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AIと地元住民、両面からの観光発信(竹原市)【スタートアップ共同調達事業】

広島の観光業界が抱える最大の問題が「いかに通過型の観光地から脱却を図るか?」だ。旅行客に宿泊してもらうことで地域に落ちる金額は大きく変わる。その課題は竹原市も同じ。点在する観光資源をどのようにまとめ、どのように打ち出すか? 「安芸の小京都」のトライアルを報告する。


いかに観光客に
市内を周遊してもらうか?

 
インバウンドも盛況な広島にとって、「観光」というファクターが今後ますます重要なものになることは誰の目にも明らかだろう。竹原市の今回の採択案は「地域雇用を通じた地元ならではの観光コンテンツ作成と個人の嗜好に応じたAI旅行提案サイト『AVA Travel』による地域の魅力発信」。まさに広島観光のポテンシャルをさらに増幅させようとする試みだ。

市の産業振興課商工観光振興係主任の森田裕之(もりた・ひろゆき)さんが取材に答えてくれた。

竹原市には多くの観光資源があります。江戸時代の建物が今も残り、当時の面影を感じることのできる「町並み保存地区」。かつては毒ガス兵器が製造され、地図から消された島と呼ばれていたけど、今はうさぎの島として国内外から観光客が訪れる「大久野島」。他にもアニメ『たまゆら』やNHK連続テレビ小説『マッサン』の舞台にもなりました

ただ、竹原に来られる方はどれか1つ特定の観光地を訪れる方が多くて、市内全体を周遊される方が少ないんです

うさぎの島として外国人観光客に人気の大久野島も竹原市

通過型の観光地と捉えられてしまい宿泊が少ない、という悩みは広島が抱える観光課題と重なるものだ。京阪神や福岡にホテルをとり、日帰りで原爆ドームや宮島を見て帰ってしまうケース同様、竹原も「点」としての観光需要はあるものの、それがなかなか「面」に結びつかない。そもそも江戸時代の面影が残る町並み保存地区、戦争遺構&インスタ映えの大久野島、アニメの聖地……と各スポットに興味を持つ客層もばらけている。

竹原の主な観光地である町並み保存地区と大久野島は距離が離れていることもあり、両方見てくださる方が少なくて。「何か竹原市として回遊性を高められる仕掛けがあれば……」とはずっと思っていたんです

観光地が各地にちらばり、なかなか市内周遊の気運が高まらない

町並み保存地区がある竹原駅と大久野島に行くフェリーが出ている忠海駅の間もJRで3駅と、結構な距離がある。しかもまちの左右には尾道、呉という瀬戸内エリアでは人気の観光強者がひしめていている。では間に挟まれた竹原市はどう戦うのか? それは常に彼らの課題だったのだ。

AIによる提案に加え
地元からの情報発信も

 
そんな竹原市が協業相手に選んだのは、2018年創業のスタートアップ「AVA Intelligence株式会社」。この会社のウリは、アバウトな条件を入れただけでAIが旅行先を提案してくれる「AVA Travel」というシステムだ。

今回は複数の会社から提案を受けたんですけど、AVAさんの案は本市の魅力を外部に発信するのはもちろん、お客さんをしっかり竹原に呼び込めると感じたんです。AVA Travelではたとえば「温泉に行きたい」「海沿いがいい」といった条件を入れただけで、AIがプッシュ型で「竹原市にこういう施設があるけどどうですか?」と推薦してくれる。現状竹原市を知らない人に竹原市のことを知っていただけるのはチャンスだと感じました

実はAVA Travelは2021年「ひろしまサンドボックス D-EGGSプロジェクト」にも選ばれ、広島県内で実証実験を行っている。

「AI旅行提案サイト」は昨今の時流に乗った、出るべくして出てきたサービスだと言えるだろう。しかし今回のAVA Intelligenceの提案はそれだけではない。

もう1つAVAさんが提案してくださったのは、竹原の情報を発信するにあたって、実際に竹原に住まわれてる方をライターとして雇って、記事を書いていただくということなんです

