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【30EGGS】老齢者の転倒骨折をなくす(Magic Shields)

高齢化が進む社会の中で、老齢者の転倒骨折が大きな問題になっている。
国内だけでも2000年以降2倍に急増し、毎年100万人が転倒骨折している。
骨折により自力で移動するチカラを失うことで、QOL(生活の質)はおろか生きる希望すら低下してしまうケースも少なくない。
この高齢者の転倒骨折を世界中からなくしていくことを最初のミッションに設立されたのが株式会社Magic Shields。
社名にもなっている“魔法の盾”がその解決のヒントになる。

「私たちは転んだときだけ柔らかくなる床とマット“ころやわ”を主力商品として創設した会社です。
これまで高齢者の転倒骨折予防にはふわふわのマットが用いられてきましたが、それでは力不足でした。
なぜなら転倒骨折の予防には2つの要素が必要だから。
1つは歩行しているときは普通の床のように固く転びにくいこと。
もう1つは転んだときには衝撃を和らげる柔らかさがあること。
つまり歩行安定性と衝撃吸収生、この相反する2つを共存させたのがころやわなのです」

普段は車椅子の走行にも耐えうる固い素材でありながら、転んだときだけクッションのように柔らかくなる――はたしてそんなことが可能なのかと思うが、同社の営業・カスタマーサポート担当の宝田優子さんによると、ころやわは以下の構造を持っているという。
たとえば紙コップは軽く押しただけでは潰れないが、大きな力が加わるとグシャッと潰れる。
そうした構造体を多数並べることで、人が歩くときの加重ではへこまず、転倒時、瞬間的に強い力が加わったときだけ変形する魔法の新素材が実現したのだ。

ちなみに同社代表取締役の下村明司さん(44)は、前職はヤハマ発動機でモトクロスバイクの車体の衝突やシートの衝撃吸収を研究開発していた人物。
自動車工学の衝突技術を医療介護分野に役立てようと、2019年2月にMagic Shieldsを創業したという背景がある。

ではMagic Shieldsは今回の広島での実証実験をどのように位置づけているのだろう?

「おかげさまでころやわは発売当初から多くの医療機関や介護施設の支持を受けて成長してきました。
しかし社長の想いとしては、日本国内だけでなく世界中にころやわを普及したいたいという夢があります。
そのためには医学的・工学的に本当に効果があるのか、きちんと数値で示さなければなりません。
今回ひろしまサンドボックスは世界的に見ても稀なほどの実証規模を用意してくださったんです。
私たちは多くの医療機関にころやわを使ってもらい、大規模な検証データを取得したいと思ってます」

広島西医療センター、中電病院、中国労災病院、呉共済病院……コロナ禍によって交渉は難航したものの、これまで県内の拠点病院9施設が参加を表明。
提供マットも当初は200枚の予定だったが、医療機関からの関心は高く240枚まで増産を決めた。
さらにD-EGGSの実証実験は10月末で終了だが、各病院との話し合いの中で継続的な情報共有を確認。
ころやわの骨折低減リスクがどれくらいあるか、長期間かけて検証できる体制が着々と整えられている。

「広島の病院の方々はいいところや悪いところを包み隠さず報告してくれるのがありがたいですね。
大都市圏だともっとドライな対応になると思うのですが、『今日はこんなところに敷いてみました』と看護師長自らがメールをくれたり、改善点を指摘してくれたり。
本当に明るい方が多くて助かってます」

そもそもMagic Shieldsは代表取締役の下村さんが、祖母を転倒骨折で亡くしたところから事業がスタートした。
自身が痛感した転倒骨折の怖ろしさ、転倒によって発生する家族の介護の大変さ。
会社のミッションには「転倒による骨折から高齢者とその家族を守り、最期まで尊厳を持って生きられる社会を実現する」と掲げているが、実体験に基づくだけにその言葉には強い説得力がある。

「私は下村の熱意に惹かれてジョインしたのですが、実は私自身も骨粗しょう症を抱えていて、人生で9回ほど骨折を経験しているんです。
だからころやわを世界中に広めることは、みんなのためでもあり私自身のためでもあるんです」

同じ痛みを知る者同士がタッグを組んで、理想を目指す。
社名に冠された“Magic Shields=魔法の盾”とは一丸となって夢へと向かう、このチームの団結力を指すのかもしれない。

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