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高齢者専門…ではなく「65歳以上専門」の不動産会社【RING HIROSHIMA】

健康で家賃も充分払えるのに、年齢が高いだけで賃貸契約を断られる。そんな社会を変えたいと生まれた、小さな不動産会社が「株式会社R65」だ。社長は広島県福山市出身の31歳男性。「高齢者専門、ではなく65歳専門」とあえて言うのには理由があって…。

CHALLENGER「株式会社R65」山本遼さん

高齢者歓迎ではなく
普通の物件に高齢者も入れる。
それが大事だと思っています

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高齢者さんだとお部屋が決まらない、というのは不動産業界の潜在的な常識になっているところがあって。健康状態が悪いわけでもない、ある程度の年収や貯蓄がある、僕らとそんなに変わらない人でも決まらない。自立して働けている人が、年齢を理由に入居を断られるのがショックで…。今後僕たちが同じように年を取った先には、『好きな住まい』がないのかもしれない。そこに自分のできることは何かないだろうか、と考えました」

今回紹介する山本遼さんは、広島県福山市に生まれ、大学進学を機に愛媛県へ。地元の不動産会社に就職したのち、東京の営業所に転勤になる。その時出会った80代の女性客を案内した際、都内で200件打診しても5件しか受け入れる物件が見つからなかったことに衝撃を受けたという。

この出来事を機に、それまでいた不動産会社を退職。2015年、65歳以上専門のお部屋探しを謡う「R65不動産」を立ち上げた。現在は東京都杉並区に事務所を構え、事業を行っている。

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(エリアをはじめさまざまな条件から全国の物件を探すことができる)

登録物件は関東圏を中心に、北海道から九州まで幅広く存在。しかし、1県に数物件というエリアも多い。そして広島県内の物件は2022年2月現在0件だ。今回のチャレンジでは、広島県内の物件を開拓するため、地元不動産業者との連携や、行政を通じた利用者へのチラシ配布などを行っていく。

「地方の物件に関しては、現地のパートナー不動産会社さんと連携して掲載をしています。一昨年から始めた取り組みですが、『載せて終わり』みたいになっていたのが正直なところで…。物件の場所もけっこうばらばらなんですよね。物件の密度が高いエリアを作ってみたくて、広島で挑戦することにしました」

「R65不動産」の取り組みは、現在のところ以下の3つ。
〇65歳以上も入居できる物件の仲介
〇65歳以上の入居希望者の募集
〇孤独死などを予防するための見守りサービスの導入

見守りサービス「R65あんしん見守りパック」は電力会社と連携して開発した商品で、例えば冷蔵庫の開け閉めの回数など、電力の総量を計測することで、第三者である不動産会社が入居者のプライバシーを侵害することなく安否確認できるというもの。こうしたサービスがあれば、入居者はもちろん大家さんや不動産会社も安心だ。

「当初は、実証期間が終わる2月末までにパートナー不動産会社さんや大家さんとの交渉を終え、見守りサービスの導入などを始める予定でしたが、コロナ禍もありやや遅れています。でも、現在3社の不動産会社さんとのやり取りが進んでいて、めちゃめちゃいい手ごたえを感じています。皆さん、ビジネスとしての側面だけでなく、福祉的な面での必要性を感じてくださっています」

山本さんが起業をした2015年頃から比べると、社会の状況も変わりつつあり、高齢者に物件を賃貸することへの抵抗感は確実に下がってきているという。実際、身の回りの60代、70代は、まだまだ元気な人が多いという印象は誰もが受けるところではないだろうか。

「僕らは『普通の物件でも高齢者さんが入れますよ』ってことが大事だと思っています。例えば、バリアフリー設計にすることによって普通の若い人が入居できなくなるとちょっと違うのかなと…。社名にも表れているんですけど、『高齢者不動産』じゃなくて『R65不動産』。あくまで65歳以上の方のための不動産会社なんです。元気で家賃の支払い能力もある普通の人が、普通の物件を普通に借りることができる。そういう社会を目指しています」

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(高齢者の賃貸問題について知ってもらうための講義なども行っている)

SECOND 進矢光明さん

「R65不動産」を知った時
すごくワクワクして…

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「お年寄りは家を借りにくいという課題があることはボンヤリ知っていましたが、『R65不動産』の存在は今回初めて知りました。聞いた時何か…ワクワクしたんですよね! 誰かの困りごとを解決する取り組みだなと。広島は空き家問題も抱えているし、いいマッチングだと思いました。年齢が上がっても豊かな人生を送れる人が増えるなら嬉しいし、それを自分がサポートできるならいいなあと。『俺、R65不動産を広めたんだよ!』って言いたいですよね(笑)」。