通常は東京や広島のライターさんが竹原に来て、取材して記事を書かれるけど、地元の人が記事を書くことでニッチな情報も伝えられるし、まちの空気感も入れられる。さらに産業振興という視点でも新たな雇用が生まれるのは大歓迎なわけで。それでAVAさんにお願いすることにしたんです

AIという最先端ツールと地元民という土着的視点のハイブリッド。この両極端に同時にトライする方法で、竹原はまちの魅力発信に乗り出したのだった。

すでにライター2名雇用
15本の記事をアップ

 
そのAVA Travelとの協業だが、早くもかなりの進展が見られる。2月中旬の時点で竹原在住の2名のライターを雇用。15本もの記事がAVA Travelのサイトにアップされているのだ。 

AVA Travelのサイト上にはすでにたくさんの記事が上がっている

進捗に関しては順調に進んでます。AVAさんのスタッフも竹原に来られて、地元の情報を一番持ってるケーブルテレビさんやライターさんと打ち合わせして。このコンテンツ制作チームで「どこを取材するか?」「どういった切り口にするか?」と話し合いながら記事を作られているんです

記事はオール「メイド・イン・竹原」。企画の切り口も昭和ノスタルジー、酒蔵めぐり、アクティビティ、お土産スイーツ……といったテーマ別もあれば、日帰り旅行、1泊2日といったスタンダードなものもある。当たり前だがどの記事もオール竹原の観光名所&観光資源で埋め尽くされ、市内を周遊してほしいという願いが丁寧に表現されている。

竹原住民がライターとなってオススメの場所を取材する

外の方から見て「ここがいいよ」という部分を発信してもらえるのもありがたいのですが、逆に外の人は気付かない、住んでいる人しか知らない情報の重要性もあると思うんです。そこは今後もハイブリッドで発信していければいいと思います

現状の課題としては、基本的に雇用したのがいわゆるプロのライターさんではないため、記事の内容に限界があるというか。今後はライター経験のない人を育てていく仕組みづくりも必要かなと感じます

コンテンツ作成と雇用の面で一定の成果は得られた。あとは3月末まで現状の記事の推移を観察し、実際どれくらいの人が竹原に足を運んだのか、そして「記事の内容はもっとコアでニッチな方がいいのか?」といった検証を進めていく予定だ。

細かな報告を求めない
自由度のある支援金

 
今回の「The Meet」に関しては、支援金の在り方がありがたかったと森田さんは言う。

さまざまな切り口で積極的な情報発信を行う

今回、県から1社100万円という支援金をいただきましたけど、必要な書類も多くなく、自由度のある支給だったところがすごくよかったです。スタートアップさんって忙しく飛び回られているところが多くて。今回のAVAさんもそうだし、竹原市のもう1つの案件のOHANAさんもお忙しいので、実証活動に専念できる活動環境に寄り添った支援をいただけて大変よかったです

実証の着実な実施に向けてさまざまな支援をしていく。その落ち着いた信頼感の中で、竹原の新たな観光情報が地元から発信されていく。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

わたくし、町並み保存地区にも大久野島にも行ったことはあるのですが、それが同じ「竹原市」に属しているとは恥ずかしながら取材時まで気付きませんでした。人はなかなか自治体しばりで観光しません。しかし自治体としては自分のまちのいいところをいっぱい味わってほしい。そのギャップをいかに埋めるかが今回の取り組みに表れているのでしょう。

個人的には瀬戸内海を望む呉線・広~三原駅間の車窓の風景が好きで、竹原あたりは白眉だと思ってます。そのネタ、AVA Travelでどうでしょう? ライター求人に募集してみようかな。(文・清水浩司)

・共同事業者:AVA Intelligence株式会社
・活用ソリューション:AI旅行提案サイト「AVA Travel」
・概要:AIによる旅行提案と地元住人による観光コンテンツの発信で、観光需要を呼び込む
・必要経費:100万円(※ライター雇用費、記事作成費など)


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