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「殺処分ゼロ」から「保護犬・保護猫ゼロ」へ【RING HIROSHIMA】

2011年、広島県は保護犬・保護猫の殺処分が全国1位を記録した。

平和都市を擁する県がはたしてそれでいいのか?――多くの人の努力の結果、広島県は2016年以降、殺処分ゼロを継続している。

しかし表面上は成果が出ているように見えるこの動きだが、問題の根幹は何も解決してないという人もいる。

「殺処分ゼロ」から「保護犬・保護猫ゼロ」へ――このプロジェクトが提起する“不都合な真実”とは一体何なのだろう?

CHALLENGER「ワンハート制作委員会」古賀木綿子さん

「殺処分ゼロ」は達成されているが
それは“イビツな解決”にすぎない

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最初にRING HIROSHIMAの募集を見たとき、私たちがやっているような慈善活動を取り上げてもらえるかわからなかったんです。ただ、文面の中の「山積する社会問題を解決」という文字が飛び込んできて。私は事業主ではないけど、何かできるかもしれない。現状を知ってもらうだけでも意味があると思って飛びつきました

2012年、古賀木綿子(こが・ゆふこ)さんが立ち上げた「ワンハート制作委員会」は東広島を中心に動物の殺処分撲滅に関する啓発活動を行う団体だ。

もともとピアニストとして活動していた古賀さんは東日本大震災を機に被災動物の現地保護ボランティアと繋がり、西日本からの支援を開始。そこから地元のFM東広島で「ワンハートニャンハート」を企画・制作するなど動物福祉にまつわる情報を発信してきた。

精力的な活動もあって現在広島県は「動物殺処分ゼロ」を達成。一見目標は叶えられたように見えるが、古賀さんにしてみれば、これは“イビツな解決”なのだという。

確かに「殺処分ゼロ」は重要なのですが、今の活動は殺処分をなくすことだけにピントを合わせていて違和感を感じます。実際、県の動物愛護センターが収容する犬の頭数は変わっていません。捨て犬や餌やりをされている野良犬は放置されたままなのです。

私たちワンハート制作委員会は、もっと手前の飼い主側の意識変革を重視しています。きちんと犬の生態を知り、しつけを行うこと。それによって施設に持ち込まれる捨て犬や野良犬を減らして「収容頭数ゼロ」を実現し、その結果として「殺処分ゼロ」が成立すると思うんです

「殺処分ゼロ」といっても現状は“遺棄⇒保護⇒譲渡”をやみくもに繰り返しているだけ。それよりも飼い主教育を徹底することで、事態の源流にある遺棄という行為自体をなくしたい――それが古賀さんの主張なのだ。

平木さん近所で②

SECOND① ドッグトレーナー・上野貴子さん

広島は漁港が多く野良犬が多い地域
犬の生態を知ってもらうことが必要

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さて、そんな古賀さんをサポートするのがドッグトレーナー歴17年の上野貴子(うえの・たかこ)さん。動物福祉にドッグトレーナーというまたとない組み合わせ。おまけに上野さんも古賀さんと同じ東広島市在住だ。

私はドッグトレーナーとしてワンハートさんのお手伝いをしたりすることもあるんです。野犬の里親探しをするときの性格診断とか、仔犬の育て方教室とか

「ワンコを救いたい!」という古賀さんの想いを、ドッグトレーナーという立場から専門的に支えるのが上野さんの役割のようだ。

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他地域では飼い主が遺棄する犬が多いんですけど、広島は野良犬が多いんです。それはこの地域に漁港や田畑があって、野良で生きやすい環境があるから。そうした犬は人に飼われた経験がないから保護しても家庭犬にするのが大変で。そうした飼い主さんへのケアや、犬猫に関わる人たちにもっと犬について知ってもらうことが必要だと思うんです

想いはひとつ、「もっと犬の生態や実態を知ってほしい」――そんな2人の前に2人目のセコンドがあらわれた。

SECOND② 国立研究機関の産学連携担当・郡司裕一さん

もうタッグが組まれてるじゃん!
僕はいいんじゃないの?(笑)

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ぱっと見て「古賀さんと上野さん、タッグが組まれてるじゃん! 僕はもういいんじゃないの?」って感じはありました(笑)

RING HIROSHIMA事務局の差配でこのプロジェクトに合流することになった郡司裕一(ぐんじ・ゆういち)さん。

郡司さんは30年近く化学メーカーに勤務した後、現在は物質・材料分野のライセンス契約を担当。犬に対する愛着も知識もない。住んでいるのも広島ではなく埼玉——最初はひとりだけアウェイな環境に放り込まれた感じだった。

犬に関してもみなさんのこともまったく知識がないので、とりあえず毎週Zoomミーティングを行うことにしました。関係者10人くらいでとにかく意見を出してもらって。

僕は問題解決のための重要な知識って、すでにチームメンバーが持ってることが多いと思うんです。ただお互い共有してないだけで。そういうときに会話の中で“セニョリータ”って言葉が出て、「セニョリータって何?」ってなって――

一体何なんだセニョリータ?

郡司さんが目を付けたそのギモン。そこからプロジェクトは急速に進展していく。

東広島に根差した地域タレントを
作って世界に出ましょう!

