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究極の地球エネルギー「微生物発電」が未来を変える【RING HIROSHIMA】

スタートアップ企業の中には最先端のテクノロジーを武器に新時代を切り拓くものが少なくない。だがこのプロジェクトの基幹技術を聞いたときは驚いた。微生物で発電ができる? 田んぼに電極を挿すだけで電気が作れる? ンなアホな。そんなのできたら石油も原子力も不要じゃないか。しかしこれができるんデス。頭のいい人にダマされてるんじゃないかと思うような夢の技術=微生物発電を用いたプロジェクト――えーっと、詳しいお話聞かせてもらえません?

CHALLENGER「株式会社なんでもエネルギー」余島 純さん

 
にわかには信じがたい話だが、微生物発電というのが可能なのだそうだ。植物と共存する微生物が有機物を分解する過程で電子を放出する「発電菌」なるものが存在するという。

詳しいことはナゾであるがともかく微生物発電は可能であり、今回のチャレンジャー・余島 純(よしま・じゅん)さん率いる「株式会社なんでもエネルギー」はそれをブラッシュアップ。微生物が土中にいても海水にいても淡水にいてもその放電能力を吸収できるようにし、さらにとある技術と組み合わせて発電量の大幅アップを実現した。

「なんでもエネルギー」のメンバーは多種多様で、余島さんの他、工学博士である呉高専・及川栄作教授、滋賀県西浅井を拠点に米づくりからまちづくり、環境・教育事業、家業の建設・建築まで実業家としてマルチに活躍する清水広行さん、木質バイオマスエネルギーの専門家の久木裕さん、発電・エネルギー×地方創生の専門家である本村勇一郎さん、海の共通課題の解決を目指す今井道夫さん……などなど。微生物と同じく、多種多様なジャンルやプレイヤーとの連携によりイノベーションが起きやすい環境を構築している。ちなみに福山市出身の余島さんは20代、教育畑を歩いてきた方だ。

中学生ぐらいから自分で学校を作るのが夢で。育ったのが福山の荒れた地域で、ヤンチャな友達が多くて。そういう人たちをなんとかしたいと思って「じゃあ学校経営だ!」って思い付いたんです。それで大学を休学して島根県隠岐諸島の教育魅力化プロジェクトに関わり、25歳の時に独立して広島県教育委員会さんや経産省さんと一緒に教育カリキュラムを作ってました

余島さん


「学校を作る」という夢から微生物発電に辿り着いた

教育に関わる仕事をしてた時に出会ったのが、微生物発電の研究者である及川先生。そして教育から発電へ――しかしそれは自然な流れだと言う。

学校を作るにしてもそこで使うエネルギーを自産自消できればコストが大きく減りますよね。あと、今の子供たちの将来を考えた時、現状のエネルギーと自然エネルギーを活用した教育環境、どちらが場全体として教育的効果があるか。僕は全部教育に繋がると思うし、「要は将来に何を残すのか?」ということがテーマになれば地域資源であるエネルギー自体も重要な学習教材になると考えています。

でもこれまでエネルギーは消費するもので生産するものとしては考えづらかったし、エネルギーは見えづらいし、わかりにくい分野でした。僕はこの微生物発電などのエネルギーを生産するプロセス自体が、子供、大人も含めて教育や人材育成にも使えるし、それが引いてはマーケットを育てることになると思うんです

余島さん

 とにかくスゴイ「微生物発電」と「教育」のマッチング。この組み合わせは一体どんなスパークを生むのだろう?

 

SECOND 樗木勇人さん


さて、このプロジェクトにセコンドとして付いたのが樗木勇人(ちしゃき・はやと)さん。日本フリーイノベーション協会の創始者にしてRING初回から参加。そのモーレツなバイタリティで信頼を集める「チシャッキー」は、RINGで携わった「One Smile Foundation」から派生した「株式会社One Smile Tech」でも取締役に就任するなどRING内外で大暴れ中である。

 そんなセコンドプロの樗木さんは今回のプロジェクトをどう見たのだろう?

 話を聞いて衝撃を受けました。技術的にすごいし、会社のビジョンも素晴らしい。正直One Smile~に初めて会った時と同じレベルのものを感じました。ただ、One Smile~は辻(早紀)さん1人で走ってたので自分がお手伝いできる余地がかなりあったけど、「なんでもエネルギー」は研究者の及川先生も共同代表の清水さんもいてすでにチームとして完成している。なのでセコンドに決まった時、僕、余島さんに正直にお伝えしたんです。「僕に何ができますかね?」って(笑)

樗木さん

 「なんでもエネルギー」が設立されたのは2023年9月。まだできて間もないが、樗木さんの目には完成度の高さが見て取れた。そんな中で見い出した今回の併走法は―― 

ここに足りないのはしいて言うなら言語化だな、と。やろうとしてることはすごいけど、そのすごさがまだまわりに伝わってない。一方余島さんたちは当事者だから何がどうすごいのかわからない。なので僕の役割は、大学の方、子供たち、市民、行政の方、メーカーの方……それぞれの目線に合わせて言葉を紡ぐことだと思ったんです

