされていくことは想像に難くない。

まるで新しい花の種が落ちるように、福山市にThe Meetの波紋が広がっていく。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

冒頭で「福山と文化財」という組み合わせに一瞬「ん?」と思うと書きましたが、実際みなさん福山にどれくらい歴史感を感じているんでしょう? 尾道や三原の方が歴史っぽいイメージがありますが、確かに文化財マップを見るといろいろあるんです。特に古墳などの遺跡がこんなにあるなんて知りませんでしたよ。

それがVR上で辿れたりすると面白いですよね。ゴーグルつけてタイムトラベル備後ツアー。新市とか駅家、あと府中なんて歴史感ある地名だし、今とは異なる故郷の風景に出会えそうです。(文・清水浩司)

 

・共同事業者:株式会社スペースリー
・活用ソリューション:360度VRコンテンツを手軽に制作できるクラウドソフト「スペースリー」
・概要:文化財をVRで保存することで情報量の向上と魅力の発信につなげる
・必要経費:100万円(※VRシステム使用費など)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?