2021.11 START! 啓発CMを作る、セニョリータをインフルエンサーにするという2つの目標を設定
2021.12 セニョリータの動画を作成することが決定
2022.1 SNSの登録者数や閲覧数を目標に掲げる
2022.2 番組の放送、動画のアップ ←NOW

さて、セニョリータとは何者か?――という話の前に、ここまで読んだ方はお気づきのように、ワンハート制作委員会、「ペット飼育者の意識を向上させたい」という強い情熱はあるものの、「じゃあそのために何をするのか?」ということに関してはかなり漠然としていた。

ぼんやり頭にあったのは「ACジャパンのCMみたいな啓発CMを作ってテレビで流したい」くらい。それを郡司さんが外部から見て、具体的なカタチに整えていった。

まず思ったのは、ワンハート制作委員会を法人化すること。今は古賀さん個人でやってるけど、会の目標の実現には、息の長い取り組みが必要で。そのためにも継続的に活動できる組織にすることが大事な過程だと思ったんです。まずは一般社団法人を設立し、さらに、今後寄付を募るためには税金が控除される公益社団法人を目指した方が絶対いい。

あと、啓発に関しては、セニョリータという高校生お笑いコンビがいるらしい、と。で、動画を見たら見た目もかわいらしくて、スター性もある。それで「東広島に根差した地域タレントを作って世界に出ましょう!」と提案させてもらいました (郡司)

そう、セニョリータとは東広島出身のお笑いコンビ。郡司さんは彼らを動物愛護啓発芸人としてプロデュースし、インフルエンサーにすることで啓発活動を推進しようと考えたのだ。

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(セニョリータの2人。右から“いぶき[内田歩輝]”くんと“とうた[森尊汰]”くん)

2人は私たちの希望の星で、中学生の頃から知ってて。私たちの広めたいことを積極的に理解してくれる存在。でもそれをインフルエンサーにするという考えはこれまでなくて。郡司さんがマーケティングの手練手管を教えてくださった感じです (古賀)

きっとRING HIROSHIMAの事務局は私と古賀さんだけに任せたら危険だと思って、釘を刺す意味で郡司さんを置かれたと思うんです(笑)。郡司さんはスケジュールを決めたり、宿題も出してくれて。法人化のための定款も、私たちだけだとあんなスピードではできてないですから (上野)

郡司さんの実務能力によって俄然推進力を増したプロジェクトは以下の3つを実行する。

① ワンハート制作委員会の法人化
② 啓発のためのCM作成
③ セニョリータを主役に立てた動画作成

①に関しては無事完了。②はテレビ新広島に持ち込んだところ、「15秒じゃ伝わらない」ということで番組内のワンコーナーに昇格。『ワンわんワンダフル』という番組内で放送された。

③もYouTubeで動画を発表。実証実験ではTwitter、Facebook、InstagramなどSNSを使ってアンケート調査を行ったり、フォロワー数の推移を見ながら啓蒙活動を実践していくことになった。

私たちが増やしたいのは、本当にこの活動を理解して、一緒に進んでくれる人。実証期間中に結果が出るとは思ってないし、むしろ私たちの実証期間と開き直って進んでいくつもりです(笑) (古賀)

今回の活動はワンハート制作委員会にとっての新たなスタート――そう話す古賀さんの表情がほころんだ。

最後にセコンドから強烈なサプライズ
「実は〇〇〇〇したいんです!」

それにしても地元の当事者2人と遠方のビジネスマン1人、「2+1」の不思議な形態となった「保護犬・保護猫ゼロ」プロジェクト、意外とナイスな組み合わせになってる気がするが本人たちはどうなのだろう?

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これまで私は動物愛護や福祉をやってる人とだけ話をしてきたんですけど、それでは視野も狭くなるし、問題を絶対解決できないんです。郡司さんはそれに大きな風穴を開けてくださったというか。これをきっかけに「東広島ができるんなら私たちもできるじゃん!」って全国にこの動きが波及していけばいいと思います (古賀)

実証実験は2月に終わるけど、その先も期待感があるんです。こうした活動を続けることで、もっと全国に枝葉が伸びて、専門的な知識も広がっていくと思うし。郡司さんのおかげで小さな船が少しだけ大きくなった気がします。エンジンが付いたというか(笑) (上野)

――と柔らかなトーンで取材も終了に近づいたところで、最後の最後、郡司さんが意外なサプライズを投下した。

実は僕にはまだみなさんと共有してない野望がありまして……いま作ってる動画が溜まったら、それをアニメ化したいんです! イメージ的には『はたらく細胞!!』。これが勉強になる上に楽しいんです。

ワンハート制作委員会を法人化する最大のメリットは、契約ができること。今後は社員として契約担当にしてもらって、ぜひ著作権を扱った上でアニメの制作ができればと思うんです! (郡司)

アニメ化……とりあえず『はたらく細胞!!』観ておきますね (古賀)

『はたらく細胞!!』ってコレ?

クライマックスで風雲急を告げはじめた、このプロジェクト。

え、「保護犬・保護猫ゼロ」がこんな感じでアニメになるの? マジで? RING HIROSHIMA発のワンニャン愛護アニメーション?

その行き先は、まだ誰も知らない。

(Text by 清水浩司)


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