【30EGGS】“医療機器の100ドルショップ”で日本の未来を拓く(広島大学)

今回は30の卵のうち、「広島大学」をご紹介します。

広島大学では、医療機器開発のためのデザイン思考を用いる「バイオデザイン」を通じて、人材育成やプロダクト開発などを進めています。

そんな広島大学が、D-EGGSの最終30案に採択され、広島県を舞台に実証実験を行います。

起案内容

Interview

産学連携推進部バイオデザイン部門 部門長の木阪智彦さんにお話を伺いました。

D-EGGSではどのような実証実験を行いますか。
当初、呼吸が苦しい方のために人工呼吸器を作る予定でしたが、より幅広く医療機器を3Dプリンターで製作することを実証していくことになりました。
主に3つの医療機器に注目しています。
腎臓が悪い方のために行う透析に役立つデバイス、そして点滴を助けるデバイス、3Dプリントできる義足です。
医療機器の製造販売の承認を得ているものづくり企業や、今後認証を受けることを目指すスタートアップ企業、さらにはインドなどの新興国市場を目指す企業と一緒に活動していくことにしています。

医療機器の開発には平均5~8年かかると言われていますので、現在開発中の機器も2025年をめどに開発していきます。
金型から作る医療機器と比べて、3Dプリントの場合どれほど早く試作できるかを今回検証します。その結果を医療機器製造のベンチャー企業などに役立ててもらい、開発期間が1年でも2年でも短くなればと思っています。

広島大学では2019年から人工呼吸器開発の分担研究をしてきましたが、医療機器として認証される前にコロナが発生。より意義の深い開発になるだろうということで動物実験の段階までたどり着きました。
医療機器の開発にはたくさんの段階がありますが、動物実験までは広島大学で、そのあと人での臨床試験は他の場所で行うことになりました。
それまでに蓄積した経験から、3Dプリンターを医療機器の開発に応用するというコンセプトを活かして、災害やコロナ禍のような予想だにしなかった事態により物流が止まってしまっても、生命を諦めずにすむ社会を実現したいと、思いを新たにしました。

コロナ禍で医療現場は過酷を極めていますね。
私たちは、医療現場の困りごとを「医療現場の痛み」と呼んでいます。
コロナ禍においては、これまで確立されてきた医療で患者さんを助けることができない、必要な医療機器が届かない・ベッドの数だけの環境を整えられないために、必要な医療を提供できないことで患者さんを助けられないということが、医療現場の痛み。
またそれ以上に患者さんも苦しい思いをしていて、患者さんの家族も痛みを感じておられます。この「医療現場の痛み」をニーズとしてとらえ、それを解決すべく開発を続けています。

バイオデザイン自体がとても新しい領域で、アメリカのスタンフォード大学で10数年ほど前に研究が始まった分野です。デザイン思考を用いた医療機器開発のプログラムで、広島大学では2018年ころから大学院でも県との共同研究講座を開講したり、県内外企業とともに開発した機器の特許を出願したりしています。

図1

今回の実証事業で、どのような未来が拓けるのでしょうか。
例えば液体用のポンプと医療用のポンプを比較すると、2桁ほど価格が変わるんです。安全性の担保や、動物実験や臨床試験など開発費用もかかりますので。
できればこの価格を、これまでの半分から10分の1にしたい。これができるようになれば、“医療機器の100ドルショップ”が実現でき、医療費の高騰も抑えることができます。
なにより、自動車をはじめとする広島のものづくり技術を、この先、自動車産業に携わっていた製造事業者が医療機器に参入したら、ねじ工場が医療機器工場になるかもしれません。
バイオデザインが始まった10数年前から、カリフォルニアのシリコンバレーを中心に、医療機器を開発するベンチャーがたくさんできています。ベンチャー企業が短期間で成果を出し、結果によっては大企業が買い上げたり、そのままスタートアップとして成長を続けたりしていきます。アジアの中ではインドが先端をいっていますね。
日本でも同じように、スタートアップやベンチャーが開発を担って大企業が買い上げる方法が取られつつありますが、アメリカやインドと同じやり方が日本の社会構造に合うかどうかもまだまだ未知数です。
しかしものづくりのDNAを持つ日本企業はたくさんあります。新しい分野を取り入れて、スタートアップや大学、大学発ベンチャーと組んで医療機器を開発・生産していただくことで、医療機器をテーマに、企業の成長や日本経済の未来を見通せる開発も目指しています。

日本では、医療や介護は痛みにあふれてしんどい、嫌な場所のように思われている。先進国の中でそのような状況ということは、それだけニーズがあるということです。
それを日本の持つ技術や新しいテクノロジーを使って解決することができれば、10年後のアジア、15年後の欧米にも役立つ未来が拓けると考えています。

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