山本さんのセコンドに就任した進矢光明さんは、広島県民なら誰もが知る交通会社「広島電鉄」の社員。コロナ禍で収益状況などが変化するなか、これまでの業務を効率化しようと自ら名乗り出て、2021年春に新部署「DX戦略室」を立ち上げた。

現在は、社内業務のDX化を進めながら、新たなビジネスの種を求めて仲間たちと模索を続けている。今回のセコンドには、会社員としてではなく一私人としてエントリーした。その動機は、サラリーマンなら誰もが一度は感じる(?)、シンプルな気持ちだった。

会社内でそれなりにやれていても、社外の人と話すと『レベル高えな~!』ってなることありませんか? 知らない世界に入ってみたいって気持ちが大きかったかな。セコンド募集の情報を知人に聞いて、面白そう!と思ったのが参加動機です(笑)」

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TALK ABOUT “RING HIROSHIMA”

数年間広島に移住してもいいかな?と
今ちょっと考えているんです

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――広島県出身ではあるものの広島市内の土地勘があまりない山本さんと、広島の地理状況は知り尽くしているとも言える交通会社勤務の進矢さん。お互いの印象や、タッグでの取り組みなどについて話してもらった。

山本さん:失礼かもしれないけど、進矢さんと初めて接した時には…変な方だな!って思いました(笑)。

進矢さん:マジで!?(笑)

山本さん:私人として参加されているうえ、広島電鉄さんの方はもちろん、いろいろな方をご紹介くださって…。進矢さんのおかげで繋がることができた不動産会社さんもあって、公私ともにアクティブな方という印象です。そういった意味で「変な方」ってことですね。

進矢さん:社内の人間紹介しましたっけ?(笑)そうか、不動産部門の人間とか、あと広告関係ですね。

山本さん:そうです。広島に行ってみて、広電さんのバスや電車をいっぱい見る機会があって、ああ地域の足になっているんだ、自分で運転できないご高齢の方も多いんだなと実感しました。徐々に様子を見ながら、交通広告とかも将来的にはできたらいいなと思っています。

進矢さん:こうして3カ月一緒に取り組んでも、最初に感じたワクワク感は続いています。やっぱり自分で事業されている方って、サラリーマンにとってはすべてが刺激です。4人しかいない会社で、この事業を面的に広島で広げようとしているのがまずすごいですし。

山本さん:僕にとって一番の変化は、進矢さんのように広島県内でずっと働かれている、しかもアクティブな方とご一緒することが、うちの会社にとって大事だと気づけたことです。正直、東京と同じようにやれば地方でもできるだろう、という見立てでやってきたんですけど、そうではなかった。広島モデル、廿日市モデル、というようなやり方があるんだと気づけました。

進矢さん:私自身の学びも大きいです。広島電鉄って民間企業だけど、行政機関や大き目の会社さんとやり取りすることが多い会社なんです。だからこういうことをするならこの部署に行ったほうがいい、みたいなことが、私に限らずうちの社員ならなんとなくわかる。でも、山本さんの感覚は…失礼ですが全然そうじゃなくて。ああ、自分の経験は、何か新しいことをやるときに武器になるのかも、価値を生むのかもと思えました。

山本さん:これまで行政の方に賛同してもらうのに、どう働きかけるのがいいのかわからなかったんですが、RING HIROSHIMAという県の枠組みの中でやれる動きやすさもあり、自分たちだけでやるんじゃできないスピード感で物事が動いていくのも嬉しいことでした。

進矢さん:でもね、本音を言うとちょっと焦ってるところもあるんです。RING HIROSHIMAの他チームのセコンドと話すと「わ!そんな進んでんの!?」って驚いたりして…。

山本さん:僕も実は一瞬焦ってたんですけど、いまは落ち着きました! 広島の皆さんが、実証期間が終わっても一緒にやろうとお声がけくださっているので…。僕自身、数年間広島に移住してもいいかな?と今ちょっと考えているんです。東京と広島の二拠点生活で。腰を据えて、長いスパンで進めていきたいです。

EDITORS VOICE 取材を終えて

やる気に溢れていきいきとした進矢さん、おっとりしているけど強い芯を感じる山本さん。実際に会ったのは一度だけだそうですが、お二人の間に流れる友達のような空気感がとてもいいなと感じました。あと、進矢さんが感じている会社員ならではの感情が、個人的には「あるある」でした…。山本さんが広島に住んで、今はゼロ件の「R65不動産」のサイトの中に、広島の物件が溢れる日が楽しみです。(Text by 山根尚子)

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