樗木さん

 ちなみにこの役割はRINGでの経験が影響してるという。

 RINGでセコンドをやらせてもらった3年間で僕が磨くことができたのは「あたかも自分が思い付いたかのようにしゃべれる技術」。いろんなスタートアップの人に「一緒にミーティングに出てください」って言われてるうちに、いつの間にか「一緒に創業しました!」くらいのノリでしゃべれるようになったんです(笑)。でも実際、そういう潤滑油がないと創業者のパワーやスピードが伝わりにくい場面もありますからね

樗木さん

さすがに3年目ともなるとセコンドとしての引き出しも多様である。そして両者は実証実験のRINGに上がったのだった。

 

微生物発電で水耕栽培を実現
コンポストは教材キットに

 
今回のRING HIROSHIMAで検証する内容は以下である。

私たちがやろうとしているのは2種類あって。1つは微生物発電と水耕栽培を組み合わせたもの。微生物発電は水質を良くする効果も見込めています。液体肥料の代替としても活用できる可能性があり、コストの削減を図ります。もう1つは微生物発電とコンポスト(生ごみや落ち葉を発酵させて堆肥に変える装置)を組み合わせたキットの開発。前者は庄原市で、後者は呉や江田島で実証を進めています

余島さん

 水耕栽培については共同代表の清水さんの関心事だろう。若者の就農人口の減少、地域経済の減退を防ぐため、いかに効率のいい農法を開発できるか。

水耕栽培の様子

今回の実証実験では庄原市に出向き、水耕栽培に有効な作物をヒアリング。「なんでもエネルギー」としては限られた水資源の活用と、水不足による収穫量減退の問題に関心を寄せている。今後は実際に生育を行い、具体的な収益の増減をチェックする予定だ。

 コンポストとの組み合わせは、学校用の教材キットとしての販売を目指している。生ごみから電気が作られるというワクワクする学習教材。これに関してもヒアリングを行い、小学校4年~中学校、高校でも活用できる手応えを得た。

落ち葉から電気ができる…子供たちも興味シンシン

ビジネス的にはこうした知財を元に、パートナーと商品開発を行い収益拡大に貢献すること、弊社の他の事業と組み合わせて自治体や企業の地方創生事業や脱炭素事業に貢献することなどを考えています。あとIoTセンサーや屋外照明などの主電源として用い、自然環境データやエネルギーデータの計測を行って調査データを販売するモデルも検討しています

余島さん

 短期的に取り組む課題は明確です。技術は順調に進んでるので、ビジョンに対して聞き手が引かないようにする。「すごいなぁ!……でも私はどうしたらいいんだろう?」って人を減らすというか、技術の敷居をどれだけ下げられるか。この技術は誰もが使える安全で素晴らしいものだと知ってもらい、「私もやってみたい」と思った時に手に取れる状態を作る。これまでRINGのセコンドとして得た経験やネットワークをここで活かしていければと思います

樗木さん

詳しいことはよくわからないが、なんだかスゴイ技術であることは確かそうな微生物発電。あとはいかにそれを一般化していくか。近い将来、農やエネルギーの分野で広島から大きなイノベーションが起こるかもしれない。

「広島を盛り上げる」のではなく
「広島から日本を盛り上げる」


最後に2人にRING HIROSHIMAという取り組みについて聞いてみた。「非常に素晴らしいプログラム」というお褒めの言葉の後に出てきた提言が面白かったので、そのまま掲載しよう。

 事業の道しるべを定めるまでがRING HIROSHIMAだと思うけど、その後離陸(=事業化)するとなった時、離陸に必要な馬力って桁外れですよね。それをサポートするカタパルトのようなシステムがあるといいと思うんです

樗木さん

 それって「広島を盛り上げる」のではなく「広島から日本を盛り上げる」という発想が組み込まれてるかどうかだと思うんです。広島を盛り上げる地域密着型企業はたくさんいるけど、次の世代に何を残すか。広島を背負って頑張る企業にももっとサポートがあるといいですね

余島さん

 たぶん県としてはじめたRING HIROSHIMAって、広島県が思うよりずっと評価されてるんです。県は「新しい企業を育てたい」「新しい社会価値を創造したい」という想いでスタートしたけど、この3年で経営者もセコンドも成長してきた。その成果や学んできたことを県と共有できれば、もっと素晴らしいエコシステムに発展していく気がします

樗木さん

継続は力なり。3年目のRINGは、これまでの蓄積を足掛かりにして新しい展開を見せようとしている。新人チャレンジャーと既存のセコンドの組み合わせは、果たしてどんなストーリーを描くのだろう。



●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

 
私自身RINGの取材をはじめて3年目になりますが、今年はRINGが新段階に入ったことを実感します。初回から参加し、経験を積んだ「名物セコンド」が増加する一方、セコンド同士の横のつながりも定着。それにより、どのプロジェクトも挑戦者とセコンドのタッグを超えた広がりが見られるのです。まさにさまざまな個性派キャラクターが八面六臂で活躍する「RINGユニバース」の誕生! 今年も手に汗握るナイスバウトの数々を紹介していきます。

(Text by 清水浩司)


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